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大学共同利用機関法人 自然科学研究機構

基礎生物学研究所

研究所概要

所長挨拶

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昨年4月に基礎生物学研究所に着任し、早いもので1年が経ちました。36年ぶりに戻った岡崎では、研究所を囲む木々が大きく成長しており、時の流れを実感しています。住宅地の中にありながら豊かな自然に恵まれたこの地で、着任当初は若いウグイスが懸命に歌を練習する声を聴いていました。今年の3月半ばには、親世代になったウグイスの見事な「初音」が響いていて、鳥の鳴き声を通して年度の移り変わりを感じています。


かつて分子生物学がファージや大腸菌の研究に集中した結果、遺伝子発現の「セントラルドグマ」が示され、「大腸菌で起こることはヒトでも真実である」という生命機構の普遍性が明らかになりました。この成果は強烈で、特定のモデル生物に集中して研究するスタイルが確立し、生物に共通する分子機構の理解を飛躍的に進展させました。当研究所が創立された1977年は、まさに組換えDNA技術の導入により、研究の進め方が大きく変化し始めた時代でした。それから半世紀。現在は、生物を「物質」としてだけでなく、ゲノムという「情報」として読み解く技術が高度に発展しました。今や種を超え、あらゆる生物からゲノム情報を書き出せる時代を迎えています。


地球上には約870万種の生物が存在すると推定されています。これほどの多様性が維持されているのは、ゲノム情報の差異だけではなく、環境に応じてそれらを柔軟に使いこなす仕組みがあるからに他なりません。人類学者のクロード・レヴィ=ストロースは、先住民社会の分析を通じて「bricolageブリコラージュ(器用仕事)」という概念を提唱しました。これは、あらかじめ設計図を用意するのではなく、その場にあるものをうまく組み合わせて新しい仕組みやものを作っていくことを指します。未開なものからより優れたものへと発展する一本道ではなくて、状況変化の中で利用できるものを組み合わせていくことで、十分に優れた仕組や良いものを生みだすことができるのです。生物が新たな遺伝子変異を待たずとも過酷な状況に対応できるのは「ブリコラージュ」を実践しているからではないでしょうか。


生命を解き明かす研究手法が日進月歩で進んでいて、モデル生物から普遍原理を探求する研究に加え、これまで光が当たってこなかった多種多様な生物から「ブリコラージュ」の術を引き出す研究に挑戦できるようになってきました。人間の想像を遥かに超える「生物知」に出会える新しい研究の潮流が動き出しているのを感じています。ウグイスは親から歌の学習を始めますが、これからの生物研究は教師も学生も手探りの面白いステージにあります。


2026年4月1日 
基礎生物学研究所長 三浦 正幸

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生物学は生物、物理、化学の成果が垣根なく取り込まれた分子生物学研究によって飛躍的な発展を遂げてきました。そして、1970年代に遺伝子を操作する技術が導入されると、生物学が社会と密接な関わりを持つようになり、生命科学(ライフサイエンス)という、医学、薬学、農学、社会科学などを含む広い研究分野を指す言葉が定着してきました。基礎生物学研究所は1977年に設立された50年近い歴史を持つ研究所です。現在の生命科学は遺伝子操作技術導入以来の大きな変革期を迎えています。このような中、生命科学の応用・イノベーションへの期待は大きいのですが、長期的に重要なことはイノベーションを進めるに値する、イノベーション以前の種を拾い発芽・成長させることです。応用研究の一例として創薬がありますが、その種となる化合物には天然物に由来するものが多くあります。天然化合物は進化を経た生物の代謝の仕組みを使って産生されていますので、天然化合物も進化を経験しています。このような天然化合物がどうやってできたかを知る生物学の研究は、イノベーションの基礎になっています。


基礎生物学研究所は設立以来、多様な生物種を対象にした基礎的な生物学研究を強力に進めてきました。そして、大学共同利用機関として、研究者への共同研究の場の提供、先端の研究機器の利用促進、さらにはトレーニングコースによる先端解析技術の普及を行って研究者同士の交流を進めています。また、国内外の先進的な研究拠点との学術交流を進め、国際的に活躍する若手研究者、総合研究大学院大学に所属する大学院生の育成を進めています。


イノベーション創出に資する種の発見において根源的に重要なのは、生物に対する素朴な疑問に向き合い解明する研究を深化させることでしょう。基礎生物学研究所は、生物学的に重要な疑問に対して最先端の研究手法で果敢に取り組み、進化を経て生物が保持した豊かで心躍る“生物知”を発見することを目指しています。生命科学の変革期であればこそ、新しい生物学の潮流を生み出すべく挑戦する基礎生物学研究所に、皆様のご理解とご支援をいただけますようどうぞよろしくお願い申し上げます。


2025年4月1日 
基礎生物学研究所長 三浦 正幸