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プレスリリース概要

2022.01.29

植物のCDKAが太陽光の情報を伝達していることを発見 ~コケ植物CDKAの新たな機能の発見がヒトの病気の治療や予防にも新たな道を拓く~

北海道大学
石川県立大学
自然科学研究機構 基礎生物学研究所

ポイント
・細胞分裂に関与する重要なタンパク質が,光合成や光屈性などの光応答にも重要であることを発見。
・このタンパク質は細胞骨格を制御することにより光応答も制御していることを解明。
・植物の光応答における受容体から細胞骨格までの未知の情報伝達経路の一部を解明。

概要
北海道大学大学院理学研究院の藤田知道教授,同大学院生命科学院博士後期課程の包 亮氏(当時)及び井上夏実氏,石川県立大学の関根政実教授,基礎生物学研究所の石川雅樹助教,長谷部光泰教授,九州大学,理化学研究所,宮城大学らの研究グループは,コケ植物を用いて細胞分裂に重要なタンパク質の新たな機能を発見することに成功しました。

私たちの体は細胞分裂を正しく繰り返して出来上がりますが,細胞分裂は時々ミスを起こし,異常な細胞を産み出します。このような異常な細胞が,がん細胞として増殖を繰り返し死に至ります。体の中に2万種類以上もあるタンパク質の中でもPSTAIRE型サイクリン依存性キナーゼ*1(動物ではCDK1,植物ではCDKA)は,細胞分裂を正しく行うために特に重要なタンパク質であり,この働きの異常は細胞のがん化など個体の死に直結するものです。

本研究では,コケ植物はCDKAを欠損させても死なないことを発見したため,従来行えなかったタンパク質の細胞分裂以外の働きの調査が可能になりました。調査の結果,CDKAは細胞骨格*2を制御しながら光情報の伝達にも関与することを発見しました。またコケ植物だけでなく,アブラナ科の雑草であるシロイヌナズナでも同様の働きを持つことが判明したため,コケ植物に限らず多くの植物で共通した重要な機能である可能性が考えられます。

動物のCDK1と植物のCDKAは,両者でアミノ酸配列がよく似ておりそれぞれの働きもよく似ていることから,研究グループでは,動物においてもCDK1が細胞骨格を制御し,細胞分裂以外の細胞内の様々な応答に重要な機能を持っている可能性が高いと考えています。従って,今後ヒトの研究においてもCDK1の新たな機能の発見や,CDK1が関わる病気の新たな治療法への可能性を広げることに繋がると期待されます。

なお,本研究成果は,日本時間2022年1月29日(土)午前4時公開のScience Advances誌にオンライン掲載される予定です。

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コケ植物を用いることで,CDKAタンパク質が細胞骨格を調節しながら細胞分裂と光応答の両方を制御していることが明らかになった。