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大学共同利用機関法人 自然科学研究機構

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プレスリリース概要

2021.10.20

精子幹細胞は、未分化状態と分化状態の間を転移しながら精子を作り続ける

自然科学研究機構 基礎生物学研究所
大阪大学
 
ヒトを含めほ乳類には、精子のおおもととなる精子幹細胞という特殊な細胞が存在します。この細胞は、生涯にわたり自らを生み出し、一方で将来的に精子となる分化細胞を作り続けるという大切な役割があります。しかし、精子幹細胞は特定されておらず、「どのような性質・特徴」を持ち、「どのような振る舞い」をすることで精子を作り続けるのか不明な点が多く、世界的に研究されています。

基礎生物学研究所 生殖細胞研究部門の中川俊徳助教、吉田松生教授、大阪大学大学院生命機能研究科の長澤丘司教授、英国ケンブリッジ大学のBenjamin Simons教授らの共同研究グループは、マウス精子幹細胞の目印となる遺伝子を発見し、新しい性質を明らかにしました。それらの遺伝子をもとに観察すると、①精子幹細胞は、未分化な状態から分化に向かった状態まで、複数の状態をとる階層集団であること、②未分化な状態ほど分裂活性が低いこと、③これまで支配的な考えであった未分化→分化の一方通行ではなく、両方向へ転移しながら長期の精子形成を維持していることが明らかになりました。このような振る舞いにより、精子幹細胞のDNAに突然変異が蓄積することが抑制されるとともに、途切れなく安定的に精子を産生することが可能となるのかもしれません。この研究は、精子幹細胞のみならず、体の多くの組織に存在し、組織を正常に維持また損傷した部分を再生させる幹細胞とは一体どのような細胞なのか?をつきとめる契機となる重要なものです。

本研究成果は、米国東部時間2021年10月19日にCell Reports誌(電子版)に掲載されました。

fig1.jpg 図:本研究で明らかとなった精子幹細胞の3種の状態と特徴
精子は精巣の精細管という管の中で作られます。ここに精子の元となる精子幹細胞が存在します。今回の研究では、精子幹細胞には、少なくともX、Y、Zという3種類の状態が存在することが示されました(箱の中の数字は、幹細胞の割合)。それぞれを特徴づける遺伝子発現の発現をピンク(Plvap)、オレンジ(GFRα1)、黄色(Sox3)のバーで示しています。矢印はそれぞれの状態が転移する方向を示し、矢印に添う数字は1日に転移する幹細胞の割合を示しています。また、円弧の矢印はX、Y、Z細胞の分裂を示し、数字は平均分裂レートを示しています。