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大学共同利用機関法人 自然科学研究機構

基礎生物学研究所

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研究報告

2010.02.18

カルシウムが細胞変形の引き金?

基礎生物学研究所進藤麻子研究員、上野直人教授らの研究グループは初期胚の発生過程で細胞が極性化して大きく形を変える際、異なる性質をもった組織同士が接触して一過的に細胞内のカルシウム濃度が高まることが引き金となっていること明らかにした(PLoS ONE 2月2日掲載)。本研究は埼玉大学脳科学融合研究センターの中井淳一教授らとの共同研究で、中井教授らが開発した高感度でカルシウムを検出し蛍光を発する指示タンパク質(G-CaMP)を用いて行われた。

丸い卵が形を変えて細長くなる過程で、細胞は頭と尾を結ぶ体軸と垂直の方向に伸び紡錘形へと形を変える。この極性化という現象の「引き金」が何であるかについてはわかっていなかった。同グループはすでに、異なる細胞分化をたどって異なる性質をもった組織同士を接触させ培養すると、細胞は体軸に垂直に、また両組織の境界に向かって微小管とよばれる細胞骨格を伸ばす向きをそろえることを明らかにしている。今回の研究では、組織が接触してしばらくすると、中胚葉と呼ばれる一方の組織内の外胚葉と呼ばれる他方の組織と接触している細胞のところどころでカルシウムが一過的に高くなることを見出した。そこで、阻害剤を使ってカルシウム上昇を抑えたところ、細胞変形や極性化は見られなくなった。また、カルシウム上昇は一方の組織から細胞をバラバラにしてひとつの細胞を他方の組織に接触させても見られないことから、細胞集団が組織として接触することが重要であることがわかった。また、胚の細胞変形が著しい脊索という組織ができるときに、同様の一過的なカルシウム上昇が観察されることも確認された。このようなカルシウム上昇は、人工的に細胞に力を加えることでも観察できたことから、同グループは組織同士の接触が何らかの力を生み、極性化を引き起こしている可能性があると考えている。

同グループは発生過程で胚の形を大きく変えるためには、細胞ひとつひとつの変形が重要で、この変形の引き金になっているのは組織同士がカルシウムをつかって「会話」をすることであると考えている。同グループはこの会話に必要とされるP2Y11という膜分子を発見しており、この分子の機能阻害することによって、細胞や胚の変形が起こらないことをつきとめた。今後、同分子がどのようにカルシウム上昇を調節しているのかを明らかにしたいと上野教授は語る。

本研究は、胚発生中の組織で細胞内カルシウムがダイナミックに変化することを明らかにし細胞変形における役割を明らかにしたばかりでなく、胚発生において組織間の相互作用で生まれる力の重要性を指摘した研究である。

 

 

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脊索になる中胚葉の細胞極性形成時にみられるCa2+の発火