自然科学研究機構 生命創成探究センター
自然科学研究機構 基礎生物学研究所
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 生命創成探究センター(ExCELLS)/基礎生物学研究所の椙岡 拓己研究員と谷本 昌志助教、東島 眞一教授のグループは、”首”を持たない魚にも頭を安定化させる行動があることを世界で初めて発見しました。研究グループは、ゼブラフィッシュ仔魚を用いて、傾きに応答して頭部を水平方向に保つ行動を行動実験で発見すると共に、この頭部安定化行動を司る神経回路・筋肉を明らかにしました。頭部安定性は、安定的な感覚知覚や効率的な運動出力に重要であることが知られています。本研究をより発展させることで、形態的な首や頭部の安定化行動の起源につながることが期待されます。
本研究成果は、国際科学雑誌「Communications Biology」 (2026年4月4日) に掲載されました。
発表のポイント
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首を持たない魚においても、体の傾きに対して胴体前方部を屈曲させることで、頭部を水平方向に安定化させる行動を世界で初めて発見した。
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魚の頭部安定化行動を担う神経回路と筋肉を特定することに成功し、四足動物の”首”を使う頭部安定化行動の神経回路構造と非常に似ていることを明らかにした。
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”首”を持たない魚においても、「”首”を用いた頭部安定化行動」に相当する行動が明らかになったことで、頭部安定化行動や首の起源に迫る研究に繋がることが期待される。
研究の背景
多くの動物にとって姿勢制御は基本の動作であり、特に頭部安定性は安定的な感覚入力や正確な空間把握・効率的な運動出力に関わる重要な機能です。ヒトをはじめとする四足動物は首を持ち、前庭頸反射
注1)という反射を通じて、頭部を空間的に安定化させます。しかし、”首”という構造がない魚には類似の行動があるかどうかはわかっていませんでした。
四足動物は頭蓋骨が胴体の骨から離れており、その間に“首”という構造を持ちます。一方、魚では、頭蓋骨が胴体の骨に直接接続しているため、”首”という構造を持っていません。しかしながら、魚にも胴体前方の筋肉を使って頭部をメインに動かすことができることが知られています。このような筋肉を動員することで、頭部安定性に関わる行動をもたらすのではないかと研究グループは考えました。
本研究の手法と成果
研究グループは、比較的体の構造が単純で、神経回路の研究がしやすいゼブラフィッシュ仔魚を用いて研究を行いました。魚と哺乳類の神経ネットワークの構造は共通部分が多いので、魚での知見がその他の動物、さらには人の姿勢制御に関わる神経回路の解明に寄与する可能性もあります。
研究グループは、まずゼブラフィッシュ仔魚の自由遊泳時の行動を側面から詳しく観察しました。ピッチ(頭部が上/下となる)方向への体の傾き角度に応じて、胴体の屈曲度合い(頭部と胴体がなす角)が変化することを見つけました。頭部上げ姿勢時には、水平姿勢時に比べて腹側に屈曲し(胴体屈曲角度がよりマイナスの値を取る)、反対に頭部下げ姿勢時には、水平姿勢時に比べて背側に屈曲しました(胴体屈曲角度が0に近づく)(図1)。

図1 行動実験の方法(左)と異なるピッチ傾斜時の魚(右)。右図は、撮影画像(上)と頭部が水平となるように回転させた画像(下)を示す。頭部上げ姿勢時には、水平姿勢時に比べより腹側に屈曲し、頭部下げ姿勢時には、水平姿勢時に比べより背側に屈曲した。図中スケールバーの長さは1 mm。
頭部上げ姿勢時の腹側屈曲と頭部下げ姿勢時の背側屈曲は、ともに水中で頭部の向きをより水平方向に移動させ、結果的に魚の頭部が安定化すると考えられます(図2)。

図2 ピッチ傾斜時の体の形の変化
左:水平姿勢時、わずかに胴体前方は腹側に屈曲する。
中:頭部上げ姿勢時、水平姿勢時に比べて胴体前方は腹側に屈曲する。これにより頭部の向きはわずかに水平方向に変化する。波線と半透明な魚は、腹側屈曲が起きない場合の頭部の向きと魚の形を示す。
右:頭部下げ姿勢時、水平姿勢時に比べて胴体前方は背側に屈曲する。これにより頭部の向きはわずかに水平方向に変化する。波線と半透明な魚は、背側屈曲が起きない場合の頭部の向きと魚の形を示す。
次に、研究グループは、胴体の屈曲に関わる筋肉の探索を行いました。傾斜中のゼブラフィッシュ仔魚の神経細胞や筋肉の活動を計測することが可能な対物レンズ傾斜顕微鏡
注2)を利用することで、傾斜刺激を与えたときの筋肉の活動を調べました。頭部上げ姿勢時にはPHMと呼ばれる腹側特殊筋が、頭部下げ姿勢時にはSCAと呼ばれる背側特殊筋が活動することを発見しました(図3)。さらにこれらの筋肉が破壊された仔魚において、傾斜時に、破壊された側への胴体屈曲角度が小さくなりました。これらのことから、背側屈曲と腹側屈曲は、それぞれ、腹側特殊筋と背側特殊筋が駆動することがわかりました。

図3 ピッチ傾斜時の背側・腹側に位置する特殊筋の活動
上:背側特殊筋(SCA)、腹側特殊筋(PHM)の位置
左下:水平姿勢時から頭部上げ/頭部下げ方向に傾斜刺激を与えたときの背側・腹側に位置する特殊筋の活動。細線は実測値、太線は平均値を示す。頭部上げ姿勢時には腹側特殊筋(PHM)が活動し、反対に、頭部下げ姿勢時には背側特殊筋(SCA)が活動した。
複数の細胞群に対し、活動イメージングと細胞破壊魚の行動実験を行うことで、胴体前方の腹側屈曲は、『前庭神経核ニューロン(耳から傾斜情報を直接受け取るニューロン群)〜網様体脊髄路ニューロン(運動に関わり脊髄に情報を伝達する中枢のニューロン群)〜脊髄運動ニューロン〜腹側特殊筋』という神経回路と筋肉で引き起こされることが明らかとなりました。一方、背側屈曲は、『前庭神経核ニューロン〜脊髄運動ニューロン〜背側特殊筋』という神経回路と筋肉で引き起こされることが示唆されました。
図4 頭部上げ姿勢時の腹側屈曲、頭部下げ姿勢時の背側屈曲に関わる神経回路・筋肉
本研究の発見の意義・今後の展望
首がある四足動物では、前庭頸反射を通して頭部を空間的に安定化させることが広く知られていますが、今回、魚にも頭部安定化行動があることを初めて明らかにすることに成功しました。魚は“首”を持たないので、頭部安定化行動に関わる背側・腹側の特殊筋は “首の筋肉”とは言えません。しかしながら、頭部安定化行動に関わる神経回路は、哺乳類の前庭頸反射の神経回路と、回路の構造や構成するニューロン群の点で複数の共通点があることがわかりました。これらのことから、魚で見られる背側・腹側屈曲は、前庭頸反射の進化的な前駆的機構である可能性が示唆されます。本研究の発展は、前庭頸反射の起源につながることが期待され、さらには“首“の進化にも迫ることができる可能性を秘めています。
用語説明
注1)
前庭頸反射
耳で感知される前庭感覚(傾き、回転)に応じて、複数ある首の筋肉を協調的に収縮・弛緩させることで、頭部を空間的に一定に保つ反射。
注2)
対物レンズ傾斜顕微鏡
研究グループが以前開発した顕微鏡で、傾斜中ゼブラフィッシュ仔魚の神経細胞や筋肉の活動を計測することが可能。
https://www.nibb.ac.jp/pressroom/news/2022/12/21.html参照。
論文情報
論文タイトル:Head stabilization behavior and underlying circuit mechanisms in larval zebrafish
著者:Takumi Sugioka, Tod R. Thiele, Herwig Baier, Masashi Tanimoto*, Shin-ichi Higashijima*
(*責任著者)
掲載誌:Communications Biology
DOI:
https://doi.org/10.1038/s42003-026-09990-4
掲載URL:
https://www.nature.com/articles/s42003-026-09990-4
論文公開日:2026年4月4日(土)
著者情報
椙岡 拓己(生命創成探究センター、基礎生物学研究所)
Tod R. Thiele (Pepperdine University, University of Toronto, Max Planck Institute for Biological Intelligence)
Herwig Baier(Max Planck Institute for Biological Intelligence)
谷本 昌志*(生命創成探究センター、基礎生物学研究所)
東島 眞一*(生命創成探究センター、基礎生物学研究所) (*責任著者)
研究サポート
本研究は、科学研究費補助金 (24KJ0242, 24K18163; 椙岡拓己、20K06866, 23K05983; 谷本昌志、23K23929, 25K02315; 東島眞一)、ExCELLS若手奨励研究 (25-Y2; 椙岡拓己)、文部科学省ナショナルバイオリソースプロジェクト(東島眞一)等の支援を受けて実施されました。
お問い合わせ
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自然科学研究機構 生命創成探究センター/基礎生物学研究所
教授 東島 眞一
E-mail:shigashi@nibb.ac.jp
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自然科学研究機構 生命創成探究センター(ExCELLS) 研究力強化戦略室
自然科学研究機構 基礎生物学研究所 広報室
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