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プレスリリース詳細

2026.02.18

観賞用メダカがどこから来て多様な体の色や形を育んできたのか、 世界初の大規模ゲノムDNA解析によって明らかに ―関西・瀬戸内由来であることやヒトの不随意運動症との関連を発見―

広島大学
長浜バイオ大学
情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所
自然科学研究機構 基礎生物学研究所

【概要】
広島大学大学院統合生命科学研究科の大森義裕教授および富原壮真助教、大学院生の藤居若菜さん、世羅美冬さん、基礎生物学研究所の成瀬清特任教授、ウィーン大学の今鉄男上級研究員、大学院生今琴さん、長浜バイオ大学の竹花佑介教授、大学院生湯瑞さん、伏木宗一郎さん、国立遺伝学研究所の豊田敦特任教授、野口英樹特任教授と共同で、世界で初めて観賞メダカ品種の大規模なゲノムDNA解析を行いました。今回、これらの観賞メダカ品種が関西・瀬戸内地域の野生メダカに由来する可能性が明らかになりました。

さらに、さまざまな体色や体型の変化に関連するゲノムワイド関連解析(GWAS)を実施し、変異の原因と考えられる遺伝子領域を特定しました。これらの中には、ヒレの長さを制御する遺伝子、眼球の突出を制御する遺伝子、そして銀色や黒色の体色を制御する遺伝子などが含まれます。その結果、メダカ品種に見られる26種類の体色や体型の変化を引き起こす遺伝子変異の候補が見つかり、体色や体型が多様に変化する仕組みを明らかにする研究へとつながることが期待されます。 

特に、黒色のオロチ品種の変化はadcy5遺伝子の変異によることが分かり、これはヒトの遺伝性運動疾患と同じ原因遺伝子でした。ゲノム編集技術によりadcy5遺伝子を破壊したメダカでは、体色がオロチ品種のように黒色に変化しました。この成果は、ヒトの遺伝性不随意運動症の発症メカニズムの理解にも貢献しました。これらの結果は英国科学雑誌「Molecular Biology and Evolution(Q1)」に2026年1月31日にオンライン掲載されました。

(論文情報)
タイトル:Genomic consequences of domestication and the diversification of body coloration and morphology in ornamental medaka strains
著  者:Tetsuo Kon, Rui Tang, Koto Kon-Nanjo, Soma Tomihara, Soichiro Fushiki, Wakana Fujii, Mifuyu Sera, Yusuke Takehana, Hideki Noguchi, Atsushi Toyoda, Kiyoshi Naruse, & Yoshihiro Omori
Molecular Biology and Evolution in press
https://doi.org/10.1093/molbev/msag021

【背景】
観賞魚としてメダカの飼育が始まったのは江戸時代であり、ヒメダカやシロメダカなどの品種が確立され、日本人に親しまれてきました。近年では、さまざまな体色や体型をもつメダカが愛好家たちの手によって発見され、それらを交配することで数百種類に及ぶ品種が作り出され、市販されています。

体色の変異としては、銀色や真っ黒の品種、さらにはニシキゴイのような赤白の体色を持つ品種も見られます。また、体型の変異としては、ヒレの長さが異なるものや、眼球が突出しているもの、体が丸く短いものなど、キンギョや熱帯魚に似た多様な体型をもつ品種も見られます。これらの品種の全ゲノムDNA解析を行うことにより、多様な観賞メダカの変化がどのような遺伝子変異によって引き起こされているのかを理解でき、魚の体色や体型の多様性を生み出す仕組みを解明できると考えられます。

さらに、魚類と同じ脊椎動物であるヒトの体がどのように形成されるのか、また病気がどのように発症するのかといった仕組みを明らかにする手がかりになる可能性も期待されます。
 
【研究成果の内容】
私たちは、世界で初めて観賞用メダカ品種の大規模な全ゲノムDNA解析を行いました。86品種181匹のメダカ個体の全ゲノム配列を解析し(図1)、まず、これらのメダカ品種が全国の野生メダカのうち、どの地域のものと遺伝的に近いのかを調べました。これまでに報告されてきたデータと私たちが解析した観賞メダカ品種のデータを比較したところ、大阪、広島、高松といった瀬戸内海に面した地域の野生メダカと遺伝的に近い関係にあることが分かりました(図2)。このことから、江戸時代に関西・瀬戸海地域で発見されたヒメダカなどの野生メダカを品種改良した系統が、全国で観賞メダカとして飼育され、現在の多様な品種ができあがったと考えられます。

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図1:全ゲノム配列解析を行った86品種の観賞メダカの一部の写真(本論文より引用)。

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図2:観賞メダカは関西・瀬戸内地方に住む野生メダカが由来と考えられる(本論文より引用)。

このように、野生種が人に飼われるペットや家畜として適応していくことを「家畜化(domestication)」と呼びます。野生メダカから観賞メダカ品種が生まれる過程で「家畜化」に貢献したと考えられるいくつかの遺伝子領域も明らかになりました。体色の変化に関連するtyr遺伝子や脳の機能に関連するgabrr2b遺伝子などとの関連が示されました。

次に、メダカの体色や体型の特長を調べたところ、34種類の特長(例:ヒレが大きい、目が飛び出している等)があることがわかりました。このうち29種類の特長について、ゲノム情報との関係をコンピューターで解析しました(GWAS解析)。この結果、26種類の特長に対して原因となる遺伝子が存在する可能性の高い染色体の位置が見つかり、3,328個の候補となる遺伝子を見出しました。例えば、ヒレが長くなるメダカ品種であるスワローやヒレナガの原因遺伝子が「染色体15番」に存在することがわかりました。また、目が飛び出したメダカ品種であるデメの変異が「bmp5」遺伝子に存在する可能性や、多色の鱗で美しいオーロラ品種に「kitlga」遺伝子の変異を発見しました。これらの情報は今後のメダカなどの魚類やヒトを含む脊椎動物の体をつくる仕組みの解明にヒントとなる貴重な情報となります。

今回の研究で最も大きな発見は、体色が真っ黒のメダカであるオロチ品種の原因となる変異を見つけたことです(図3)。解析の結果、オロチ品種では「adcy5」という遺伝子に異常があり、その変異が原因で色が黒くなることがわかりました。奇妙なことに、これまでの研究では「adcy5」遺伝子の欠損は体色が薄くなることが知られており、私たちの研究成果とは逆の結果でした。このことをさらに詳しく調べてみると、タンパク質の構造の研究で「adcy5」のC1bドメインと呼ばれる部分が欠けると、「adcy5」の働きが逆に増強されるという報告があり、オロチ品種で「adcy5」の欠けている部分はまさにC1bドメインの一部だったのです。このことからオロチ品種で発見された「adcy5」遺伝子の変異により働きが増強され、体色が黒く変化したという仕組みが考えられます。実際に、ゲノム編集を行いメダカの「adcy5」からC1bドメインを欠損させてみたところ、そのメダカは体色が黒くなりました。

fig3.jpg 図3:野生型メダカと比較したオロチ品種の写真(最上段)。GWAS解析の結果、染色体21番のadcy5遺伝子の近くにピークが見られる(中段)。ゲノム編集によってメダカのadcy5遺伝子のエキソン8を欠損させると体色が黒化した(下段)(本論文より引用)。

また、人間では「adcy5」の変異が不随意運動症を引き起こすことが知られています。不随意運動症とは、自分の意志とは無関係に勝手に体が動いてしまう症状です。軽症なものでは顔や口が勝手にピクピクと動いたり、重度のものでは手足が勝手に動く舞踏症と呼ばれるものも含みます。今回の研究で「adcy5」のC1bドメインが欠けるとその働きが増強されることがわかりましたが、動物レベルでこのことを証明したのは私たちが初めてです。このように、メダカの遺伝子変異から、ヒトの遺伝性不随意運動症の発症メカニズムの理解に貢献しました(図4)。

fig4.jpg 図4:adcy5のC1bドメインが機能する仕組みと、ヒト不随意運動症やメダカの体色黒化の関係。C1bドメインを欠損した黒色メダカのオロチ品種では、adcy5が2量体になりにくくシグナルが活性化することが予想される。

【今後の展開】
今回見つかった候補遺伝子から、さらに絞り込むことで、今回変異まで見出せなかったメダカ品種の特長を示す遺伝子の変異を見出すことに繋がると思われます。これらの遺伝子変異を見出すことで、魚類や人間も含む脊椎動物に共通した体の形や色を決める遺伝子の仕組みがわかってくると思われます。もちろん、新しく恰好のよいメダカ品種を作り出すことにも貢献するでしょう。一方で、不随意運動症をはじめとしたヒト遺伝性疾患の治療や予防にもつながる可能性があります。

【用語解説】
ゲノムDNA解析:ゲノムとはすべての遺伝子を指し、ヒトやメダカを含む脊椎動物では2万数千個程度の遺伝子が存在する。これらが数千万から数十億塩基対のDNAにコードされている。近代に次世代DNAシーケンサーと呼ばれる解析機が発明され、ゲノム研究が容易となった。

ゲノムワイド関連解析(GWAS):人間の遺伝に関連する遺伝子変異を調べる目的で開発された手法。数百人から数万人規模の患者と健常者から採血などを行い、ゲノムDNAを採取し、次世代DNAシーケンサーなどでゲノム配列を大量に解析する。コンピューターを使ってゲノム上にあるSNPと呼ばれる個性的な部分と病気か否かの情報を合わせることでその関連を見つける方法。この方法により、病気の原因遺伝子の染色体上の位置や原因となる遺伝子変異が発見できる。近年は、人間だけでなく動植物の研究にも広く用いられている。

adcy5(アデニル酸シクラーゼ5型):ATPからサイクリックAMPを生成する酵素でレセプターやGタンパク質を介したシグナル伝達を制御するタンパク質のひとつ。人間ではadcy5の変異は不随意運動症と関連することが報告されている。

不随意運動症:自分の意志とは無関係に体の一部が勝手に動いてしまう症状。顔の一部や、口や舌、手足や体軸などが意思によらず動く。複数の原因遺伝子が知られ、有名なハンチントン舞踏病もこの一種である。

【お問い合わせ先】
(研究に関するお問い合わせ先)
広島大学 大学院統合生命科学研究科 教授 大森義裕
 
長浜バイオ大学 バイオサイエンス学部 バイオサイエンス研究科
教授 竹花 佑介
 
基礎生物学研究所 バイオリソース研究室
成瀬 清
TEL: 0564-55-7580
E-mail:naruse@nibb.ac.jp
 
(報道に関するお問い合わせ先)
広島大学広報室
 
長浜バイオ大学 アドミッション・オフィス広報担当
 
国立遺伝学研究所 広報室
 
基礎生物学研究所 広報室
TEL: 0564-55-7628
E-mail: press@nibb.ac.jp