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大学共同利用機関法人 自然科学研究機構

基礎生物学研究所

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2020.09.25

経口投与によるRNA干渉法を用いた害虫の早期食害停止の誘発に成功

自然科学研究機構 基礎生物学研究所
中部大学
名古屋大学
 情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所

近年、化学農薬とは異なる害虫防除法として、RNA干渉(RNAi)法を利用した防除法(RNA農薬)が注目されています。RNA農薬は、二本鎖RNAを害虫種に投与し、RNAiを誘導することで、内在遺伝子の機能を阻害し、害虫の駆除を目指すものです。効果的なRNA農薬の実現には、最適な標的遺伝子の選定が必須となります。しかし、RNA農薬の候補としてこれまでに標的にされてきた致死や成長阻害をもたらす遺伝子の場合、効果の誘発までに時間を要するため、その間も農作物への食害が進行してしまう点が課題となっていました。今回、基礎生物学研究所及び総合研究大学院大学の千頭康彦大学院生と新美輝幸教授らのグループは、中部大学の鈴木孝征准教授、名古屋大学の吉岡博文准教授、柳沼利信名誉教授、国立遺伝学研究所の佐藤豊教授との共同研究により、ナス科(主にジャガイモやトマトなど)の害虫であるニジュウヤホシテントウにおいてプログラム細胞死を阻害する遺伝子(diap1)の二本鎖RNAの経口投与により、 24時間以内という速効的な食害停止の誘発に成功しました。さらに、本研究成果に基づき、共同研究チームはRNA農薬の標的遺伝子選定の新たな評価基準として早期の食害停止効果を提案しました。本研究成果はJournal of Pest Scienceに掲載予定で、2020年9月10日にオンライン先行公開されました。

【研究の背景】
爆発的な人口増加に伴い世界規模での食糧不足が緊迫するなか、農作物の約3分の1が病害虫により消失しています。従って、世界規模での食糧増産を果たす上で、いかに作物を害虫から防除するかは重要な問題になります。従来の化学農薬に依存した害虫防除法は、人畜に対する安全上の課題や環境負荷が大きいことに加え、害虫による化学農薬に対する耐性の獲得が問題となっています。持続的な農業生産を目指す上で、既存の害虫防除法の限界を打破する新たな技術の開発が望まれています。

近年、既存の害虫防除法とは全く異なる原理に基づく新たな害虫防除法としてRNA干渉(RNAi)法による遺伝子機能抑制を利用した害虫防除法(RNA農薬)が提唱され、その研究開発が国内外で進められています。二本鎖RNAを害虫種に取り込ませてRNAiを誘導することで、内在遺伝子の機能を阻害し、害虫の駆除を目指すものです。RNA農薬の革新性は、生体高分子であるRNAを直接に殺虫剤として利用する点にあります。また、従来の化学殺虫剤に比べ、標的とする種への特異性が極めて高く、周辺環境への安全性が期待されます。さらに、害虫種間で共通した配列の選択、あるいは各害虫種に対する二本鎖RNAの混合により、標的とする害虫種の適応範囲を任意に設定することも可能です。RNA農薬が有効に機能するためには、適切な標的遺伝子を選定することが極めて重要になります。

これまでに、昆虫による作物の食害を防ぐ目的でのRNA農薬の候補として、v-ATPaseのサブユニットをコードする遺伝子を標的としたものや、キチン合成酵素をコードする遺伝子を標的としたものなどが報告されてきましたが、効果の誘発までに比較的時間を要し、その間も農作物への食害が進行してしまう可能性がありました。
 
【研究の成果】
今回、研究グループは、新たなRNA農薬の標的として害虫の生存に必須であるプログラム細胞死(アポトーシス)を阻害するアポトーシス阻害因子(death-associated inhibitor of apoptosis protein 1; diap1)に着目しました。その結果、先行研究では不可能であった速効性の食害停止と高い種特異性がもたらされました。

ナス科(主にジャガイモやトマトなど)の害虫であるニジュウヤホシテントウの3齢幼虫に対して、アポトーシス阻害因子の遺伝子diap1の二本鎖RNAを経口投与したところ、RNAiによるdiap1遺伝子の機能阻害により、24時間以内にジャガイモ葉の食害が停止することを明らかにしました(図1)。一方、致死性誘発の観点から標的遺伝子として従来から候補に上がっているv-ATPase遺伝子の二本鎖RNAの経口投与では、食害が進行し続けることを明らかにしました(図1)。

fig1.jpg 1:ニジュウヤホシテントウと各種二本鎖RNA処理によるジャガイモ葉摂食への影響
ニジュウヤホシテントウの3齢幼虫を対象としてアポトーシス阻害因子(death-associated inhibitor of apoptosis protein 1; diap1)の機能を阻害すると、24時間以内に食害が停止した。従来の標的遺伝子であるv-ATPaseサブユニットに対する機能阻害では、食害停止効果は認められなかった。
 
diap1遺伝子の二本鎖RNAが少量でも作用することを検証するため、8ナノグラム(ナノグラム=10億分の1グラム)及び50ナノグラムの二本鎖RNAを経口投与した際の影響を調査しました。その結果、どちらの投与量においても、24時間以内に食害が停止しました。どちらの処理においても、3齢幼虫は成長を停止し、4齢に脱皮することはありませんでした。また、8ナノグラムの投与量では、投与後3~4日後から死亡する幼虫が観察され、6日後までに全て致死となりました。50ナノグラムでは、投与後2~3日後から死亡が観察され、5日後までに全て致死となりました。この致死までの間、幼虫の食害停止効果の持続性が認められました。一方、対照実験において正常に発生する幼虫では、処理後2~4日後に4齢幼虫に脱皮し、8~10日後に蛹に成長しました。

続いて、ニジュウヤホシテントウのdiap1遺伝子の二本鎖RNAの種特異性をナミテントウとフタホシコオロギを用いて評価したところ、これら2種に対して効果がみられないことが明らかとなりました。この結果は、RNA農薬としての高い種特異性を示しています。

以上の結果に基づき、本研究チームはdiap1がRNA農薬の標的遺伝子に適すると結論付けました(図2)。また、本研究チームはRNA農薬の標的遺伝子選定の新たな評価基準として、早期の食害停止効果が有効であることを提案しています。
 
fig2.jpg 2:本研究の概略図
 
【今後の展望】
今回の結果を足掛かりに、diap1遺伝子の抑制による摂食停止メカニズムを詳細に明らかにすることで、より効果的な標的遺伝子や害虫種の特性に応じた標的遺伝子の発見も期待できます。また、RNA農薬は農作物を食害する農業害虫だけでなく衛生害虫、家屋害虫、外来種など多岐にわたる害虫防除への応用が想定されます。今後は、RNA農薬の効率的な利用法の確立、標的と想定していない他種の生物に対しての安全性といった環境に対する安全性の検証、広範な害虫に対するRNA農薬の有効性などを検討することで、実用化に向けた害虫防除法の確立が期待されます。 
 
【発表雑誌】
雑誌名:Journal of Pest Science
掲載日:2020年9月10日(オンライン先行掲載)
論文タイトル:Oral RNAi of diap1 results in rapid reduction of damage to potatoes in Henosepilachna vigintioctopunctata
著者:Yasuhiko Chikami, Haruka Kawaguchi, Takamasa Suzuki, Hirofumi Yoshioka, Yutaka Sato, Toshinobu Yaginuma and Teruyuki Niimi
DOI: https://doi.org/10.1007/s10340-020-01276-w
 
【研究グループ】
基礎生物学研究所 進化発生研究部門の千頭康彦大学院生、川口はるか特任研究員、新美輝幸教授らのグループを中心として、中部大学の鈴木孝征准教授、名古屋大学の吉岡博文准教授、柳沼利信名誉教授、国立遺伝学研究所の佐藤豊教授からなる共同研究チーム。
 
【研究サポート】
本研究は、総合研究大学院大学学融合推進センター、大学共同利用機関法人自然科学研究機構産学連携支援事業(01511902)などの助成を受けて行われました。
 
【本研究に関するお問い合わせ先】
基礎生物学研究所 進化発生研究部門
教授 新美 輝幸(ニイミ テルユキ)
TEL: 0564-55-7606
E-mail: niimi@nibb.ac.jp
 
【報道担当】
基礎生物学研究所 広報室
TEL: 0564-55-7628
FAX: 0564-55-7597
E-mail: press@nibb.ac.jp
 
中部大学 学園広報部 広報課
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国立遺伝学研究所 リサーチ・アドミニストレーター室 広報チーム
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名古屋大学管理部総務課広報室
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