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2009年09月16日
神経軸索の正しい進路選択には細胞骨格である微小管の安定化制御が必須である

 発生過程において、神経細胞から発した軸索は、伸長途中の細胞外の軸索ガイダンス分子を感知することによって正しい経路を選択し、最終的に標的となる正しい神経細胞と神経結合を形成します。軸索ガイダンス分子の情報は、軸索内の細胞骨格を制御することにつながると考えられますが、細胞骨格制御の分子機構の詳細は不明でした。基礎生物学研究所 統合神経生物学研究部門の新谷隆史助教、野田昌晴教授らの研究グループは、Adenomatous polyposis coli 2 (APC2)という分子が、細胞骨格である微小管の制御を行うことによって軸索ガイダンス分子に対する軸索の応答性を決定していることを明らかにしました。この成果は、これまで不明であった神経回路形成における微小管の制御機構を明らかにした重要な知見です。研究の詳細は、2009年9月16日、米国神経科学会学会誌Journal of Neuroscience誌で発表されました。

[研究の背景]

 神経細胞は「軸索」と呼ばれる細長い突起を伸ばして他の神経細胞との間で神経結合を作ることで神経回路を形成しています。神経回路は発生過程において形成されますが、この時、神経細胞から発した軸索は、軸索ガイダンス分子と呼ばれる「標識」に従って正しい道筋を選択しながら伸長し、相手の細胞を探し出して神経結合を形成します。軸索はその細長い構造を維持するために内部に「細胞骨格」を有していますが、それに加えて、細胞骨格の制御は軸索の伸長の方向やスピードなどを決定する上でも必須の役割を果たしていると考えられています。軸索の伸長に関わる細胞骨格には、アクチンと呼ばれる分子が集まった微細繊維(マイクロフィラメント)と、チューブリンと呼ばれる分子が集まった微小管(マイクロチューブ)があります。軸索ガイダンス分子がどのように細胞骨格を変化させるかについては盛んに研究が進められていますが、微小管を制御する機構についてはほとんど分かっていませんでした。

[研究の成果]

 研究グループは、神経系で高発現するAPC2という分子について神経回路形成における役割を解析しました。その結果、APC2のタンパク質が軸索全体にわたって微小管に沿って分布し、微小管の安定化の制御に関わることを明らかにしました。視神経軸索におけるAPC2の発現を抑制した場合の変化について調べると、APC2の発現抑制により軸索における微小管の安定性が低下することが観察されました。また大変重要なことに、この時、反発性の軸索ガイダンス分子であるephrin-A2に対する反応性も低下することが明らかになりました(図1)。また、微小管を不安定化させる薬剤のノコダゾールによってもephrin-A2に対する反応性が低下すること、APC2の発現抑制をした視神経に微小管を安定化させる薬剤のタキソールを作用させるとephrin-A2に対する反応性が回復することから、APC2による微小管の安定性の制御がephrin-A2に対する応答に必要であることが分かりました。

 また、APC2を抑制した場合の視神経軸索の脳への神経連絡について、ニワトリの網膜視蓋投射系を用いて調べました。この投射系では様々な軸索ガイダンス分子が働いていることが分かっています。ニワトリの視神経は視交叉を通って反対側の視蓋に投射します(図2左)。すなわち、右眼の視神経は左側だけに投射します。ところが、APC2を抑制した場合には、視交叉における進路選択に誤りが生じて、左の視蓋だけでなく右の視蓋にも侵入することが分かりました(図2右)。また、投射が完成した時期に解析を行うと、APC2を抑制した場合には、形成されるべき領域特異的な投射が形成されていませんでした(図3)。以上の結果から、視神経軸索が軸索ガイダンス分子に対して応答して正しい経路を選択するためには、APC2による軸索内の微小管の安定性の制御が重要な役割を果たしていると考えられます。

[今後の展開]

 本研究により、これまで不明だった微小管の制御機構について、その一端が明らかになりました。APC2の活性は軸索内において局所的に調節されている可能性があり、これによって軸索の伸長方向が決定されていると考えられます。今後、このようなAPC2の制御機構について研究を進めることにより、神経回路形成における分子機構が明らかになって行くと考えられます。

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[発表雑誌]

Journal of Neuroscience
米国神経科学会 学会誌 電子版
(9月15日付けでオンライン先行発表)

論文タイトル:
"APC2 plays an essential role in axonal projections through the regulation of microtubule stability

著者:Takafumi Shintani, Masaru Ihara, Sachiko Tani, Juichi Sakuraba, Hiraki Sakuta, and Masaharu Noda

[研究グループ]

本研究は、基礎生物学研究所 野田昌晴教授らの研究グループにより実施されました。

[研究サポート]

本研究は、文部科学省科学研究費補助金のサポートを受けて実施されました。

[本件に関するお問い合わせ先]

基礎生物学研究所 統合神経生物学研究部門
教授:野田 昌晴(ノダ マサハル)
Tel: 0564-59-5846(研究室)
E-mail: madon@nibb.ac.jp
URL: http://niwww3.nibb.ac.jp/

助教:新谷 隆史(シンタニ タカフミ)
Tel: 0564-59-5847(研究室)
E-mail: shin@nibb.ac.jp

[報道担当]

基礎生物学研究所 広報国際連携室
倉田 智子
Tel: 0564-55-7628
E-mail: press@nibb.ac.jp