基礎生物学研究所
2013.03.29
動物の生存にとって体液(細胞外液)の塩濃度を一定に保つことが必須です(体液恒常性)。このため、動物は体液のナトリウム(Na+)濃度と浸透圧を常時モニターする仕組みを獲得したと考えられています。体液のNa+と水のバランスが崩れた時、例えば、長時間の脱水は体液中のNa+濃度を上昇させます。この時私たちは、のどの渇きを覚え、ただちに水分の補給を行うとともに、塩分摂取を抑制します。また、尿中への排泄/再吸収の制御を行っています。基礎生物学研究所の野田昌晴教授、檜山武史助教らの研究グループは、この体液中のNa+濃度上昇を検出するセンサーがNaxチャンネルであり、その検出中枢が脳内の感覚性脳室周囲器官であることを一連の以下のような研究を通して示してきました。
Naxは、脳において感覚性脳室周囲器官(脳弓下器官(SFO)や終板脈管器官(OVLT))のグリア細胞に分布していました。これらの神経核は第三脳室の前壁に位置し、血液-脳関門が欠損している部位であり、以前から体液状態のモニタリングへの関与が疑われていたところです。SFOのNaxを発現している細胞を電気生理学的に解析した結果、Naxは細胞外のNa+濃度上昇を感知して開口するチャンネルであることがわかりました。研究グループが作成したNax遺伝子ノックアウトマウス(Nax-KO)は、脱水条件下において体液中のNa+濃度が上昇していてもこれを感知できず、塩分の摂取を抑制しませんでした。このNax-KO行動異常は、SFOに局所的に正常遺伝子を戻すことによって、野生型に回復させることができました。
このように研究グループのこれまでの研究からNaxが中枢のNa+濃度センサーであると推定されましたが、大きな謎が残されていました。それはNaxが体外ではNa+濃度が約150 mMを超えて初めて活性化するという性質を示したことでした。体液のNa+濃度は通常、135~145 mMに厳密に維持されています。Naxが真に脳のNa+濃度センサーであるとすれば生理的範囲のNa+濃度変化を感知できるはずです。今回、研究グループは、この残されていた課題を解決することに成功しました。Naxの活性化閾値は体内では生理的範囲のNa+濃度の上昇に応答できるようになっていました。それは固定されたものではなく、脱水状態に応じて調節されることも判りました。この研究成果は、2013年4月2日に米国科学専門誌Cell Metabolismに掲載されます。