自然科学研究機構 基礎生物学研究所
自然科学研究機構 生命創成探究センター
中央大学
京都大学
理化学研究所
生き物の形が正しく作られるには、細胞が自らの位置を正しく認識する必要があります。このとき、細胞同士がコミュニケーションを取る必要があり、このためにある種の蛋白質を分泌して、細胞外での濃度の違いにより位置の情報を決めていることが知られています。しかし、どのように場所による濃度の違いが作られるかはよく分かっていませんでした。
自然科学研究機構 基礎生物学研究所/生命創成探究センターの三井優輔助教と高田慎治教授、中央大学の平良眞規博士らは、位置情報を担う蛋白質の一つであるWnt8の細胞外での動きを、生きたカエル胚の中で詳細に解析しました。理化学研究所の佐甲靖志主任研究員らとの共同研究による定量的解析から、Wnt8蛋白質のうち、動いている分子は少数で、大部分は細胞表面に結合して動かないことが示唆されました。これらの動く分子と動かない分子は動的な平衡状態(つまり絶えず入れ替わっている)にあることが実験から推察されました。これをもとに、京都大学の望月敦史教授らとの共同研究として、他の多くの分泌性の蛋白質の分布にも適用できるシンプルな数理モデルを構築し、挙動を体系的に理解する枠組みを提案しました。これにより、少数の動く分子と多数の動かない分子によって、Wnt8蛋白質の分布が素早く、安定的に作られうることが示されました。この分布ができる時の速さと安定性のジレンマは、拡散現象が関わることから、以前からどのように両立しているのか議論があったところですが、今回の研究はその仕組みの一端を明らかにしました。この成果はeLife誌に掲載されました。