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大学共同利用機関法人 自然科学研究機構

基礎生物学研究所

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2026.07.06

偽妊娠レシピエント雌マウスを効率よく用意する新手法を開発

自然科学研究機構 基礎生物学研究所
 
現代の生命科学研究に不可欠な遺伝子改変マウスの作製では、操作した胚を発生させるために、偽妊娠状態にした受け手の雌マウス(偽妊娠レシピエント雌マウス)を用意する必要があります。基礎生物学研究所 超階層生物学センター モデル生物研究支援室の野口裕司技術職員と神経生理学研究室の渡辺英治准教授は、この偽妊娠レシピエント雌マウスを効率よく用意する新しい手法を開発しました。

従来法では、発情兆候を示す雌マウスを選んで交配に用います。これに対して本研究では、あえて発情兆候を示していない雌マウスに着目し、精管切除済み雄マウスとの同居によって雄由来の匂い刺激にさらすことで、発情周期を整え、交配に適した状態へ誘導しました。この Whitten 効果を利用した新手法と従来法と組み合わせることで、必要な雌マウスの飼育数を抑えつつ、偽妊娠レシピエント雌マウスを安定して確保できる可能性があります。

本研究は、動物実験における代替、削減、改良(3R)の原則のうち、特に使用動物数の削減に資する成果です。なお、本研究の動物実験は、自然科学研究機構動物実験委員会の承認を受け、同機構の動物実験規程に従って実施されました。本研究成果はJournal of the American Association for Laboratory Animal Science 誌に掲載されました。
 
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【研究の背景】
遺伝子改変マウスは、遺伝子機能の解析や疾患発症メカニズムの解明など、現代の生命科学研究を支える重要な実験動物です。その作製では、遺伝子操作などを行った胚を、妊娠に近い生理状態にした雌マウスへ移植し、発生を継続させます。このような受け手の雌マウスは「偽妊娠レシピエント雌マウス」と呼ばれます。

偽妊娠レシピエント雌マウスは、一般に、発情兆候を示す雌マウスを選び、精管切除済み雄マウスと交配させることで用意されます。しかし、雌マウスのみを集団飼育すると、発情周期が停止または遅延する Lee-Boot 効果が生じることが知られています。そのため、発情兆候を示す雌マウスの割合が低くなり、必要数を確保するために多くの雌マウスを維持しなければならない場合があります。これは飼育スペース、労力、費用の面だけでなく、動物福祉の観点からも改善が望まれる課題でした。
 
【研究の成果】
野口らは、従来法では対象になりにくかった、発情兆候を示していない雌マウスを積極的に活用する方法を検討しました。具体的には、集団飼育により発情兆候を示しにくくなった雌マウスを選び、精管切除済み雄マウスと3日間同居させました。雄マウス由来の匂い刺激によって雌マウスの発情が誘導・同期する Whitten 効果を利用し、3日目に交配が成立することを目指した方法です。

その結果、2つの供給元から得たICR系統の雌マウスにおいて、3日目の交配成立率はそれぞれ 74.4%および 77.0%でした。これは、同時期に行った無作為交配群の 53.5%より高い値でした。さらに、この方法で用意した雌マウスに2細胞期胚を移植したところ、供給元ごとの出産率は 93.1%および 89.6%となり、偽妊娠レシピエント雌マウスとして有効であることが確認されました。
 
【動物福祉上の意義】
従来の、発情兆候を示しているマウスを用いる手法と、今回開発した発情兆候を示していないマウスを用いる手法を併用することで、遺伝子改変マウス作製において必要となるマウスの飼育総数を最小限に抑えることができると期待されます。本研究成果は、動物実験における代替、削減、改良(3R)の原則、特に削減の原則に貢献する成果です。
 
【用語解説】
偽妊娠レシピエント雌マウス:
胚移植の受け手として用いられる雌マウスです。交配刺激により妊娠に近い生理状態になりますが、精管切除済み雄マウスとの交配では受精は起こりません。この状態の雌マウスに胚を移植することで、胚が発生を継続し、産仔として得られます。
 
Lee-Boot効果:
雌マウスだけを集団で飼育したときに、発情周期が停止または遅延する現象です。発情兆候を示す雌マウスの割合が低下するため、偽妊娠レシピエント雌マウスの準備効率を下げる要因となります。
 
Whitten効果:
雄マウス由来の匂い刺激などにより、雌マウスの発情が誘導・同期される現象です。本研究では、この効果を利用して、発情兆候を示していない雌マウスを交配に適した状態へ誘導しました。
 
3R:
動物実験における国際的な基本原則で、代替(Replacement)、削減(Reduction)、改良(Refinement)を指します。本研究は、必要な雌マウスの飼育数を抑える可能性を示した点で、特に削減に関係します。
 
【発表雑誌】
雑誌名 Journal of the American Association for Laboratory Animal Science誌
掲載日 2026年5月1日 誌面掲載に先行してオンライン公開
論文タイトル: Preparation of Pseudopregnant Recipient Females Using Female Mice (Mus musculus) Showing Nonestrous Signs: Investigation of a Unique Approach Based on the Whitten Effect
著者:Yuji Noguchi and Eiji Watanabe
DOI:https://doi.org/10.30802/AALAS-JAALAS-25-131
 
【研究グループ】
本研究は基礎生物学研究所超階層生物学センターモデル生物研究支援室の野口裕司技術職員と神経生理学研究室の渡辺英治准教授により行われました。
 
【本研究に関するお問い合わせ先】
基礎生物学研究所 神経生理学研究室
准教授 渡辺 英治(わたなべ えいじ)
TEL: 0564-59-5595
E-mail: eiji@nibb.ac.jp
 
【報道担当】
基礎生物学研究所 広報室
TEL: 0564-55-7628
FAX: 0564-55-7597
E-mail: press@nibb.ac.jp