プレスリリース

Homeニュースプレスリリース一覧 > プレスリリース
2013年10月04日
組織の移動が生み出す力が生物の形づくりを支える

 動物の発生の初期には、細胞や組織の形態変化や再配置が連続的に起こり、その結果、体の複雑な形や器官が形成されます。このしくみはこの30年間、分子や遺伝子の役割として研究されてきましたが、近年の培養細胞を用いた研究からは、細胞・組織間に生じる伸展・圧縮・抵抗力・摩擦といった「物理的な力」も生命現象を制御することが分かってきています。しかし、胚発生において力がどこでどれほどの規模で生み出されていて、それが隣接する組織の細胞運動にどのような影響を与えるのかは、詳細に調べられていないのが現状です。

 今回、基礎生物学研究所・形態形成研究部門の原佑介研究員、上野直人教授らの研究グループは、名古屋工業大学・バイオメカニクス研究室と共同で、アフリカツメガエルをモデルとして動物の原腸陥入過程で生まれる物理的な力の役割を解析しました。その結果、原腸陥入時に積極的に移動する組織によって生み出される力の規模や伝達の様子が明らかとなり、さらにその生み出された力がツメガエルの脊索(体の伸長や軸形成を担う中胚葉性の棒状組織)を正しく形成する為に必要であることを新たに発見しました。脊索形成のメカニズムはこれまで主に遺伝子や分子の視点から盛んに研究されてきましたが、本研究は新たに物理的な力が脊索形成を支える一因子であることを示した重要な成果です。

 この成果は、2013年10月15日に発行予定の米発生生物学会誌Developmental Biology誌にて発表されます。

 

【研究の背景】

 ヒトやマウスなどの脊椎動物やより祖先の原索動物では、受精後に体の形が作られるごく初期の段階(原腸陥入)で「脊索」と呼ばれる棒状の組織を形成します。脊索は体の中心軸を作り、体を細長く変形させる機能を持った重要な器官で、形成が正しく行われないと後の発生や器官形成に重篤な影響を及ぼします。そのため、脊索形成のしくみは長年研究されてきました。

 今回、研究グループはツメガエル胚の原腸陥入運動の観察から、脊索となる組織は周囲の組織の移動によって生じる物理的な力にさらされており、脊索形成はその力の影響を受けているのではないかと推測しました。研究グループはツメガエル原腸胚の中でも先行中胚葉と脊索中胚葉と呼ばれる2種類の組織の関係に着目しました(図1)。先行中胚葉はいち早く胚内に陥入し動物極側へ向かって胞胚腔蓋を足場として積極的に移動する能力を持っています。一方、先行中胚葉の後方に位置する脊索中胚葉は、動物極方向への移動はしませんが将来は脊索になります。研究グループは先行中胚葉の能動的な移動が原腸胚における力の発生源である可能性が高いと予想し、先行中胚葉の組織移動が生み出す力を計測しました。また、この力が脊索中胚葉へと伝播し、脊索の形態形成を制御する可能性について検証しました。

 

 

fig1.jpg

図1 ツメガエルの原腸陥入の模式図

先行中胚葉(赤)は動物極を目指して積極的に移動していく。脊索中胚葉(黄)は先行中胚葉のあとに引き続いて陥入する。研究グループはこの2種類の中胚葉間で力のやりとりがあると推測した。

 

 

【研究の成果】

 研究グループは、生体内の先行中胚葉組織の移動を生体外で再現する培養系とガラス針やレーザーアブレーション実験(レーザーによる組織切除)を組み合わせることにより、先行中胚葉が組織移動によって約40 nNの力を生み出す能力を持っていること(図2A-D)、また、先行中胚葉が脊索中胚葉を伸展していることを実験的に示しました(図2E,F)。

 

 

fig2.jpg

図2 組織移動が生み出す力の計測と、組織が受ける張力の推定

(A-D)先行中胚葉に押されて曲げられたガラス針の変位とバネ定数を掛け合わせることで力が計算できる。 (E-F)組織に強い張力が働いている場合、レーザーによって切断されると組織が大きく開く。移動する先行中胚葉がある状態では脊索中胚葉でみられた反動が大きいことから、先行中胚葉が移動によって脊索中胚葉に張力を生み出していることがわかる。模式図中の赤は先行中胚葉、黄色は脊索中胚葉、青色は外胚葉を表している。

 

 

 実際の胚内でこの先行中胚葉の動きを移動に必要な分子の機能阻害によって止めたところ、原腸陥入が異常になり、脊索中胚葉から形づくられるはずの脊索の形態が異常になりました(図3)。細胞レベルでさらに詳しく調べると、先行中胚葉が脊索中胚葉組織を牽引する力が無いと、脊索形成を支える細胞の形態変化や整列が正しく起こらないことが分かりました。また、既知の液性因子による制御機構との関連を調べた結果、本研究で見出された先行中胚葉による力学的な制御は既知の液性因子とは独立して脊索形成に関与していることが分かりました。

 

 

fig3.jpg

図3 原腸陥入時に先行中胚葉の前方(写真の上側)への移動を妨げたときの、原腸陥入の様子

脊索マーカーで脊索構造を可視化すると、先行中胚葉の移動を止めた胚では長さが短く、幅が広くなった異常な脊索が高頻度で観察された。

 

 本研究を通して、原腸胚に含まれる組織の移動が力を発生する能力を持っていることが明らかとなり、その生まれる力を計測することに世界に先駆けて成功しました。また、既知の分子シグナル経路に加えて、この胚内に生まれた力が脊索中胚葉の力分布に作用して脊索形成を制御するという新しいモデルが提唱されました。細胞・組織の移動は他の発生プロセスでも普遍的に見られる現象ですから、本研究は脊索の形成メカニズムの理解だけでなく、他の発生現象における力の発生・伝達・役割の理解への貢献も期待される内容です。

 

【発表雑誌】

米発生生物学会誌Developmental Biology 2013年10月15日発行の号に掲載されます。

電子版は2013年10月2日に先行公開されました。

 

論文タイトル: Directional migration of leading-edge mesoderm generates physical forces: Implication in Xenopus notochord formation during gastrulation

著者:Yusuke Hara, Kazuaki Nagayama, Takamasa S. Yamamoto, Takeo Matsumoto, Makoto Suzuki and Naoto Ueno

PubMed: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23933171

 

【研究グループ】

本研究は基礎生物学研究所 形態形成部門の原佑介研究員、上野直人教授が中心となって、名古屋工業大学 バイオメカニクス研究室の長山和亮 准教授、松本健郎 教授の協力を得て実施されました。

 

【研究サポート】

本研究は、日本学術振興会特別研究員制度および文部科学省科学研究費補助金新学術領域研究「ミクロからマクロへ階層を超える秩序形成のロジック」のサポートを受けて行われました。

 

【本件に関するお問い合わせ先】

基礎生物学研究所 形態形成研究部門

教授  上野 直人 (ウエノ ナオト)

Tel: 0564-55-7570(研究室) Fax: 0564-55-7571

E-mail: nueno@nibb.ac.jp

 

【報道担当】

基礎生物学研究所 広報室

TEL: 0564-55-7628

FAX: 0564-55-7597

E-mail: press@nibb.ac.jp