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2013年02月01日
オートファジーが染色体を安定化するしくみの解明 〜栄養欠乏条件下での細胞分裂にはタンパク質の分解と再利用が重要〜

千葉大学 大学院融合科学研究科

自然科学研究機構 基礎生物学研究所

 

 千葉大学大学院融合科学研究科の松浦彰教授、松井愛子日本学術振興会特別研究員(博士後期課程)、自然科学研究機構基礎生物学研究所の鎌田芳彰助教の研究グループは、細胞のリサイクルシステムであるオートファジーが、栄養が欠乏した環境下で細胞分裂を完了するために重要であることを発見しました。オートファジーを行えない細胞では、栄養欠乏環境下で正常な分裂ができず、その結果染色体数の異常が生じやすくなることから、オートファジーには癌などの原因となる染色体異常を抑制する働きがあると考えられます。この研究成果は米国科学雑誌「PLOS Genetics」オンライン版に掲載されました。

 

<研究成果の背景>

 オートファジー(自食作用)は、細胞内成分を分解・再利用するリサイクルシステムです。飢餓条件下の細胞ではオートファジーが誘導され、細胞内の不要なタンパク質が分解されます。タンパク質の分解産物であるアミノ酸を再利用することで、細胞は栄養が欠乏した条件でも生存し続けることができます。

 近年、オートファジーに関わる遺伝子やタンパク質の働きは次々と明らかになっています。また、オートファジーが癌を抑制する働きをもつことも知られています。癌は、細胞のもつ遺伝情報に異常が生じた結果、細胞が無秩序に増え続けるようになる病気ですが、オートファジーがどのように癌の発症を抑えているのかについては、まだよくわかっていませんでした。

 

<研究の成果>

 今回研究グループは、出芽酵母を実験材料に栄養飢餓条件における細胞分裂状態の変化を経時的に追跡しました。栄養飢餓状態にある細胞は、細胞分裂を完了した時期(G1期)で細胞周期を停止することが明らかになっています。一方、研究グループのこれまでの研究で、細胞が栄養飢餓に曝されると、核が分裂する直前の時期(G2期)で細胞周期が一時停止することを明らかにしていました。研究グループは今回の研究で、G2期で一旦停止した細胞が再び分裂過程に入り、細胞分裂を完了するためにはオートファジーが必要であることを見いだしました。オートファジーを行うことができない変異細胞はG2期に留まりつづけますが、この状態の細胞に特定のアミノ酸を加えるだけで再び分裂過程に入ることから、オートファジーの役割は栄養飢餓により不足したアミノ酸を、自己成分の分解によって作り出すことにあることがわかります。

 さて、栄養飢餓条件で細胞が細胞周期を完了してG1期に至ることにどのような意義があるのでしょうか?オートファジーを行うことができない変異細胞では、栄養飢餓に長時間曝されると異常な核をもつ細胞が現れ、さらにその後栄養条件が回復すると、染色体数が増えた細胞の出現頻度が増加しました。染色体数の増加は癌細胞でみられる異常の1つです。このことから、オートファジーの働きにより栄養飢餓条件下で細胞分裂を調節するしくみが、癌に繋がる遺伝的な異常の発生を抑制していることが明らかになりました。

 オートファジーには癌や神経変性疾患などさまざまな病気を抑える働きがあることが知られています。出芽酵母をモデルとしたオートファジー研究の成果は、将来それらの予防・治療法に役立てられる可能性を秘めています。

 

 本研究は、文部科学省科学研究費補助金(基盤研究(C)、特別研究員奨励費)、基礎生物学研究所個別共同利用研究、および千葉大学COEプログラムによる支援を受けて実施されました。

 

<掲載論文と著者>

‘The role of autophagy in genome stability through suppression of abnormal mitosis under starvation’  (飢餓条件下での異常有糸分裂の抑制を介した、オートファジーのゲノム安定性における役割)

PLoS Genetics, 9 (1): e1003245 (doi: 10.1371/journal.pgen.1003245)

Aiko Matsui, Yoshiaki Kamada, and Akira Matsuura(松井愛子、鎌田芳彰、松浦 彰)

 

<参考文献>

Akio Nakashima, Yoshiko Maruki, Yuko Imamura, Chika Kondo, Tomoko Kawamata, Ippei Kawanishi, Hideki Takata, Akira Matsuura, Kyung S. Lee, Ushio Kikkawa, Yoshinori Ohsumi, Kazuyoshi Yonezawa, and Yoshiaki Kamada. (2008) The yeast Tor signaling pathway is involved in G2/M transition via Polo-kinase.  PLoS ONE 3: e2223

 

 

<本件に関するお問い合せ先>

千葉大学大学院融合科学研究科 松浦 彰(まつうら あきら)

Tel:043-290-3706 Fax:043-290-3706

E-mail: amatsuur@faculty.chiba-u.jp

 

自然科学研究機構基礎生物学研究所 鎌田芳彰(かまだ よしあき)

Tel: 0564-55-7536 Fax: 0564-55-7400

E-mail: yoshikam@nibb.ac.jp

 

 

<参考図>

 

fig1.jpg

 

図1 栄養飢餓条件下での細胞周期進行におけるオートファジーの意義

細胞が分裂するためには、細胞周期におけるいくつかの段階を順次行う必要がある。栄養が豊富な条件から栄養飢餓条件へと変化すると、細胞は細胞周期のG2 期で一時停止する(①)。オートファジーが正常に行われると、やがて細胞はM期へと移行し(②)、G1期に至る(③)。その後細胞は栄養条件が回復するまでG1期に留まる(④)。一方、オートファジーができない変異細胞では、G2期で停止した後の細胞周期の再開に問題があり、核が異常に分裂した細胞が高頻度で生じてしまう(②’)。

 

 

fig2.jpg

 

図2 オートファジーができない細胞で見られる核の異常

矢じりは、1つの細胞内で分裂した異常な核を示す。