ポイント
・スギの無花粉(雄性不稔)の原因となる遺伝子の一つ、MS1遺伝子には2つの系統の変異があることが判りました。
・MS1の2つの系統の変異は、いずれも花粉形成に異常をもたらす塩基配列の欠失で、それらが由来した系統の天然スギが全国に分布していることがわかりました。
・全国各地でMS1の雄性不稔変異が生じている可能性があり、地域に適した無花粉スギの育種にそれらの変異を活用することが期待できます。
森林総合研究所は、新潟大学、基礎生物学研究所、筑波大学、静岡県農林技術研究所と共同で、花粉形成に異常がある雄性不稔の原因となる遺伝子のひとつ(MS1)を同定しました。MS1は、花粉の表面の脂質の輸送に関わる遺伝子ですが、無花粉スギのMS1では塩基配列が欠失するため正常に機能しないことがわかりました。この欠失変異には2つの系統が存在し、天然スギのMS1の塩基配列を調べたところ、この2つの変異の元となる系統が全国の天然スギ林に広く分布していることが分かりました。それら元になる系統が多く分布するところでは、無花粉スギがさらに発見される可能性があります。各々の地域環境に適応した多様な無花粉スギを探索・発見して育種に活用することで、花粉症対策に貢献することが期待されます。
本研究成果は、2021年1月15日に
Scientific Reports誌でオンライン公開されました。
図: 無花粉スギ(水色および橙色)とその元になる系統(青色および黄色)の分布図(左)と近縁関係を示すネットワーク図(右)。これら4系統以外は灰色で示しています。