富山大学
自然科学研究機構 基礎生物学研究所
富山大学大学院理工学研究部(理学)の前川清人准教授と大学院理工学教育部の矢口甫氏(現 琉球大学熱帯生物圏研究センター博士後研究員)らの研究グループは,基礎生物学研究所の重信秀治特任准教授らと共同で,シロアリの兵隊分化を決定する遺伝子を発見しました。研究グループは,次世代 DNA シーケンサー(大規模塩基配列解読装置)を用いた網羅的な解析を行い,兵隊分化の初期に働く遺伝子を探索しました。その結果,兵隊に分化する個体では,リポカリンとよばれる輸送タンパク質遺伝子が極めて高く発現することを突き止めました。リポカリン遺伝子は,シロアリへの進化の過程で配列が特徴的に変化しており,タンパク質は腸の上皮細胞に局在していました。機能解析の結果,この遺伝子が女王からの栄養物質の受け渡し行動を介して,兵隊分化を生じさせることが明らかになりました。
本成果は,英国王立協会紀要「Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences」に掲載されました。
【発表論文】
"A lipocalin protein, Neural Lazarillo, is key to social interactions that promote termite soldier differentiation."
Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences, 285: 20180707.
DOI: https://doi.org/10.1098/rspb.2018.0707
矢口甫
1,2,重信秀治
3,林良信
4,宮崎智史
5,栂浩平
6,増岡裕大
1,7,前川清人
1*
1富山大学大学院理工学研究部,
2琉球大学熱帯生物圏研究センター,
3基礎生物学研究所,
4慶応大学法学部,
5玉川大学農学部,
6日本大学文理学部,
7農業・食品産業技術総合研究機構
*責任著者
図.初期巣の第1幼虫(最も早く3齢になった個体)と第2幼虫(2番目に3齢になった個体)の発生運命。第1幼虫は,前兵隊を経て兵隊に分化する。第2幼虫は,4齢個体に脱皮し,ワーカーとして働く。第1幼虫で特異的に発現するリポカリン遺伝子の発現を抑制すると,第1幼虫から4齢個体に脱皮する個体の割合が有意に増加した。