
基礎生物学研究所
生物学は生物、物理、化学の成果が垣根なく取り込まれた分子生物学研究によって飛躍的な発展を遂げてきました。そして、1970年代に遺伝子を操作する技術が導入されると、生物学が社会と密接な関わりを持つようになり、生命科学(ライフサイエンス)という、医学、薬学、農学、社会科学などを含む広い研究分野を指す言葉が定着してきました。基礎生物学研究所は1977年に設立された50年近い歴史を持つ研究所です。現在の生命科学は遺伝子操作技術導入以来の大きな変革期を迎えています。このような中、生命科学の応用・イノベーションへの期待は大きいのですが、長期的に重要なことはイノベーションを進めるに値する、イノベーション以前の種を拾い発芽・成長させることです。応用研究の一例として創薬がありますが、その種となる化合物には天然物に由来するものが多くあります。天然化合物は進化を経た生物の代謝の仕組みを使って産生されていますので、天然化合物も進化を経験しています。このような天然化合物がどうやってできたかを知る生物学の研究は、イノベーションの基礎になっています。
基礎生物学研究所は設立以来、多様な生物種を対象にした基礎的な生物学研究を強力に進めてきました。そして、大学共同利用機関として、研究者への共同研究の場の提供、先端の研究機器の利用促進、さらにはトレーニングコースによる先端解析技術の普及を行って研究者同士の交流を進めています。また、国内外の先進的な研究拠点との学術交流を進め、国際的に活躍する若手研究者、総合研究大学院大学に所属する大学院生の育成を進めています。
イノベーション創出に資する種の発見において根源的に重要なのは、生物に対する素朴な疑問に向き合い解明する研究を深化させることでしょう。基礎生物学研究所は、生物学的に重要な疑問に対して最先端の研究手法で果敢に取り組み、進化を経て生物が保持した豊かで心躍る“生物知”を発見することを目指しています。生命科学の変革期であればこそ、新しい生物学の潮流を生み出すべく挑戦する基礎生物学研究所に、皆様のご理解とご支援をいただけますようどうぞよろしくお願い申し上げます。
2025年4月1日
基礎生物学研究所長 三浦 正幸