西日本の沿岸域を中心に赤潮が頻発しており、養殖業に甚大な被害が発生していますが、赤潮藻を直接駆除することは規模やコストなどの面から困難です。そこで、現場では被害を最小限にとどめるために、有害赤潮藻の分布が常時監視されており、細胞密度が基準値を超えたら直ちに養殖している魚への餌止めや生簀避難などの対策が講じられています。そのため、赤潮の発達や衰退を正確に予測する技術が強く求められています。
水産研究・教育機構瀬戸内海区水産研究所の紫加田 知幸主任研究員らは、自然科学研究機構基礎生物学研究所の内山郁夫助教らと共同で、有害赤潮ラフィド藻シャットネラ・アンティーカ(下図)からRNAを抽出し、次世代シーケンサーを用いて大量の遺伝子配列を解読することに成功しました。独自に開発した遺伝子解析プログラムなどを用いて、赤潮の発達・衰退に影響する光合成、光受容、栄養塩の取り込み、活性酸素産生などに関与する遺伝子の配列を明らかにしました。
今回得られた情報は、遺伝子の発現量を指標として赤潮藻の生理状態を診断し、赤潮の発達・衰退を予測する技術開発の基礎となります。この成果は、令和元年7月31日にFrontiers in Microbiology誌より公表されました。(
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fmicb.2019.01764/full)
また、今回解読したシャットネラの遺伝子配列を検索するためのウェブサイト(
http://hab.nibb.ac.jp)を公開しました。このサイトでは、各遺伝子配列について推定された機能、発現量に加えて、他生物の遺伝子との比較解析結果などが閲覧できるほか、BLASTを用いた類似配列の検索が可能です。
本研究は基礎生物学研究所 統合ゲノミクス共同利用研究の一環として行われました。