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大学共同利用機関法人 自然科学研究機構

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プレスリリース概要

2023.03.30

プリオン様ドメインがストレス下でもマウスの不快記憶形成を可能にすることを発見

自然科学研究機構 基礎生物学研究所
自然科学研究機構 生命創成探究センター
理化学研究所
富山大学
 
ストレスの多い状況下でも不快な経験を記憶する能力は、ストレスフルな環境で生きる動物にとって危険回避などの生存戦略に重要だと考えられます。基礎生物学研究所/生命創成探究センターの山下映大学院生(総合研究大学院大学)と椎名伸之准教授の研究グループは、理化学研究所の岩崎信太郎主任研究員と七野悠一研究員、富山大学の高雄啓三教授と藤井一希助教、北海道大学の中川真一教授らの研究グループと共同で、マウスの不快記憶形成をストレス状況下でも可能にするためには、NFAR2タンパク質のプリオン様ドメインが重要であることを明らかにしました。

プリオン様ドメインは、プリオン病の原因タンパク質であるプリオンと似た凝集化しやすい性質を持ち、加齢に伴う様々な神経変性疾患を引き起こすリスクがあります。ヒトでは約240種類のタンパク質に見つかっていますが、リスクを負ったこのドメインをタンパク質の部品として利用することの生物学的意義はほとんど知られていませんでした。研究グループは、ストレス応答性の遺伝子発現調節に関与するNFAR2タンパク質に存在するプリオン様ドメインに注目し、このドメインを欠損したNFAR2を持つマウスを用いて、プリオン様ドメインの有無による影響を調べました。その結果、プリオン様ドメインを欠損したNFAR2を持つマウスでは、脳の扁桃体細胞における遺伝子発現が普段からあたかもストレス下にあるようなパターンを示し、実際のストレス下で起こる正常な遺伝子発現調節ができなくなることがわかりました。さらにこのマウスでは、不快記憶の形成能力が、ストレス負荷により顕著に低下することがわかりました。NFAR2にプリオン様ドメインが挿入されていることにより、ストレス環境への適応機能が付与されたと考えられます。

本研究成果は、国際学術誌「iScience」2023年3月17日号に掲載されました。

fig1.jpg 図 本研究成果のまとめ:NFAR2のプリオン様ドメインはストレスによる不快記憶形成の低下を防ぐ
Ilf3遺伝子から選択的スプライシングによって、プリオン様ドメイン(PrLD)を持たないNFAR1と持つNFAR2の2種類のタンパク質が合成される。NFAR1とNFAR2はPrLDの有無に関わらず不快記憶の形成に働く。マウスのストレスは不快記憶形成を低下させるが、NFAR2のPrLDがあることでその低下が抑えられる。