埼玉大学
自然科学研究機構 基礎生物学研究所
国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)
埼玉大学大学院理工学研究科の須田啓助教、浅川裕紀大学院生、萩原拓真研究員、豊田正嗣教授(サントリー生命科学財団・SunRiSE Fellow)らは、基礎生物学研究所の長谷部光泰教授の研究グループと共同で、食虫植物のハエトリソウ(
Dionaea muscipula)
1において、機械刺激で活性化するタンパク質DmMSL10
2が虫に触れられたことを感知する“触覚”のセンサーとして働いていることを明らかにしました。
本研究グループはカルシウムイオンのバイオセンサー(GCaMP)
3を組み込んだハエトリソウを用いて、植物が虫からの接触刺激をどのように感知しているのかを明らかにしました。ハエトリソウは2枚に分かれた葉を高速で閉じ合わせることで虫を捕らえる食虫植物で、葉には感覚毛と呼ばれる組織があり、虫からの接触刺激を感知することで動物における“触覚”の役割を果たしています。DmMSL10を失ったハエトリソウでは虫を感知する効率が低下して、獲物を捕らえにくくなることが分かり、ハエトリソウがDmMSL10を使って虫からのわずかな接触刺激を高感度で検知するシステムを構築していることが明らかになりました。
本成果は、2025年9月30日午前10時(ロンドン現地時間)に、英国科学雑誌『
Nature Communications』に公開されます。
【ポイント】
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ハエトリソウの葉が接触刺激に応じて運動する仕組みは発見から200年以上研究されてきましたが(図1)、どのようなセンサーを使って接触刺激を感知しているのか、という細胞レベルでの詳細な機構は未解明でした。
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新たに確立した「1細胞レベルで細胞内のカルシウムシグナル4と電気シグナル5を同時に測定する技術」や「生態系を模した環境でのカルシウムシグナルを測定する技術」を用いて、動物には存在しないDmMSL10タンパク質が虫からの接触刺激を感知する高感度なセンサーとしての役割を果たしていることを明らかにしました。
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多くの植物が接触刺激を感知する“触覚”を有しており、本成果は動物とは異なる植物の“感覚”の解明に向けた大きな一歩となると期待されます。
図1. ハエトリソウの接触刺激感知と運動
ハエトリソウの葉では感覚毛で接触刺激を感知すると、葉全体にカルシウムシグナル・電気シグナルが伝わります。葉全体に2度シグナルが伝わると、左右に分かれた葉が閉じ合わさるように運動し獲物を捕らえます。