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2009年05月25日
無脊椎動物の生殖腺刺激ホルモンを世界に先駆けヒトデから発見

基礎生物学研究所の長濱嘉孝特任教授と東京学芸大学の三田雅敏教授らの研究グループは、棘皮動物であるイトマキヒトデ(図1)の放射神経抽出物から無脊椎動物で最初となる生殖腺刺激ホルモンを精製し、構造を明らかにすることに成功しました。驚いたことに、ヒトデの生殖腺刺激ホルモンは、ヒト女性の妊娠や分娩を助ける働きのあるリラキシンと呼ばれるホルモンに良く似た化学構造を持つことがわかりました。今後、このリラキシン様ホルモンが他の無脊椎動物にも存在し、同様の働きを示すのかを明らかにすることが必要です。そのような研究を通して、有用な海産無脊椎動物(ウニ、カニ、エビ等)のより詳しい生殖機構が明らかになることが期待されます。研究成果は、米国科学アカデミー紀要電子版(5月21日号)にて発表されました。

[研究の背景]

動物における生殖腺刺激ホルモンの主な働きの1つは、卵巣や精巣に作用にして、卵や精子を成熟させ、受精できるようにすることです。いろいろな脊椎動物を用いたこれまでの研究から、このような作用をもつホルモンは、分子量が比較的小さい糖タンパク質であることが分かっています。ところが、無脊椎動物では、卵や精子を成熟させる働きをもつホルモンはヒトデの放射神経にある生殖巣刺激物質と呼ばれるものが唯一知られているのみです。しかも、このヒトデのホルモンは50年以上も前に存在が示されたものの、その実体は依然として不明でした。今回研究グループは、5,500匹のヒトデから以下に述べる方法でホルモンの実体を明らかにすることに世界で初めて成功し、ヒトデの生殖腺刺激ホルモンがリラキシンと呼ばれる物質であることを発見しました。

090525fig1.jpg図1: イトマキヒトデとその放射神経

[研究の成果]

イトマキヒトデ(Asterina pectinifera) 約5,500匹から放射神経を集め、水抽出液を作成し、液体カラムクロマトグラフィーという方法を用いて、抽出液の中に混在する物質をサイズや性質の違いによって選り分けました。そして、それぞれについて生殖腺を刺激する活性を持つか否かについてテストし、ホルモンが存在する分画を探しました。すると強い生殖腺刺激活性をもつ分画は1つに限られました。この分画に含まれる物質をペプチドシーケンサーと質量分析計で詳しく分析し、ついにこのホルモンの化学構造を明らかにすることにすることに成功しました。その結果、ヒトデの生殖腺刺激ホルモンは、ヒト女性の妊娠や分娩を助ける働きのあるリラキシンと呼ばれるホルモンに良く似た化学構造を持つことがわかりました(図2)。

090525fig2.jpg図2: ヒトデのリラキシン様ホルモンの構造

ホルモンの化学構造が明らかになったことで、ヒトデのリラキシン遺伝子を特定することに成功しました。そして、リラキシンがヒトデ放射神経の支持細胞で生成されることを突き止めました。さらに、研究グループはこのホルモンを人工的に合成することにも成功し、その生物活性を詳細に調べることが可能になりました。合成ホルモンを卵巣片に処理すると20-30分で卵成熟および排卵が誘起され(図3)、また、成熟直前の雌雄ヒトデに投与すると、いずれの個体も水槽壁に沿って移動を始め20-30分後には水面近くで放卵、放精しました。

090525fig3.jpg図3: ヒトデ合成ホルモンによる生体外での卵成熟・排卵誘導

[今後の展開]

本研究により、無脊椎動物ではじめて生殖腺刺激ホルモンの化学構造が決定されました。驚くことに、今回見つかったヒトデのホルモンはヒト女性の妊娠や分娩を助けるホルモンであるリラキシンに非常に良く似た物質であることが分かりました。リラキシンは1930年に発見されたホルモンですが、哺乳類以外の動物ではまだよく研究されていません。本研究の結果から、リラキシンは哺乳類のみならず動物界に広く存在し、生殖機能の調整に深く関わるホルモンであることがはじめて示唆されました。したがって、リラキシンは動物の生殖システムの進化を明らかにする上で重要な鍵となることが期待されます。また、この発見を契機に、リラキシンの存在や働きがいろいろな海産無脊椎動物で調べられることで、将来的には、ウニ、エビ、カニ等の増養殖にも役立つかも知れません。

[発表雑誌]

Proceedings of the National Academy of Science of the United States of America
米国科学アカデミー紀要電子版  (2009年5月21日号)

論文タイトル:
"A relaxin-like peptide purified from radial nerves induces oocyte maturation and ovulation in the starfish, Asterina pectinifera"

著者:Masatoshi Mita, Michiyasu Yoshikuni, Kaoru Ohno, Yasushi Shibata, Bindhu Paul- Prasanth, Suthasinee Pitchayawasin, Minoru Isobe, and Yoshitaka Nagahama

この論文は、米国科学アカデミー紀要のWEBサイトよりダウンロードしてご覧頂くことができます。

[研究グループ]

本研究は、基礎生物学研究所(長濱グループ)、東京学芸大学(三田)、および名古屋大学(磯部グループ) からなる共同研究チームによる成果です。

[研究サポート]

本研究は基礎生物学研究所 共同利用研究プログラムのサポートを受けて実施されました。

[本件に関するお問い合わせ先]

基礎生物学研究所 生殖生物学研究部門
特任教授 長濱 嘉孝 (ナガハマ ヨシタカ)
Tel: 0564-55-7550
E-mail: nagahama@nibb.ac.jp
URL: http://www.nibb.ac.jp/repbio/

東京学芸大学 教育学部 自然科学系生命科学分野
教授 三田 雅敏 (ミタ マサトシ)
Tel: 042-329-7519
E-mail: bio-mita@u-gakugei.ac.jp

[報道担当]

基礎生物学研究所 広報国際連携室
倉田 智子
Tel: 0564-55-7628
E-mail: press@nibb.ac.jp