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2013年07月08日
R3 RPTPサブファミリーが多数のRPTKを基質にしていることを発見

 基礎生物学研究所・統合神経生物学研究部門の野田 昌晴 教授の研究グループは、受容体型タンパク質チロシン脱リン酸化酵素(RPTP)のR3サブファミリーに属する分子群が、多数の受容体型タンパク質リン酸化酵素(RPTK)を基質分子とし、それらの活性を制御していることを見出しました。RPTKは生体内の情報伝達において重要な役割を果たしており、RPTKの異常によって癌や成人病などの様々な疾患を発症することが知られています。今回の成果は、R3 RPTPサブファミリー分子の生理機能を明らかにする上での重要な基盤となるとともに、R3 RPTPサブファミリーの活性制御を通して、それらの基質となるRPTKの活性を制御するという新しい技術の開発につながるものです。本研究成果は、Journal of Biological Chemistryに掲載されました。

 

[研究背景]

 タンパク質のチロシンリン酸化による情報伝達系は、細胞の基本的な機能である増殖・分化や細胞移動・接着等の制御において必須の役割を果たすとともに、神経系や免疫系を始めとする様々な組織・器官における高度な機能発現の基盤となっています。タンパク質のチロシンリン酸化状態は、リン酸化反応を担うタンパク質チロシンリン酸化酵素(PTK)と脱リン酸化反応を担うタンパク質チロシン脱リン酸化酵素(PTP)によって厳密に制御されています。PTKとPTPは共に細胞質型と受容体型に大別され、受容体型PTK(RPTK) (図1)と受容体型PTP(RPTP) (図2)は、細胞外からの情報を受容し、それらを細胞内に伝達する上で中心的な役割を果たしていると考えられています。しかしながら、RPTPについては、その多くがその生理的な基質分子が未同定である等、RPTKに比べて研究が立ち遅れているのが現状です。

 統合神経生物学研究部門では、これまでにRPTPの生理機能並びに情報伝達機構を明らかにする研究を進めてきました。この中で、生体内においていくつかのRPTPがRPTKを基質とし、その活性の制御を行っていることを見出しました。そこで今回、研究グループは、R3 RPTPサブファミリーの基質分子となるRPTKを網羅的に同定するために、大規模スクリーニングを行いました。

 

[研究成果]

 R3 RPTPサブファミリーはPtpro, Ptprb, PtprjおよびPtprhの4つのRPTPから構成されます。今回研究グループは、独自に開発したスクリーニング系(図3)により、84種類の組み合わせの中から、これら4つのRPTPの基質になるRPTKを探索しました。その結果、30種類の酵素-基質関係を見出すことに成功しました(表1)。重要なことは、これらのうち25が新しい酵素-基質関係の組み合わせであったことです。また、あるRPTKは4つのRPTP全ての基質となるのに対して、別のRPTKは4つのRPTPのうち1つあるいは2つのみの基質となることが分かりました。このように、同一のサブファミリーに属するRPTP間にも基質特異性の違い(基質分子の違い)があることが明らかになりました。

 ランダムに選び出した酵素-基質関係にあるRPTPとRPTKの組み合わせについて、培養細胞を用いて確認実験を行った結果、全ての酵素-基質関係が実際に成立していることが確認されました。また、特に重要なこととして、R3 RPTPの発現量や活性を変化させることで、RPTKの活性およびその情報伝達を制御することが可能であることが分かりました。

 

[成果の意義]

 RPTPは基質分子を脱リン酸化することでその生理機能を発揮します。今回、R3 RPTPサブファミリーについて多くの基質分子が同定されたことにより、これらの知見を基にしてR3 RPTPサブファミリーの生理機能を明らかにする研究が飛躍的に進展することが予想されます。

 R3 RPTPサブファミリーの基質分子として同定されたRPTKの多くが、その異常によって癌や成人病はじめとする様々な疾患の原因となることが知られています。今回、R3 RPTPサブファミリーがこれらのRPTKの活性制御に機能することが明らかになったことにより、R3 RPTPサブファミリーの活性制御を通して、これらのRPTKの活性を制御する新規技術を開発する道が開けました。今後、R3 RPTPサブファミリー分子を標的とする薬剤が様々な疾患の治療薬として開発されることが期待されます。

 

 

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1 受容体型タンパク質リン酸化酵素(RPTK)ファミリー 人のゲノムには58のRPTK遺伝子が存在しています。構造上の類似性から、RPTKは約20のサブファミリーに分類されます。RPTKは細胞外領域にリガンド分子が結合することにより活性化し、細胞内に情報を伝えます。RPTKは、細胞増殖・分化、細胞移動等を制御するとともに、様々な組織・器官が高度な機能を発現する上で必須の役割を果たしています。このため、RPTKに異常が生じると、癌や成人病などの様々な疾患が発症します。

 

 

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2 受容体型タンパク質脱リン酸化酵素(RPTP)ファミリー 人のゲノムには21のRPTP遺伝子が存在しています。構造上の類似性から、RPTPは8つのサブファミリーに分類されます。RPTPは特異的な基質分子を脱リン酸化することで生理機能を発揮しますが、その多くが生理的な基質分子が未同定である等、研究は立ち遅れています。本研究においては、R3 RPTPサブファミリーが基質とするRPTKを探索しました。

 

 

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3 RPTPの基質スクリーニングシステム RPTKの細胞内領域をGAL4のDNA結合領域と融合したタンパク質と、基質捕捉型変異を施したRPTP細胞内領域をNF-kBの転写活性化領域と融合したタンパク質をレポーター遺伝子のpFR-Lucとともに培養細胞に発現させました。RPTKがRPTPの基質分子になる場合は、両者が複合体を形成し、その結果ルシフェラーゼ遺伝子を活性化します。発現するルシフェラーゼの量を測定することで、RPTKがRPTPの基質分子になるかどうか判定できます。

 

 

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1  スクリーニング結果のまとめ それぞれの組み合わせで基質-酵素関係が成立する場合を+で示しました。-は、その組み合わせが酵素-基質関係に無いことを示しています。+の数は、RPTPとRPTKの相互作用の強さを表しています。

 

[発表雑誌]

科学雑誌 Journal of Biological Chemistry 2013年6月28日 公開(Paper in Press)

論文タイトル:Substrate specificity of R3 receptor-like protein tyrosine phosphatase subfamily towards receptor protein tyrosine kinases.

著者:Juichi Sakuraba, Takafumi Shintani, Sachiko Tani, Masaharu Noda

 

[研究グループ]

本研究は、基礎生物学研究所 統合神経生物学研究部門の野田昌晴教授が中心となって実施されました。

 

[研究サポート]

本研究の一部は、文部科学省科学研究費助成事業のサポートを受けて行われました。

 

[本件に関するお問い合わせ先]

基礎生物学研究所 統合神経生物学研究部門

教授: 野田 昌晴 (ノダ マサハル)

TEL: 0564-59-5846(研究室)

E-mail: madon@nibb.ac.jp

URL: http://niwww3.nibb.ac.jp/

 

[報道担当]

基礎生物学研究所 広報室

TEL: 0564-55-7628 FAX: 0564-55-7597

E-mail: press@nibb.ac.jp