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2014年09月23日
根粒の数を調節する転写因子 〜根粒共生の省エネルギーシステムの起動スイッチを発見〜

自然科学研究機構 基礎生物学研究所

独立行政法人 農業生物資源研究所

 

根粒の数を調節する転写因子

〜根粒共生の省エネルギーシステムの起動スイッチを発見〜

 

 ダイズやインゲンなどの重要な農作物を含むマメ科植物は、葉を介した遠距離シグナル系によって根全体の根粒の数を調節しています。基礎生物学研究所の征矢野敬研究員、川口正代司教授と農業生物資源研究所 植物共生機構研究ユニット 林誠ユニット長らの研究グループは、根粒の着生数のバランスを保つ機構において、NINという名の一つの転写因子が根粒形成の開始と抑制を同時に行っていることを明らかにしました。根粒の数の調節は、マメ科植物が過剰なエネルギーの消費を回避して健全に生長するたに極めて重要です。この成果は、米国科学アカデミー紀要の電子速報版に9月22日(米国東部時間)の週に掲載されます。

 

【研究の背景】

 マメ科植物は土壌細菌である根粒菌と共生して根粒と呼ばれる瘤を根に形成します。根粒の内部に共生する根粒菌は、植物が一般には利用できない大気窒素を利用し易い窒素栄養素に変換してくれます。一方、植物は光合成産物をエネルギー源として根粒菌に供給します。この共生関係は、マメ科植物が窒素栄養素の乏しい荒れ地で生育するために極めて有効に作用します。しかし、根粒の数が多すぎると窒素固定や根粒形成に多くのエネルギーが消費され、植物の生長が阻害されてしまいます。そのため、葉を介した遠距離シグナル系によって、根での根粒の着生数を調節して過度なエネルギー消費を抑制しています。この根粒共生の省エネシステムをAON (autoregulation of nodulation)と呼びます。AONがどのように活性化されて、根粒の着生数を制御しているのかは分かっていませんでした。

 

【研究の成果】

 研究グループは、ミヤコグサを用いて根粒形成の誘導とAONを活性化する因子はNIN (Nodule Inception) と呼ばれる同じ転写因子であり、NINの発現量の調節が根粒共生の省エネシステムの鍵であることを明らかにしました。

 発達過程にある根粒ではCLE-RS1、CLE-RS2と言った小さなペプチドが合成され根から葉に輸送されます。CLE-RS1/2ペプチドは葉で機能するHAR1などの受容体を介して、葉から根へ移動する抑制シグナルの生産を促すことで根粒の形成を根全体で抑制すると考えられています(図1)。これがAONの概略です。一方、根粒の形成には、NIN転写因子が必須で根粒の形成を誘導するスイッチのような働きをしています。

 

 NINを過剰発現させた根では根粒菌の接種なしに根粒と似た構造が形成されます。その一方で、根粒菌の感染による根粒の形成が著しく抑制されていました。NINを過剰に発現させた根ではCLE-RS1/2の発現量が上昇しており、NINがCLE-RS1/2遺伝子を直接の標的として活性化することを発見ました(図2)。

 AONは一部の根で根粒が形成されると葉を介した遠距離シグナルによって別の根でも根粒の形成を全身的に抑制します。NINを過剰発現させた毛状根をミヤコグサの茎に形成させると、NINが過剰発現していない通常の根(野生型)でも全身応答的に根粒の形成が抑制されました(図3A, B)。さらに、NINの過剰発現が全身応答的に作用している根では、根粒菌の感染によって誘導されるNIN遺伝子とNINが活性化するCLE-RS1/2の発現の上昇が抑制されており、この発現の抑制にはAONの重要な受容体タンパク質であるHAR1が必要でした(図3C)。

 

 NINは根粒の形成を誘導すると同時にCLE-RS1/2遺伝子を活性化して、自分自身の発現を抑制していると考えられます。NINは根粒形成に必須な因子ですので、NINが十分に発現しなければ根粒は出来ません。通常、AONのシグナルが、根から葉、葉から根へ伝わるには根粒菌の感染から3日程度必要と考えられています。この時間間隔が、最初の根粒菌の感染による根粒の形成を抑制することなく、次に着生する根粒の形成を抑制して、無駄にエネルギーを浪費しないためのシステムをうまく構築していると考えられます。この省エネシステムの中心的な因子の一つがNINであり、NINの発現量の変化が根粒着生数のバランス制御に重要と考えられます。

 

 根粒菌との共生システムはマメ科植物が進化の過程で獲得した特有な形質です。しかし、NINやCLE-RS1/2、またHAR1とよく似た因子は植物に広く保存されています。このことを考慮すると、今回の成果から、マメ科植物だけでなく多くの植物においても似たような遠距離シグナル系による生長制御の省エネシステムの研究や農作物の効率的な栽培技術への応用に進展する可能性が考えられます。

 

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図1:AON遠距離シグナル系による根粒形成抑制機構のモデル図

 

 

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図2:NINによるCLE-RS1, CLE-RS2の発現誘導

(A) NINの発現を誘導した根でCLE-RS1, CLE-RS2の発現量を経時的に解析した。(B) CLE-RS1, CLE-RS2遺伝子の上流領域にあるNIN結合部位を含むDNA断片(上段)と結合部位に変異を導入したDNA断片(下段)によるGUSレポーターの発現。GUSが発現している根粒は青く染色されている。

 

 

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図3NIN過剰発現による全身的な根粒形成抑制

(A, B) 実験のモデル図。(C, D) NINを過剰発現する毛状根(B, D)と過剰発現しない毛状根(A, C; 対照実験)を形成させた植物で根粒形成を比較した。(C, D)の上の写真は明視野像を示す。下の図は蛍光像を示す。毛状根はGFPの発現によって緑の蛍光を、根粒は赤の蛍光を発する。破線は野生型の根の位置を表す。矢頭は根粒。(E) NIN遺伝子の発現をプロモーターGUSで解析した。根粒菌の感染によるGUS発現部位を矢頭で示す。har1変異体ではNIN過剰発現による全身応答的な発現抑制は見られなかった。

 

【掲載誌情報】

雑誌名:Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(米国科学アカデミー紀要)電子先行版にて9月22日の週のうちに発表

論文タイトル:NODULE INCEPTION creates a long-distance negative feedback loop involved in homeostatic regulation of nodule organ production.

著者: Takashi Soyano, Hideki Hirakawa, Shusei Sato, Makoto Hayashi, Masayoshi Kawaguchi

 

【研究グループ】

本研究は、基礎生物学研究所の川口正代司 教授、征矢野敬 研究員(NIBBリサーリフェロー)と農業生物資源研究所 植物共生機構研究ユニット 林誠 ユニット長を中心となって、かずさDNA研究所 植物ゲノム部 佐藤修正 研究員、平川秀樹 主任研究員の協力によって行われました。

現 東北大学大学院 生命科学研究科 准教授

 

【研究サポート】

本研究は、日本学術振興会 最先端・次世代研究開発支援プログラム、農業生物資源研究所 運営費交付金、文部科学省科学研究補助金のサポートを受けました。

 

【本研究に関するお問い合わせ先】

基礎生物学研究所 共生システム研究部門

教授: 川口 正代司 (カワグチ マサヨシ)

〒444-8585 愛知県岡崎市明大寺町字西郷中38

TEL: 0564-55-7563 E-mail: masayosi@nibb.ac.jp 

ホームページ http://www.nibb.ac.jp/miyakohp/

 

農業生物資源研究所

植物科学研究領域 植物共生機構研究ユニット

ユニット長: 林 誠(ハヤシ マコト)

〒305-8602 茨城県つくば市観音台 2-1-2

TEL: 029-838-8282 E-mail: makotoh@affrc.go.jp

ホームページ http://www.nias.affrc.go.jp/plant_symbiosis/

 

【報道担当】

基礎生物学研究所 広報室

TEL: 0564-55-7628 FAX: 0564-55-7597

E-mail: press@nibb.ac.jp

 

農業生物資源研究所 広報室

TEL: 029-838-8469

E-mail: nias-koho@nias.affrc.go.jp