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プレスリリース概要

2021.04.13

精子幹細胞の運命を制御して移植効率を向上させることに成功 ~がん治療後の姙性回復に期待~

自然科学研究機構 基礎生物学研究所
広島大学

 基礎生物学研究所生殖細胞研究部門の吉田松生教授、広島大学大学院統合生命科学研究科 の中村隼明助教、英国ケンブリッジ大学のBenjamin D. Simons教授らからなる国際共同研究グループは、マウスの精子幹細胞を用いて、移植された幹細胞が組織を再生するプロセスの詳細を明らかにすると共に、幹細胞の運命を制御して組織再生の効率を飛躍的に向上させることに成功しました。
 我々の体には、様々な細胞を作り出すおおもととなる「組織幹細胞」が存在し、その働きによって組織や臓器が維持されています。また、組織幹細胞を他の個体に移植すると組織を再生することができます。血液を作る造血幹細胞や皮膚の幹細胞の移植は、治療に応用されています。これまで、移植後の組織再生を指標として、組織幹細胞の数や能力を調べる研究が多く行われてきました。しかし、組織幹細胞がどのように振る舞うことで組織を再生するのか、謎に包まれていました。
 本研究では精子幹細胞を持たない不妊マウスの精巣に、正常なマウスの精子幹細胞を移植し、それら一つ一つの運命を追跡する実験を行いました。得られた結果を数理モデルを用いて解析して、再生のプロセスを調べました。その結果、宿主の組織に生着した幹細胞の大部分が、細胞死を起こしたり、幹細胞を再生産せずに精子へと分化することで、短時間で組織から消えてしまうことを発見しました。確率的(ランダム)に生き残ったごく一部の組織幹細胞だけが、組織の再生を担っていたのです。これは、幹細胞の数は少ないけれど、一つ一つが効率良く組織を再生するという、従来の考え方とは大きく異なる結果です。この発見に基づいて、精子幹細胞を移植した後に、幹細胞の分化を阻害する薬剤を一時的に投与すると、再生に寄与する幹細胞の数が増え、最終的な再生の効率が飛躍的に向上しました。その結果、通常は姙性を回復できない少数の幹細胞を移植した宿主マウスに、自然交配で産仔を得られる正常な繁殖能を回復させることができました。
 「移植された組織幹細胞は確率的な運命を辿り、その運命は制御することができる」という新しい概念は、他の組織幹細胞による組織再生の理解にも貢献すると期待されます。さらに、がん治療によって障害を受けた生殖機能を回復する治療や、希少な動物の遺伝資源の保全などに応用されることが期待されます。
 本研究成果は,米国東部時間2021年4月12日午前11時(日本時間13日午前0時)にCell Stem Cell誌(電子版)に掲載されました。
 
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図. 本研究のまとめ