埼玉大学
自然科学研究機構 基礎生物学研究所
埼玉大学大学院理工学研究科の萩原拓真大学院生、豊田正嗣教授(サントリー生命科学財団・SunRiSE Fellow、米国ウィスコンシン大学マディソン校・Honorary Fellow)の研究グループは、基礎生物学研究所の長谷部光泰教授の研究グループと共同で、オジギソウの運動を引き起こす長距離・高速シグナルを可視化し、この葉の動きが草食性昆虫から身を守る役割があることを明らかにしました。
本研究グループは、カルシウム(Ca
2+)のバイオセンサー遺伝子を組み込んだ「光る」オジギソウを作出して、オジギソウが傷つけられた時に発生させるCa
2+シグナルの可視化に成功しました。オジギソウが傷つけられると、傷つけられた部位からCa
2+・電気シグナルが発生し、このシグナルが運動器官である葉枕(ようちん)に到達すると、そのわずか約0.1秒後に葉の運動が起こることがわかりました。また、薬理学的手法やゲノム編集技術(CRISPR/Cas9)を用いて「おじぎをしない」オジギソウを作出して、バッタなどの草食性昆虫を用いた食害実験を行った結果、昆虫は葉を動かさないオジギソウをより多く食べることが明らかになりました。
オジギソウは、昆虫などに傷つけられると、危険信号としてCa
2+・電気シグナルを全身に伝達させ、葉を高速に動かすことで昆虫から身を守っていると考えられます。
本成果は、2022年11月14日(ロンドン現地時間)に、英国科学雑誌『Nature Communications』に公開されます。
図 オジギソウを傷つけた時に発生する長距離・高速Ca
2+シグナルの可視化
細胞内Ca
2+濃度が高くなると、Ca
2+バイオセンサー(GCaMP)が明るく光ります。葉をハサミで傷つけると(2秒、白矢印)、葉枕でCa
2+シグナルが発生し(黄矢尻)、次々に葉の運動が起こります(赤矢尻)。
【ポイント】
●オジギソウは動く植物として有名ですが、「どのようにして、葉を次々に閉じるのか」、「何のために葉を動かす(おじぎをする)のか?」については、不明でした。
●この生物学における長年の謎を解き明かすために、ゲノム編集技術などを用いてCa
2+シグナルを可視化するための「光る」オジギソウや「おじぎをしない」オジギソウを作出しました。
●独自のイメージング・電気生理学的技術を駆使して、これらのオジギソウを解析した結果、
① オジギソウは触れられたり、傷つけられたりすると、全身にCa
2+・電気シグナルを高速に伝達させ、葉を次々と動かすこと
② この運動が、虫害防御高速運動として昆虫からの食害を防ぎ、自分の身を守っていること
が明らかになりました。