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大学共同利用機関法人 自然科学研究機構

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プレスリリース概要

2023.08.09

細胞の動きの画像情報から3次元組織内のメカニカルな力を推定する手法を開発

自然科学研究機構 基礎生物学研究所

近年、生物組織内のメカニカルな力は、形態形成や細胞分化を駆動する上で重要な情報であることが分かってきました。しかし、生きた組織内で力を計測する手段は限られています。特に、3次元的な胚や組織の発生では、細胞の力の状態は時空間的に変化するため定量的な理解は十分にはされていません。したがって、形態形成やその数理シミュレーションにおいて、力の値に関する根拠が希薄であるという生命科学に特有の問題がありました。本研究では、分子動力学シミュレーションの分野で発展してきた粒子間の力(ポテンシャルエネルギー)を推定する方法から着想を得て、非平衡系である生物組織にも適用できる手法を検討し、顕微鏡観察等で得られる細胞の動きの画像情報から、生物組織内のメカニカルな力を推定する手法を開発しました。

本方法により、生きた組織内で細胞種によるメカニカルな性質の差異を定量的に評価することが可能となりました。さらに、本方法の実施に必要なデータが細胞核の追跡データのみという単純さゆえ、様々な生物種や組織に適用することが可能です。今後、固有の物理的性質をもった細胞の探索などへの発展性が期待できます。また、細胞を粒子として近似するモデルは、その実装や計算コストから大きな組織や臓器の数理シミュレーションに向いており、今回の研究はその基礎となるパラメータ値を取得する手段を与えます。

本研究は、基礎生物学研究所の小山宏史助教を中心として、同藤森俊彦教授、分子科学研究所/生命創成探究センターの奥村久士准教授、核融合科学研究所の伊藤篤史准教授、明治大学総合数理学部の中村和幸教授、生理学研究所の大谷哲久助教、生命創成探究センター/基礎生物学研究所の加藤輝特任助教との共同で行われ、2023年8月7日にPLOS Computational Biology誌に掲載されました。

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本研究の概念図

研究成果のポイント
  1. 1. 多細胞組織において、共焦点顕微鏡などで得られた細胞の追跡データから細胞間の相互作用の力を推定する統計数理学的な方法を開発した。
  2. 2. 3次元組織内の力の状態を、個々の細胞レベルの空間解像度と顕微鏡ライブイメージングの時間解像度で計測が可能となった。
  3. 3. マウスや線虫の胚の割球では、細胞間の力は距離に依存した関数(距離-力曲線)という単純な法則で近似できた。
  4. 4. マウスや線虫の胚の形態的な差異が、細胞間の力の相違とリンクして説明できることを示した。