鳥取大学
自然科学研究機構 基礎生物学研究所
概要
陸上植物の約7割以上の種は、土壌中でアーバスキュラー菌根(AM)菌と共生関係を結んでいます。AM菌は宿主となる植物から炭素源の一部を得る見返りにリンや窒素といった必須元素を供給するため、AM菌が感染した植物は貧栄養環境下でも生育が促されます。そのため、過剰な施肥による環境汚染や肥料の価格高騰が深刻な社会問題となっている今、AM共生における分子基盤の解明は、持続的な作物生産の実現に繋がると期待されています。鳥取大学大学院連合農学研究科の富永貴哉大学院生(現奈良先端科学技術大学院大学・日本学術振興会特別研究員PD)、鳥取大学農学部生命環境農学科の上野琴巳准教授、上中弘典准教授、および基礎生物学研究所の重信秀治教授らの研究グループは、リンドウ科植物に含まれる苦味配糖体「ゲンチオピクロシド」と「スウェルチアマリン」がAM菌の菌糸分岐を促進することを発見しました。本研究により、リンドウ科植物の苦味物質からAM菌の感染を促す農業資材を開発できると期待されます。本研究成果は2023年9月1日付で米国植物生理学会誌「Plant Physiology」にオンライン掲載されました。
1.研究成果のポイント
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AM菌は非常に多様な植物と共生するにも関わらず、AM共生の研究は長らくイネやマメ科のモデル植物を用いて研究されていました。
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本研究では、非モデル植物であるリンドウ科のトルコギキョウの根に蓄積する苦味配糖体がAM菌の菌糸分岐を活性化することを発見しました。
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本研究成果は、AM共生は植物の系統によっては既知のメカニズムを介さずに成立する可能性を示しただけでなく、有用な農業資材の開発に繋がると期待されます。
図:研究成果の概要
一般的に、植物は根からSL(青い六角形)を放出し、AM菌の菌糸分岐を促すことで効率的に共生を成立させる。しかし、植物ホルモンであるGAをトルコギキョウに処理するとSLの生合成が阻害されるにも関わらず、AM菌の菌糸分岐や感染が顕著に促進される。本研究は、ジベレリン処理したトルコギキョウの根で生合成が活性化されていたGPSとSWM(橙の星)がAM菌の菌糸分岐を促進することを明らかにした。