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2012年10月10日
根粒の形づくりにおけるオーキシンの作用機構を解明

 基礎生物学研究所 共生システム研究部門の寿崎拓哉助教と川口正代司教授らの研究グループは、マメ科植物と土壌バクテリアの根粒菌が生物間相互作用(共生)を行う器官である根粒の発生において、植物ホルモンのオーキシンが作用する機構を明らかにしました。この研究成果は、生物学専門誌Developmentの電子速報版に10月9日に掲載されました。

 

「研究の背景」

 動物と異なり動くことのできない植物は、進化の過程で様々な生存戦略をとることによって、栄養が少ない土地にも適応し繁栄してきました。その中でも、ダイズやエンドウなどのマメ科植物に代表される一部の植物種は、根に「根粒」と呼ばれるこぶ状の器官をつくる能力を獲得することによって、土の中にいるバクテリアの一種である根粒菌と共生していることが知られています(図1)。根粒の内部では、根粒菌が大気中の窒素を固定して植物に窒素源として栄養を与える一方で、植物は光合成によって得られた炭素源を根粒菌へと供給しています。根粒菌と植物との間で、このような栄養源のやりとりが行われることによって、双方に利益のある相利共生関係が成立しています。根粒は植物と根粒菌が相互作用する場として重要ですが、根粒の発生がどのような仕組みによってコントロールされているのか、特にその発生制御における植物ホルモンの遺伝子レベルでの関わりについては、これまであまりよくわかっていませんでした。

 

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図1:マメ科植物ミヤコグサの根に形成される根粒

 

「本研究の成果」

 本研究において研究グループは、植物の生長に重要なホルモンであるオーキシンに注目し、オーキシンが根粒形成の具体的にどの発生過程でどのような分子機構により根粒の発生を制御しているのかを調べました。ミヤコグサというマメ科のモデル植物を研究材料にして、オーキシンが存在している所で蛍光タンパク質が光る植物を作り出しました。この植物を使って、根粒の形成過程で根のどこにオーキシンが存在しているのかを調べたところ、オーキシンの蓄積パターンを詳細にとらえることに成功しました。その結果、将来根粒が分化する皮層と呼ばれる組織の細胞分裂に先立ってオーキシンが蓄積し、細胞分裂と同調的にオーキシンが蓄積することにより根粒の原基がつくられることがわかりました(図2)。

 

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図2:根粒の発生におけるオーキシンの蓄積パターン

オーキシンが存在している場所をGFP(緑色)、根粒菌をDsRED(赤色)でそれぞれ可視化している。(A) 分裂を開始した皮層細胞。(B) 細胞分裂の進行により形づくられた根粒の原基。

 

 また、私たちは根粒をつくることのできない突然変異体、逆に根粒をたくさんつくり過ぎてしまう突然変異体、さらには根粒菌がいなくても勝手に根粒のような器官をつくってしまう突然変異体など様々な突然変異体を使ってオーキシンの分布パターンを調べることによって、根粒の発生過程におけるオーキシンの蓄積が起こるタイミングや、他の植物ホルモンであるサイトカイニンや転写因子(遺伝子の発現を制御するタンパク質)などがオーキシンの蓄積を誘導する働きをもつことを明らかにしました(図3)。本研究によって、古くから根粒形成における関与の重要性が示唆されていたオーキシンと根粒の発生の関わりが初めて遺伝子レベルで詳細に明らかになり、根粒の発生を制御するメカニズムの理解が深まりました。さらに、本研究により、根粒を形成する際に起こる皮層の細胞分裂を、分裂の進行度合いによって厳密に制御する新たな機構の存在も明らかになりました。

 

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図3:根粒の発生におけるオーキシンの作用点のモデル

根粒の発生は、植物ホルモンのサイトカイニンやその下流で働く転写因子によって制御されていることが知られている。本研究により、オーキシンの蓄積の誘導はそれらの因子により制御されていること、皮層細胞の分裂の開始や進行は、オーキシンの蓄積の誘導や維持と密接に結びついて起こることが明らかになった。

 

 今後は、根粒の発生する仕組みがさらに解明されることによって、多くの植物の中でなぜマメ科植物のような限られた植物種のみが根粒をつくることができるようになったのか、その理由がわかるかもしれません。また、得られた知見はマメ科以外の有用な作物にも根粒をつけられるような技術開発へとつながり、窒素肥料いらずの低化学肥料農業の実現や栄養の少ない土地での農業展開への貢献が期待されます。

 

 「論文情報」

生物学専門誌 Development

Positive and negative regulation of cortical cell division during root nodule development in Lotus japonicus is accompanied by auxin response

Takuya Suzaki, Koji Yano, Momoyo Ito, Yosuke Umehara, Norio Suganuma and Masayoshi Kawaguchi

http://dev.biologists.org/content/139/21/3997

 

「研究グループ」

本研究は、基礎生物学研究所の寿崎拓哉助教と川口正代司教授らが中心となって、農業生物資源研究所 梅原洋佐博士と愛知教育大学 菅沼教生教授との共同研究として行われました。

 

「研究サポート」

本研究は、文部科学省科学研究費補助金、住友財団、ノバルティス科学振興財団のサポートを受けて行われました。

 

「本件に関するお問い合わせ先」

基礎生物学研究所 共生システム研究部門

助教: 寿崎 拓哉 (スザキ タクヤ)

〒444-8585 愛知県岡崎市明大寺町字西郷中38

Tel: 0564-55-7563 Fax: 0564-55-7563

E-mail: tsuzaki@nibb.ac.jp

ホームページ http://www.nibb.ac.jp/miyakohp/index.html

 

「報道担当」

基礎生物学研究所 広報室

倉田 智子

TEL: 0564-55-7628

FAX: 0564-55-7597

E-mail: press@nibb.ac.jp