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大学共同利用機関法人 自然科学研究機構

基礎生物学研究所

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2012.03.06

葉が平たい形に成長するメカニズムを解明

葉は光を受けてCO2を吸収し、栄養分を作り出す光合成をおこなう場所です。葉は通常、平たい形で、表側と裏側に違いがありますが、これらは多くの光を集めて効率の良い光合成をおこなうために大事な特徴です。葉は、表裏方向へはあまり伸びず横方向への伸長がよく起こることで、平たい形に成長します。近年のシロイヌナズナなどのモデル植物を用いた分子遺伝学的な研究から、表側と裏側それぞれの性質を決める一連の遺伝子群が、表裏の違いを生み出すだけでなく、横方向への成長にも関わることがわかってきました。しかしながら、横方向への成長を引き起こす詳しいしくみはわかっていませんでした。基礎生物学研究所の岡田清孝所長と中田未友希研究員らを中心とする研究グループは、葉がつくられる初期の過程において、表側領域と裏側領域の間の領域で働く2つの遺伝子(PRS, WOX1(注)を見いだしました。そして、この表と裏の間の領域(中間領域)で働く2つの遺伝子が、葉の横方向への成長を引き起こしていることを明らかにしました。この成果は、米科学専門誌 The Plant Cell誌に掲載されました。今後、植物の品種改良などに役立つ基礎データとなることが期待されます。

 

fig1.jpg図1:PRSとWOX1の2つの遺伝子の機能が失われたシロイヌナズナ(右)では、正常な株(左)に比べて葉の横方向への成長が抑制され、葉が細くなる。

 

葉の形は、光合成を効率よく行うための大変重要な要素です。多くの植物で、葉は平たい形をしています。葉の元となる原基は、もともとは丸い形をしていますが、成長の過程で、横方向に細胞が増えることで、葉の平たい形ができあがります。横方向への成長には、葉の裏と表をつくるしくみが関わることはわかってきましたが、その詳しいメカニズムは不明でした。

 

研究グループは、シロイヌナズナというモデル植物を使って、植物の形を決める遺伝子の働きについて研究を行ってきました。

 

今回、研究グループは、花の形を決める遺伝子として知られていたPRSという遺伝子の、葉における役割に着目しました。そして、PRSと、PRSに良く似たWOX1(注という、2つの遺伝子を壊して機能を失わせると、葉の横方向への成長が阻害され、葉が細くなることを発見しました(図1)。詳しく調べると、この2つの遺伝子は、将来葉の裏になる領域と、表になる領域に挟まれた領域(中間領域)で働いていることがわかりました(図2)。

 

fig2.jpg図2:葉が形成されるごく初期の段階(左図)で、将来の葉の表側になる領域(黄色)と葉の裏側になる領域(青)の間の中間領域(ピンク)において、PRSとWOX1の2つの遺伝子が働き、葉の横方向への成長を促していること(矢印)、その結果、葉が平たい形に成長すること(右図)を明らかにした。

 

また、WOX1遺伝子を、葉の裏側で強制的に働かせると、本来成長が起こらない場所であるにもかかわらず成長が引き起こされることを発見しました(図3)。

 

fig3.jpg

図3:WOX1遺伝子を葉の裏側で強制的に働かせると、矢印で示した部分で異所的な成長が起こり、突起状の構造が形成された。

 

これらの実験結果から、この2つの遺伝子が表側領域と裏側領域の間で働くことにより、葉の横方向への成長を引き起こしているというしくみが明らかになりました。また、葉の形成の初期段階において、この2つの遺伝子が働いている部分は、表側とも裏側とも区別される中間領域という新たな領域と定義できることもわかりました。

 

今回の成果により、シロイヌナズナにおいて葉が平たい形に成長するメカニズムが明らかとなりました。このメカニズムは他の植物の葉においても同じように働いていると考えられ、地球上に存在する様々な形の葉の成り立ちを理解する基盤となることが期待されます。また、園芸植物や作物などの品種改良を行う上でも、今回得られた知見は役立つと考えられます。この成果は、米科学専門誌 The Plant Cell誌に掲載されました。

 

注)PRS, WOX1の2つの遺伝子は、共にWUSCHEL-RELATED HOMEOBOXと呼ばれる遺伝子ファミリーに属し、構造的にも機能的にもよく似た転写因子をコードしている。

 

[発表雑誌]

米科学専門誌 The Plant Cell  (プラントセル)

日本時間2012年2月29日にオンライン先行掲載

論文タイトル:

" Roles of the Middle Domain–Specific WUSCHEL-RELATED HOMEOBOX Genes in Early Development of Leaves in Arabidopsis "

著者:Miyuki Nakata, Noritaka Matsumoto, Ryuji Tsugeki, Enno Rikirsch, Thomas Laux, and Kiyotaka Okada

 

[研究グループ]

 本研究は基礎生物学研究所の岡田清孝所長と中田未友希研究員が中心となり、京都大学大学院理学研究科の槻木竜二助教とフライブルグ大学Thomas Laux教授らの協力を得て行われました。

 

[研究サポート]

文部科学省科学研究費補助金および日本学術振興会(特別研究員奨励費)のサポートを受けて行われました。

 

[本件に関するお問い合わせ先]

基礎生物学研究所

所長 岡田 清孝(オカダ キヨタカ)

Tel: 0564-55-7651

E-mail: kiyo@nibb.ac.jp

 

研究員 中田 未友希(ナカタ ミユキ)

Tel: 0564-55-7569

 

[報道担当]

基礎生物学研究所 広報室

倉田 智子

Tel: 0564-55-7628 Fax: 0564-55-7597

E-mail: press@nibb.ac.jp