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プレスリリース概要

2010.02.23

世界的な農業害虫「アブラムシ」のゲノム解読に成功 〜ユニークな昆虫のユニークな遺伝子レパートリーを解明〜

本研究成果のポイント

 ○重複による遺伝子増幅は昆虫で最も多く、逆に免疫関連の遺伝子は大幅に減少

 ○細菌から獲得した約10種の遺伝子を同定、複雑な進化の過程が明らかに

 ○ゲノム情報を基に、安全で効果的な害虫防除法の開発が可能に

 

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)、独立行政法人科学技術振興機構(JST、北澤宏一理事長)と大学共同利用機関法人自然科学研究機構基礎生物学研究所(岡田清孝所長)らは、世界的な農業害虫として知られるアブラムシのゲノム解読に成功しました。これは、理研基幹研究所(玉尾皓平所長)宮城島独立主幹研究ユニットの中鉢淳ユニット研究員、宮城島進也独立主幹研究員および基礎生物学研究所の重信秀治(JSTさきがけ専任研究者)らをはじめとする国際アブラムシゲノム解析コンソーシアム(The International Aphid Genomics Consortium)による国際共同研究の成果です。

 

アブラムシは、植物の師管液を餌とする小型の昆虫で、集団で植物の栄養分を奪うばかりでなく、植物ウイルスを媒介するため、世界中の農作物に深刻な被害を与えています。またアブラムシは、師管液に欠けている栄養分を合成する共生細菌「ブフネラ」を「菌細胞」に収納して、1億年以上にわたり親から子へと受継いでいるのをはじめ、さまざまな微生物と緊密な関係を持っています。さらにアブラムシは、環境条件の変化に応じて単為生殖と有性生殖を切換えたり、翅(はね)を生やさなかったり生やしたりと、変幻自在にさまざまな表現型の個体を産出します。こうしたきわめてユニークな生物学的特性を持つため、アブラムシは重要な農業害虫であると同時に、基礎生物学的に重要なモデル生物としても注目されています。

 

今回の国際共同研究による解析では、昆虫として最多となる約35,000個の遺伝子をアブラムシゲノムから検出し、①生殖、遺伝子発現調節、シグナル伝達、ウイルス媒介関連など約2,500グループ、総数約13,000の遺伝子がアブラムシ特異的に増幅している②ほかの昆虫では保存されている免疫関連の遺伝子が大幅に減少している③アブラムシの遺伝子セットは、ブフネラと相補的な代謝系を構成する④10種類以上の遺伝子が細菌からアブラムシゲノムに水平転移し、その多くが菌細胞で高発現している、といった事実を明らかにすることができました。

 

本研究成果は、米国のオンライン科学雑誌『PLoS Biology』(2月23日号)に掲載されます。さらに、英国の科学雑誌『Insect Molecular Biology』のアブラムシゲノム特集号をはじめ、複数の科学雑誌に多数の関連論文が掲載されます。成果の一部は、JST戦略的創造研究推進事業個人型研究(さきがけ)の「代謝と機能制御」研究領域における研究課題「複合系の代謝制御-アブラムシ細胞内共生系をモデルとして」(研究代表者:重信秀治)によって得られました。

 

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図 エンドウヒゲナガアブラムシ

単為生殖メス虫が幼虫を直接産み出している。

(撮影:中鉢 淳)