基礎生物学研究所
2015.11.06
植物由来の油は食用、工業用として世界中で、幅広く利用されています。近年では、環境に配慮したバイオ燃料やバイオプラステックの原料としても注目を集め、植物油脂の需要は年々拡大しています。油を搾る目的で栽培される多くの油糧作物*1は種子に油を蓄積するため、種子中の油脂含量を高めることが求められています。今回、基礎生物学研究所の金井雅武研究員、真野昌二助教および西村幹夫特任教授らの研究グループは、種子での油脂合成に関わる遺伝子をより長い期間働かせることで、種子内により多くの油を蓄積させることに成功しました。この成果は植物科学専門誌Plant Biotechnology Journal 2015年10月26日にオンライン公開されました。
【研究の成果】
多くの植物は、種の中に発芽に必要なエネルギー源として油脂やタンパク質を貯蔵します。研究グループは、植物種子における油脂の合成・分解をコントロールする仕組みを研究する過程で、種子内において油脂を合成する期間は種子形成の中期のみであり、後期は主にタンパク質を合成していることを明らかにしました(図1)。
図1種子形成における油脂とタンパク質の合成
(a): 種子中での油脂合成量およびタンパク質合成量の経時的変化。油脂合成は主に種子形成の中期に行われ、後期には主にタンパク質が合成される。
(b): 種子形成における前期、中期、後期の役割
そこで、従来よりも油を合成する期間を延長させることでより多くの油を合成させ、種子の油脂含量を増大させることができるのではないかと考えました。研究グループは、モデル生物であるシロイヌナズナを対象に、種子形成の中期~後期の遺伝子発現を促進するプロモーター*2を用いて、油脂合成を活性化させる遺伝子であるWRI1の発現時期を延長させた形質転換植物体(FUS3pro:WRI1)を作成しました。その結果、FUS3pro::WRI1の種子は巨大化し、油脂含量は野生型と比較して140%程度に増大しました(図2)。さらに、油脂合成時期を延長した上で、種子形成後期のタンパク質合成を抑制した形質転換植物体(FUS3pro:WRI1/12s1.4)を作成することで、油脂含量を野生型に比べて170%程度増大させることに成功しました。これにより、本来ならタンパク質合成に利用されるエネルギーを油脂合成に転用させ、種子のさらなる巨大化と油脂の増大に成功しました(図2)。
図2油脂合成期を延長させた種子
左は野生株の種、中が油脂合成時期を延長した形質転換体(FUS3pro:WRI1)の種、右が油脂合成時期を延長した上で種子形成後期におけるタンパク質合成を抑制した形質転換体(FUS3pro:WRI1/12s1.4)の種
本研究を通して、種子形成における油脂合成の期間の長さが油脂含量を決定する要因の1つであることが明らかになりました。また、種子における油脂合成期間の延長とタンパク質合成の抑制を同時に行うことで、より一層の巨大化と高油脂化に成功しました。
この研究を油糧作物に応用することで、1個体からたくさんの油が搾れる高脂質作物の誕生が期待されます。
【用語解説】
*1 油糧作物:主に油を搾る目的で栽培される作物。ダイズやナタネ、ゴマなど。
*2 プロモーター:遺伝子発現のON/OFFを担う領域。プロモーターはその遺伝子が、体のどこで、どの時期に、どれくらい発現するかをコントロールする重要な領域。
【論文情報】
Plant Biotechnology Journal 2015年10月26日付けでオンライン公開
論文タイトル:
著者:Masatake Kanai, Shoji Mano, Maki Kondo, Makoto Hayashi and Mikio Nishimura
【研究グループ】
本研究は、基礎生物学研究所の金井雅武研究員、西村幹夫特任教授、真野昌二助教、近藤真紀技術職員、長浜バイオ大の林誠教授からなるグループにより実施されました。
【研究サポート】
本研究は、JST CREST 二酸化炭素排出抑制に資する革新的技術の創出 「CO2固定の新規促進機構を活用したバイオマテリアルの増産技術開発」による支援のもとに行われました。
【本研究に関するお問い合わせ先】
基礎生物学研究所
特任教授 西村 幹夫(にしむら みきお)
TEL: 0564-55-7500
E-mail: mikosome@nibb.ac.jp
研究員 金井 雅武(かない まさたけ)
TEL: 0564-55-7504
E-mail: kanamasa@nibb.ac.jp
【報道担当】
基礎生物学研究所 広報室
TEL: 0564-55-7628
FAX: 0564-55-7597
E-mail: press@nibb.ac.jp