玉川大学
富山大学
基礎生物学研究所
【ポイント】
●昆虫の性決定において中心的な役割を果たす
doublesexの遺伝子配列を、シロアリ6種で同定しました。
●シロアリの
doublesexは、機能ドメインの1つを欠き、単一のエキソンで構成され、オスでのみ転写されるという、他の昆虫には見られないユニークな特徴を備えることを明らかにしました。
●
doublesexのユニークな特徴は、シロアリと共通の祖先をもつ姉妹群のキゴキブリには見られず、シロアリの社会性の進化と関連する可能性があります。
【研究の概要】
玉川大学大学院農学研究科の宮崎智史准教授と富山大学学術研究部理学系の前川清人准教授、基礎生物学研究所の重信秀治教授らの研究グループは、代表的な社会性昆虫であるシロアリの性決定遺伝子
doublesex (
dsx) の塩基配列を同定することに成功しました。研究グループは、シロアリ7種とシロアリの姉妹群であるキゴキブリ1種のゲノムやトランスクリプトーム(全発現遺伝子)データを対象に
dsx遺伝子を探索し、DNA配列の特徴や染色体上の配置から、シロアリ1種を除く全てで
dsx遺伝子を特定しました。シロアリの
dsxは、機能ドメインの1つを欠き、単一のエキソン(タンパク質に翻訳される領域)で構成され、オスでのみ転写されており、姉妹群のキゴキブリやその他の昆虫種にはみられないユニークな特徴を有していました。本研究は、シロアリの
dsxが特異な進化を遂げたことを明らかにし、この変化がシロアリにおける高度な社会性の獲得に関連するとの新たな仮説を提唱しました。
本研究の成果は令和3年8月6日午後6時に米国の国際科学雑誌「Scientific Reports」にオンライン掲載されます。
図. 社会性の進化と関連したシロアリ
dsxの進化学的変化。*チャバネゴキブリのデータは,先行研究(Price et al. 2015)を元にしている。
【発表論文】
“Evolutionary transition of
doublesex regulation from sex-specific splicing to male-specific transcription in termites.”
Scientific Reports, https://doi.org/10.1038/s41598-021-95423-7
宮崎智史
1*, 藤原克斗
2, 甲斐啓馬
2, 増岡雄大
2,3, 後藤寛貴
4, 新美輝幸
5,6, 林良信
7, 重信秀治
6,8, 前川清人
9*
1玉川大学大学院農学研究科,
2富山大学大学院理工学研究部,
3農業・食品産業技術総合研究機構,
4静岡大学理学部,
5基礎生物学研究所進化発生研究部門,
6総合研究大学院大学,
7慶應義塾大学法学部,
8基礎生物学研究所進化ゲノミクス研究室,
9富山大学学術研究部理学系