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大学共同利用機関法人 自然科学研究機構

基礎生物学研究所

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2018.10.05

カブトムシの角(ツノ)形成遺伝子の特定に成功

基礎生物学研究所 進化発生研究部門の大出高弘助教(現 京都大学)、森田慎一研究員、新美輝幸教授を中心とした国際共同研究チームは、カブトムシの角形成遺伝子の特定に成功しました。

カブトムシの人気の秘密は立派な角にありますが、角がどのような遺伝子によって作られるかの詳細は不明でした。今回、研究チームは、次世代シーケンサーを用いた網羅的な解析などを行い、角形成に関与する11個の遺伝子を特定することに成功しました。これらの遺伝子の機能を阻害すると、角が消失したり、短くなったり、形が変わったり、余分な角が生えたりする興味深い変化が観察されました。今回特定した角形成遺伝子群は、昆虫の角の進化を考える上で重要な知見をもたらすものです。

本研究は基礎生物学研究所 進化発生研究部門の大出高弘助教(現 京都大学)、森田慎一研究員と新美輝幸教授らのグループを中心として、基礎生物学研究所の重信秀治特任准教授らのグループ、モンタナ大学のDouglas Emlen教授らのグループ、ワシントン州立大学のLaura Lavine教授らのグループ、東京大学の門田幸二准教授、からなる国際共同研究チームにより実施されました。本研究成果はPLOS Geneticsに2018年10月5日に掲載されました。

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図:遺伝子機能の抑制による角の形の変化の例

fig2.jpg図:遺伝子機能の抑制による角の形の変化
 
【研究の背景】
角をもつ昆虫の中でも、コガネムシ科には立派な角をもつ種が多数存在します。コガネムシ科において、顕著に発達した角をもつ種が多く含まれるグループは、カブトムシの仲間(カブトムシ亜科)と糞虫の仲間(ダイコクコガネ亜科)です。これらの2つのグループは共通祖先から約1.5億年前に分岐し、それは、ヒトと有袋類(コアラやカンガルー)の祖先が分岐した時期に相当するほど系統的に遠い関係にあることから、独立に角を獲得したと考えられています。

昆虫の角がどのような遺伝子によって作られるのかは、ほとんど不明なままでした。その中で、比較的研究が進んでいるのが、糞虫の仲間であるエンマコガネの角形成に関与する遺伝子です。一方、カブトムシの角形成に関与する遺伝子については、新美らが2013年に発表した性差を作る遺伝子以外ほとんど明らかにされていませんでした。
 
【研究の成果】
これまでに見つかっていない新しい角形成遺伝子を探索するために、成虫の角のもととなる幼虫期の細胞群(角原基)において、立派な角を持つ雄と持たない雌での遺伝子の働き方、頭部と胸部での遺伝子の働き方などを次世代シーケンサーを用いて網羅的に比較し、雄と雌や頭部と胸部の間で働き方(遺伝子発現量)に違いが見られる遺伝子を1,068個見出すことができました。次に、これらの遺伝子の中で、角形成で重要な機能を有すると予想された49個の遺伝子について、RNAi法とよばれる遺伝子の機能を阻害する方法を用いて解析を進めました。その結果、角形成に重要な役割を果たす遺伝子を11個特定することに成功しました(SP8, pannier, Rx, Optix, BarH1, Tbx20, Sox21b, dachshund, Scr, Sox14, abrupt)。これらの遺伝子の働きをそれぞれ抑制すると、カブトムシに特徴的な頭部の角の先の形が変化したり(Rx, Optix,BarH1, Tbx20, Sox21b, dachshund, Sox14, abrupt)、角が短くなったり(abrupt, Sox14, Rx, Scr)、胸部の角が消失したり(pannier)、余分な小さな角が作られたり(SP8)することが判明しました。
 
また、この11遺伝子をグループ分けすると、その多くが頭部の形成に重要な機能を担う遺伝子のグループ(Rx, Optix, SP8, Tbx20や、肢の形成に重要な機能を担う遺伝子のグループ(BarH1, dachshund, SP8, abrupt, Sox14)に属することが判明しました。また、これらの遺伝子は、多くの昆虫で頭部や肢での機能が進化的に保存された遺伝子でした。つまり、この11遺伝子は、本来頭部や肢などを形成する機能をもち、カブトムシの系統で角を作るための新たな機能を獲得した可能性が示されました。興味深いことに、エンマコガネにおいても頭部や肢形成に関与する遺伝子のグループの一部が角形成に利用されることが明らかにされていました。つまり、カブトムシの仲間と糞虫の仲間は、独立に角が獲得されたと考えられてきましたが、同様の機能を有するグループの遺伝子が共通して角の獲得に利用された可能性が示されました。
 
【今後の展望】
本研究により、カブトムシの角形成に関与する11個の遺伝子を特定することに成功しました。興味深いことに、独立に角を獲得したと考えられてきたカブトムシの仲間と糞虫の仲間の角形成に共通の形成メカニズムが存在する可能性が示され、コガネムシ科の角の進化を推定する重要な知見を得ることができました。今回の成果は、昆虫がもつ様々な角がいかに獲得され、多様化したのかという角の進化過程の解明に繋がることが大いに期待されます。
 
【発表雑誌】
雑誌名: PLOS Genetics 2018年10月4日付(日本時間5日午前3時掲載)
論文タイトル: Rhinoceros beetle horn development reveals deep parallels with dung beetles
著者:Takahiro Ohde, Shinichi Morita, Shuji Shigenobu, Junko Morita, Takeshi Mizutani, Hiroki Gotoh, Robert A. Zinna, Moe Nakata, Yuta Ito, Kenshi Wada, Yasuhiro Kitano, Karen Yuzaki, Kouhei Toga, Mutsuki Mase, Koji Kadota, Jema Rushe, Laura Corley Lavine, Douglas J. Emlen & Teruyuki Niimi
DOI: https://doi.org/10.1371/journal.pgen.1007651
 
【研究グループ】
基礎生物学研究所 進化発生研究部門の大出高弘助教(現 京都大学)、森田慎一研究員と新美輝幸教授らのグループを中心として、基礎生物学研究所の重信秀治特任准教授らのグループ、モンタナ大学のDouglas Emlen教授らのグループ、ワシントン州立大学のLaura Lavine教授らのグループ、東京大学の門田幸二准教授、からなる国際共同研究チーム。
 
【研究サポート】
本研究は、科学研究費助成事業 (23128505,25128706,16H01452,18H04766)および基礎生物学研究所 共同利用研究(18-433)、NSF IOS (OEI-0919781,0919730)、NSF/JSPS EAPSI fellowship (1311025)、NIH PERT Post-doctoral fellowship (2K12GM000708-16)、the National Institute of Food and Agriculture, U.S. Department of Agriculture, Hatch Project (1001738)などの支援を受けて行われました。
 
【本研究に関するお問い合わせ先】
基礎生物学研究所 進化発生研究部門
教授 新美 輝幸(ニイミ テルユキ)
TEL: 0564-55-7606
E-mail: niimi@nibb.ac.jp
 
【報道担当】
基礎生物学研究所 広報室
TEL: 0564-55-7628
FAX: 0564-55-7597
E-mail: press@nibb.ac.jp