自然科学研究機構 基礎生物学研究所
自然科学研究機構 生命創成探究センター
名古屋市立大学
光に応答するタンパク質を用いて細胞や個体をコントロールする光遺伝学と呼ばれる手法は、近年、生物学の多様な分野で広く用いられるようになってきました。ヒトと共通する部分が多く、研究が進んでいる線虫においても光遺伝学の応用が進んでいます。今回、基礎生物学研究所/生命創成探究センターの小田茂和元助教、海老根映美研究員、中村彰伸研究員(現: 産業技術総合研究所)、青木一洋教授らは、名古屋市立大学の木村幸太郎教授のグループとの共同研究により、赤色光に応答する光遺伝学を利用して線虫の行動を光でコントロールすることに成功しました。
これまでの線虫の研究では、紫外光や青色光などの短波長の光に応答する光遺伝学ツールが使われていました。しかし、線虫は青色光を嫌う習性があることから、これらのツールを使用するには青色光に反応しない変異体の線虫を使用する必要がありました。変異体を用いた研究では生理機能への影響が少なからず考えられるため、青色光を用いない光遺伝学的ツールが期待されていました。本研究では、赤色光/近赤外光に応答するフィトクロムB(Phytochrome B, PhyB)とその結合因子PIFからなるPhyB-PIFシステム、さらにPhyBの光応答に必要なフィコシアノビリン(PCB)を細胞内で合成させるシステム(SynPCB)を導入することで、線虫の細胞内シグナル伝達系を赤色光で操作することに成功しました。さらに、腸の細胞内のカルシウム濃度を制御することにより、線虫の排便リズムを光でコントロールすることに成功しました。
本研究で使われたPhyB-PIFとSynPCBを線虫に適用することで、将来的には線虫の細胞内シグナル伝達と行動の関連性をより直接的に理解することができると期待されます。
本成果は、国際学術誌「ACS Synthetic Biology」に2023年2月21日付で掲載されました。
図:赤色光によって腸の細胞内のカルシウム濃度を制御し、線虫の排便リズム(DMP)を光でコントロールすることに成功