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大学共同利用機関法人 自然科学研究機構

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プレスリリース概要

2022.01.19

高度な社会性を持つシロアリのゲノム情報を解読 〜遺伝子重複が社会性進化の原動力であることを明らかに〜

自然科学研究機構 基礎生物学研究所
富山大学
東京大学大学院理学系研究科
慶應義塾大学
琉球大学
 
シロアリは家屋に被害を与える害虫として知られますが、洗練された階級(カースト)制を特徴とする昆虫で、社会性の進化を研究するための卓越した研究材料です。シロアリはコロニーの中に、形態も役割も異なる個体、すなわち女王と王、兵隊、ワーカーが分業と協働を行い、コロニーの繁栄に寄与しています。このような高度な社会性の進化をもたらした機構を解明することは、現代生物学の重要課題のひとつとされています。

今回、基礎生物学研究所の重信秀治教授、慶應義塾大学の林良信専任講師、富山大学の前川清人准教授、東京大学の三浦徹教授、琉球大学の徳田岳教授、北條優研究員らを中心とする研究グループは、日本に広く分布する「ヤマトシロアリ」のゲノム情報の解読および、カースト別の大規模遺伝子発現解析に成功しました。その結果、シロアリの社会性の進化には遺伝子の重複が重要な役割を果たしていることが明らかになりました。重複した遺伝子はカーストごとに発現パターンが異なる傾向があることがわかりました。そのような重複遺伝子には、化学コミュニケーションや社会的免疫・防御などの社会性に関連する機能を持った遺伝子が多くみられました。遺伝子重複が進化的イノベーションの原動力であることは、進化生物学の専門家の間では広く受けいれられている考え方ですが、本研究は、遺伝子重複と社会性進化の関連をゲノムワイドの情報で証明した点で極めて画期的と言えます。ヤマトシロアリは日本の住宅に最も被害をもたらすシロアリの一種でもあるので、今回得られたゲノム情報は防除のための基盤情報としても非常に有用です。本成果は2022年1月19日に、米国科学アカデミー紀要(PNAS)誌にて発表されました。

fig1.jpg 図:
ヤマトシロアリ(用語解説1)の発達初期のコロニーメンバー。中央の黒い2個体が翅を落とした生殖虫(女王と王)で、残りの個体は彼らの子供たち。左端の大きな顎を持つ個体が兵隊で,他はすべてワーカー。兵隊やワーカーには眼や翅はない。