基礎生物学研究所の酒井弘貴研究員と新美輝幸教授らの共同研究チームは、カイコの核を持たない「無核精子」の形成に関わる遺伝子の同定に成功しました。
自然界には大きさや形が異なる二種類の精子をつくる動物が存在します。昆虫のチョウやガの仲間では、卵との受精に用いられる「有核精子」と、核を持たない(つまり遺伝情報を持たない)無核精子の二種類の精子が形成されます。無核精子は核が無いため、自らは受精できませんが、カイコを用いた研究から、無核精子は有核精子が受精するために必須であることがわかっていました。核が無いにも関わらず重要な働きをする無核精子ですが、この特徴的な精子がどのような遺伝子によって作られるのかは全く不明でした。今回研究チームは、エス・エックス・エル (Sxl) 遺伝子が、カイコにおける無核精子の形成に関わることを、ゲノム編集技術を用いて明らかにしました。研究チームはさらに、交尾してオスからメスへ送られた無核精子がメスの体内で有核精子の移動に必須であることを明らかにしました。
本研究は基礎生物学研究所 進化発生研究部門の酒井弘貴研究員と新美輝幸教授、名古屋大学の柳沼利信名誉教授、後藤寛貴元特任助教(現 遺伝学研究所)、大島宏之元大学院生、岩手大学の佐原健教授、由利昂大元大学院生、京都大学の大門高明教授からなる共同研究チームにより実施されました。本研究成果は米国科学アカデミー紀要 (
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America) に掲載予定で、2019年4月30日に
オンライン先行公開されました。
図. 有核精子と無核精子の形成