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大学共同利用機関法人 自然科学研究機構

基礎生物学研究所

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2023.12.15

ゲノム編集による簡便な遺伝子挿入(ノックイン)ガエル作出法の開発 ~両生類の再生能力の謎に迫るための新技術partII~

兵庫県立大学
自然科学研究機構 基礎生物学研究所

【本研究成果のポイント】
  1. 1. ゲノム編集技術#1を用いてアフリカツメガエル#2における簡便で高効率な遺伝子挿入動物作出法(ノックイン)#3の開発に成功した。
  2. 2. 本方法は両生類の器官再生能力や疾患に関与する遺伝子の機能を解明するための有用なツールとなり、再生医療研究をはじめとする様々な分野の研究への貢献が期待される。

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【研究の背景】
両生類の一種であるアフリカツメガエル(Xenopus laevis)#2は、100年以上も前から細胞生物学や発生生物学などの分野において研究に重用されている動物です。これまで、細胞分裂や臓器形成の仕組み、さらにはノーベル賞を受賞したガードン博士によるクローンガエル研究など、生物学上の重要な発見にモデル動物として多大な貢献をしてきました。加えて、幼生(オタマジャクシ)時には高い器官再生能力を持ちますが、変態して成体(カエル)になるとその能力が低下することから、再生医療研究においても大変注目されています。2016年には日本と米国のグループが中心となって全ゲノムが解読され#4、今後もこのカエルは生命科学分野において活躍することが期待されています。ポストゲノム#4後において、生命現象に関与する膨大な数の遺伝子の個々の役割を解明するための、より効率的な解析技術が必要とされています。先に簡便かつ高効率な遺伝子組換え(トランスジェニック)ガエル作出法であるNEXTRansを開発していましたが(2022年6月16日にプレスリリース)、今回は第二弾として、より高度な技術である様々な“狙ったゲノムの場所”へ遺伝子を挿入する技術(ノックインガエル作出法)を開発しました。
 
【研究の成果】
今回、兵庫県立大学大学院理学研究科の餅井真准教授ら、基礎生物学研究所・超階層生物学センターの鈴木賢一特任准教授らの研究チームは、アフリカツメガエルにおいてより簡便で高効率な遺伝子挿入(ノックイン)動物作出法#3の開発に成功しました。まず研究者チームはドナーベクターを最適化し、相同配列#5を利用することにより、外来遺伝子である蛍光レポーター(gfp)遺伝子#6を“狙ったゲノムの場所”へ挿入を試みました。その結果、内在のエンハンサーやプロモーター#7によりレポーター遺伝子を発現させることに成功しました。さらには、次世代子孫でも外来遺伝子の“狙った場所”への挿入、そして安定した蛍光レポーター遺伝子の蛍光が確認されました(生殖系列伝播#8)。これらの結果により、主要な研究動物であるアフリカツメガエルにおいて簡便で高効率なノックイン技術であることを示すことができました。研究チームは、この遺伝子挿入動物作出技術がアフリカツメガエルのポストゲノム研究における起爆剤となるようにNew and Easy (Efficient) Xenopus Targeted integrationを略してNEXTiと名付けました。

fig1.jpg 図1.NEXTi法の概略図。ドナーDNA(外来遺伝子)はゲノム 編集技術を用いることで、相同配列を介してゲノム上の”狙った場所“に挿入される。例の一つとして筋肉に発現する遺伝子(myod)へGFP遺伝子をノックインしたツメガエルを示している。

fig2.jpg 図2.NEXTi法で作出されたsox2ノックインガエル。緑色蛍光タンパク質を脳神経で発現するオタマジャクシ。注)蛍光写真と可視光写真の合成画像。

【今後の展開】
ポストゲノム時代においては様々な生物の全遺伝子の情報が直ちに入手可能です。先に開発した高効率トランスジェニック作出法であるNEXTRans法(2022年6月16日発表)に加え、アフリカツメガエルのゲノム情報と簡便なノックインガエル作出法であるNEXTi法を組み合わせることで、脊椎動物の生命現象に関与している遺伝子の機能に関する研究を一層促進させることが期待できます。本方法によって、両生類の器官再生能力に関与する遺伝子や、疾患に関与する遺伝子を迅速かつ簡便に解析することが可能となりました。例えばsox2#9遺伝子は脳脊髄の再生において重要な役割を持つことから、樹立したsox2ノックインガエルを用いることにより、両生類が持つ器官再生の仕組みに迫る研究が展開され、再生医療研究を含む多様な分野への貢献が見込まれます。

本研究の成果は、米国発生生物学会誌Developmental Biologyに、出版に先立ち2023年12月10日にオンライン掲載されました。

【語句説明】
#1 ゲノム編集技術
CRISPR/Cas9に代表される人工DNA切断酵素によってゲノムDNAにDNA二本鎖切断を誘導し、その修復過程において標的遺伝子への欠失や挿入変異を挿入したり、ドナーDNAを用いた外来遺伝子を挿入したりする技術。

#2 アフリカツメガエル
アフリカ原産のカエルの一種で、学名はXenopus laevis。一生を水の中で過ごし、他のカエルに比べて丈夫で飼育しやすい。そのうえホルモン投与により受精卵を安定して大量に得ることができるため古くから生物学研究に重用されている。

#3 ノックイン動物
ゲノムDNA上の“狙った場所”に外来遺伝子を挿入することをノックインと呼び、そのゲノムを有する動物をノックイン動物と呼ぶ(遺伝子組換え動物となる)。

#4 アフリカツメガエルのゲノム解読(ポストゲノム)
アフリカツメガエルの染色体は2n=36本で、異質四倍体である(異なる二つの近縁種が交雑した結果)。ゲノムDNAは31億塩基対からなり、2016年に日本と米国のグループがその複雑な異質四倍体ゲノム解読に成功した(Session et al. Nature, 2016)。そのため、現在ではゲノムDNA上の全遺伝子情報を誰でも簡単に調べることができる(ポストゲノムとはこの研究状況を指す)。

#5 相同配列
同じDNA配列を持つゲノム上の領域やベクタープラスミドに含まれる断片のことを指す。この相同配列を利用して、ゲノム上の“狙った場所”に外来遺伝子を挿入する。

#6 蛍光タンパク質遺伝子(レポーター遺伝子)
オワンクラゲの蛍光タンパク質であるGreen Fluorescent Protein (GFP)に代表される、紫外線を当てると緑色や赤色の蛍光を発するタンパク質の遺伝子。この遺伝子を挿入した生物では生きたままその遺伝子の発現を蛍光により確認でき、遺伝子発現をチェックしたり細胞を追跡したりするために利用されている。これらのレポーター遺伝子をプロモーターやエンハンサーと呼ばれる遺伝子をONにする機能を持つDNA配列と組み合わせて挿入することにより、遺伝子挿入ツメガエルの体で特定の細胞や組織特異的に蛍光を発するようになる。

#7 エンハンサーやプロモーター
細胞核の中にて遺伝子が適切な時間と場所でmRNAを合成するために必要なゲノム上の配列や領域のこと。遺伝子のスイッチに例えられる。

#8 生殖系列伝播
外来遺伝子がゲノムDNAに挿入(トランスジェネシス)された結果、精子や卵にその外来遺伝子が遺伝し、子孫に受け継がれることを指す。

#9 sox2遺伝子
脳神経の発生において必須の転写制御因子の一つであり、脳の幹細胞にて強く発現する。京都大学の山中伸弥先生らが発見したリプログラミング4因子の一つでもあり、器官再生においても重要な鍵を握る遺伝子と考えられている。

【論文情報】
掲載誌:
Developmental Biology(米国発生生物学会誌)506 (2024) 42–51

タイトル:
“A CRISPR-Cas9-mediated versatile method for targeted integration of a fluorescent protein gene to visualize endogenous gene expression in Xenopus laevis.”
 
著者名:
Makoto Mochii1*, Kai Akizuki1, Hero Ossaka1, Norie Kagawa1, Yoshihiko Umesono1, Ken-ichi T Suzuki2*
所属: 1. 兵庫県立大学、2. 基礎生物学研究所 *は責任著者
 
DOI: https://doi.org/10.1016/j.ydbio.2023.11.010

【研究サポート】
本研究はJST, CREST, JPMJCR2025 (to KTS)および文部科学省科学研究費助成事業(JP21H03829 to KTS, JP18K06266 to MM)のサポートを受けて実施されました。また、基礎生物学研究所の個別共同利用研究(23NIBB340 to MM)の一環として実施されました。

【お問い合わせ先】
兵庫県立大学 大学院理学研究科 生命科学専攻
准教授 餅井 真(もちい まこと)
TEL/FAX: 0791-58-0187
E-mail: mmochii@sci.u-hyogo.ac.jp

基礎生物学研究所 超階層生物学センター 新規モデル生物開発室
特任准教授 鈴木 賢一(すずき けんいち)
TEL: 0564-55-7542
E-mail: suzuk107@nibb.ac.jp

【報道担当】
兵庫県立大学 播磨理学キャンパス経営部総務課
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FAX:0791-58-0131
E-mail: soumu_harima@ofc.u-hyogo.ac.jp

基礎生物学研究所 広報室
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