English

大学共同利用機関法人 自然科学研究機構

基礎生物学研究所

ニュース

プレスリリース詳細

2012.12.20

根粒と茎頂分裂組織を共通して制御する新たな遺伝子の発見

基礎生物学研究所 共生システム研究部門の寿崎拓哉助教と川口正代司教授らの研究グループは、マメ科植物と根粒菌の共生の場である「根粒」が、根から分化する過程を制御する新たな遺伝子を発見しました。研究グループがTRICOT(トリコ)と名付けたこの遺伝子は、根粒形成において重要な役割を担うだけでなく、葉や茎など地上部の器官の発生を司る「茎頂分裂組織」の活性維持にも関与することがわかり、根粒と他組織の形づくりの共通性や根粒共生の進化基盤の一端が明らかになりました。この研究成果は、生物学専門誌Developmentの電子速報版に12月18日に掲載されました。

 

「研究の背景」

 マメ科植物に代表される一部の植物は、根に形成される「根粒」を介して土壌細菌の根粒菌と「根粒共生」と呼ばれる相利共生関係を築いています。植物の根から根粒が分化するためには、根粒の器官形成だけでなく根粒菌の感染プロセスも同調的に進行することが必要です。マメ科のモデル植物であるミヤコグサやタルウマゴヤシを用いた近年の研究によって根粒共生に関わる遺伝子がいくつか同定されてきましたが、その多くが根粒菌の植物への感染過程の制御に関わる遺伝子であることがわかりました。したがって、根粒の形づくりがどのような遺伝的なプログラムによってコントロールされているかについては、ほとんど明らかにされていませんでした。

 

「本研究の成果」

 これまでの先行研究から、根粒の器官形成の進行には植物ホルモンの1つであるサイトカイニンの信号伝達が活性化されることが重要であることがわかっています。本研究では、ミヤコグサを研究材料にして、サイトカイニンの信号伝達の活性化の影響がみられなくなるような突然変異体のスクリーニングを行ったところ、tricot (tco) と名付けた変異体を単離することに成功しました。ミヤコグサのspontaneous nodule formation 2 (snf2) 変異体では、サイトカイニンの信号伝達が常に活性化していることによって、根粒菌が感染しなくても根粒に類似した構造(自発的根粒と呼称)が根から分化します。それに対して、tco変異が加わると自発的根粒の形成が抑えられることがわかりました(図1)。また、tco変異体では根粒菌の感染により誘導される通常の根粒形成も起こらなくなることから、TCO遺伝子は根粒の分化を促進する機能をもつことが明らかになりました。さらに、tco変異体では根粒形成だけでなく、多面的な異常が見られ、葉や茎などの側生器官の分化を司る「茎頂分裂組織」の活性の維持が異常になっていることもわかりました(図2)。さらに、tco変異体の原因遺伝子を特定したところ、カルボキシペプチダーゼと呼ばれるタンパク質の切断に関わる酵素をコードしていること、この酵素はシロイヌナズナやイネなど他の植物では茎頂分裂組織の維持制御に関わることが知られているタンパク質と構造が類似していることが判明しました。

 

fig1.jpg

図1:tco変異体に形成される自発的根粒

ミヤコグサのsnf2変異体では、根粒菌の非存在下でも自発的根粒と呼ばれる根粒様の構造(矢じり)を形成する。一方、snf2 変異体に tco 変異が加わると、自発的根粒の数(A)とサイズ (B) がともに減少することがわかった。

 

 

fig2.jpg

図2:tco変異体の地上部の表現型

tco変異体では同じ発生段階の野生型と比べて多くの葉を分化する(A, B)。また、茎頂分裂組織(矢じり)のサイズが増加していることもわかった(C, D)。

 

 本研究によって特定されたTCO遺伝子は、前述のように根粒と茎頂分裂組織の形成を共通して制御する遺伝子です。私たちの研究グループはこれまでにもKLAVIER (KLV)と名付けた遺伝子がこの共通した制御に関わることを報告しています。地球上には多種多様な植物が存在していますが、その中でも、どうして主にマメ科だけが根粒をつくることができるのか、その理由ははっきりわかっていません。しかし、私たちの研究成果から、植物の長い進化の歴史の中で、TCOKLVのような茎頂分裂組織の制御に関わる遺伝子を根粒形成に流用したことが、マメ科植物が根粒をつくる能力を獲得するに至った1つの要因になった可能性が考えられます。今後の研究の進展により、根粒形成に関わる遺伝子がさらに特定され、それらの遺伝子の働きを調べることによって、植物の進化の過程で根粒共生がどのようにして誕生したのか、その謎が解明されることが期待されます。

 

注)tricot(トリコ)変異体の名前は、本来は2枚である子葉(cotyledon)が3枚(tri)になる様子から名付けられた。

 

[論文情報]

「Development」

TRICOT encodes an AMP1-related carboxypeptidase that regulates root nodule development and shoot apical meristem maintenance in Lotus japonicus

Takuya Suzaki, Chong Sung Kim, Naoya Takeda, Krzysztof Szczyglowski and Masayoshi Kawaguchi

 

[研究グループ]

本研究は、基礎生物学研究所の寿崎拓哉助教と川口正代司教授らが中心となって、カナダSouthern Crop Protection and Food Research CentreのSzczyglowski博士の研究グループとの国際共同研究として行われました。

 

[研究サポート]

本研究は、文部科学省科学研究費補助金、ノバルティス科学振興財団のサポートを受けて行われました。

 

[本件に関するお問い合わせ先]

基礎生物学研究所 共生システム研究部門

助教: 寿崎 拓哉 (スザキ タクヤ)

〒444-8585 愛知県岡崎市明大寺町字西郷中38

Tel: 0564-55-7563 Fax: 0564-55-7563

E-mail: tsuzaki@nibb.ac.jp 

ホームページ http://www.nibb.ac.jp/miyakohp/index.html

 

[報道担当]

基礎生物学研究所 広報室

TEL: 0564-55-7628 FAX: 0564-55-7597

E-mail: press@nibb.ac.jp