English

大学共同利用機関法人 自然科学研究機構

基礎生物学研究所

ニュース

プレスリリース詳細

2014.11.18

卵管が卵を一方向に運ぶようになる仕組みを発見

 基礎生物学研究所の石東博研究員(元京都大学生命科学研究科 大学院生)と藤森俊彦教授らは、京都大学、ルーヴァン・カトリック大学(ベルギー)との共同研究により、Celsr1とよばれるタンパク質が、卵管の内側(卵管上皮)の細胞の形や並びを制御しており、卵管が卵を一方向に輸送する機能に必須であることを明らかにしました。本研究成果は英国発生生物学専門誌Development電子版に11月18日に掲載されました。

 

【研究の背景】

 卵管は卵巣と子宮をつなぐ管で、卵と精子が出会う受精の場でもあると共に、卵を子宮に運ぶ機能を持つ、生殖に大変重要な器官です。卵管の内側の細胞は繊毛を持ち、この繊毛が運動することで、卵巣から子宮へ向かう分泌液の流れを生み出し、卵巣から排卵された卵を子宮方向へと運ぶことができます(図1)。また、卵管の輸送能力の低下は不妊の原因の一つになりえます。しかし、卵管内において、決まった方向に流れを作り出すメカニズムについては、ほとんど研究が進んでいませんでした。

 

fig1.jpg

図1:卵管上皮の細胞は多数の繊毛を持ち、それらの繊毛の方向性をもった繊毛運動によって、分泌液と共に、卵巣から排卵された卵も子宮方向へと運ばれる。

 

【研究の成果】

 研究グループはまず、正常なマウスの卵管を観察することで、卵管の中に流れが形成される過程を調べました。生後2日目の新生仔マウスの卵管上皮では、繊毛を持つ細胞の割合は約10%以下と少なく、また、はっきりとした方向性を持った繊毛運動はほとんど見られませんでした。成長に伴って、繊毛を持つ細胞の割合が増加すると共に(生後3週間で80%に上昇)、徐々に繊毛運動がはっきりとした方向性を獲得することが分かりました。

 

 次に研究グループは、Celsr1タンパク質の機能に着目して卵管の解析を行いました。この遺伝子は、細胞の方向性を制御することが知られており、神経管の形成や、毛並みの方向性を決めることに関わることが知られていましたが、卵管での機能はまったく不明でした。研究グループは、Celsr1遺伝子を欠損しCelsr1タンパク質が失われた変異マウスを用いて、卵管の解析を行いました。

 

 Celsr1を失ったマウスの卵管の内側を観察したところ、繊毛運動の方向性が乱れ、卵管から子宮への卵の輸送能力が損なわれることがわかりました。また、正常な卵管では、卵管上皮細胞の形は流れの方向に沿って細長い形態をとっているのに対して、Celsr1を失った変異マウスの卵管では、細胞は特定の方向に伸びずに、より丸い形をとっていました(図2)。

 

 さらに予想外なことに、卵管上皮が成すヒダ構造にも異常が見つかりました。正常な卵管では、成熟したマウスにおいて流れの向きに沿うように平行に並んだ約20個のヒダ構造が観察されます。しかし、Celsr1を失った変異マウスでは、ヒダ構造の方向性が揃わずにバラバラになり、通常の卵管では見られないヒダ構造の過剰な分岐も見られました。

 

 本研究から、Celsr1タンパク質が卵管上皮の個々の細胞の伸長方向から、繊毛運動の方向、そして3次元のヒダ形成に至るまでの、卵管が機能を発揮するために必要な多階層の構造形成に必要であることが分かりました。

 

fig2.jpg

図2:Celsr1タンパク質を失ったマウスの卵管では、多階層にわたる様々な極性の方向が損なわれる。

 

【本研究の意義と今後の展望】

 多細胞生物は様々な器官を通じて生命活動を行っており、多くの細胞から巧妙な器官を作り出すその仕組みは多くの生物学者の興味を惹くところです。本研究では、ほとんど研究されることの無かった卵管という器官に焦点をあて、Celsr1という一つのタンパク質がマウス卵管の繊毛運動の向き、細胞の形態、方向、ヒダの形といった多階層にわたる様々な制御に必須であることが明らかになりました。

 

 石研究員は「舞台の上でチェロ奏者の椅子を10個きれいに並べるだけでも大変だが、生き物は数千・数万の細胞の向きを緻密に、しかも効率よく揃えている。この不思議で巧妙な仕組みを今後さらに明かしていきたい。」と語っています。

 

 

【掲載誌情報】

発生生物学専門誌Development (2014年11月18日付けでオンライン先行掲載)

論文タイトル

Celsr1 is required for the generation of polarity at multiple levels of the mouse oviduct

著者:Dongbo Shi*, Kouji Komatsu*, Mayumi Hirao, Yayoi Toyooka, Hiroshi Koyama, Fadel Tissir, Andre M Goffinet, Tadashi Uemura, Toshihiko Fujimori

(* equal contribution)

 

【研究グループ】

本研究は、基礎生物学研究所の石東博研究員(元京都大学生命科学研究科・博士後期課程学生)、小松紘司元NIBBリサーチフェローと、藤森俊彦教授らが中心となって、初期発生研究部門の平尾真由美元技術支援員、豊岡やよい助教、小山宏史助教、ベルギー ルーヴァン・カトリック大学のFadel Tissir博士、Andre M Goffinet博士、京都大学生命科学研究科の上村匡教授との共同研究として行われました。

 

【研究サポート】

本研究は科学技術振興機構CREST、文部科学省科学研究費補助金、および基礎生物学研究所からのサポートを受けて行われました。石東博研究員は日本学術振興会の特別研究員(DC1)として本研究に従事しました。

 

【本件に関するお問い合わせ先】

基礎生物学研究所 初期発生研究部門

教授: 藤森 俊彦 (フジモリ トシヒコ)

〒444-8787 愛知県岡崎市明大寺町字東山5−1

Tel: 0564-59-5860

E-mail: fujimori@nibb.ac.jp

ホームページ http://www.nibb.ac.jp/embryo/

 

【報道担当】

基礎生物学研究所 広報室

Tel: 0564-55-7628

Fax: 0564-55-7597

E-mail: press@nibb.ac.jp