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基礎生物学研究所

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2014.09.19

植物ホルモンのサイトカイニンは葉から根に長距離移動してマメ科植物の根粒数を制御する

自然科学研究機構 基礎生物学研究所

国立大学法人 総合研究大学院大学

独立行政法人 理化学研究所

 

植物ホルモンのサイトカイニンは

葉から根に長距離移動してマメ科植物の根粒数を制御する

 

 基礎生物学研究所(総合研究大学院大学 生命科学研究科 基礎生物学専攻)の佐々木武馬大学院生と川口正代司教授らは、理化学研究所環境資源科学研究センター榊原均グループディレクターらとの共同研究により、マメ科植物において、植物ホルモンとして知られるサイトカイニン(注1)が、根から輸送される糖ペプチドシグナルを受けて葉で合成され、葉から根に長距離移動して根粒の数を制御していることを発見しました。この成果は、植物の地上部と根の長距離コミュニケーションを理解する上での大きな進展であり、2014年9月19日に科学誌Nature Communications(ネイチャー コミュニケーションズ)にて発表されます。

 

【研究背景】

 マメ科植物は、根に根粒という共生器官をつくり、土壌にいる根粒菌を住まわせることで、大気中の窒素を固定し、養分として利用することが出来ます。これにより、貧栄養の荒地においても繁殖できることが知られています。一方で、根粒がつくられすぎると、根粒をつくることと窒素固定に過剰なエネルギーがかかり、植物の生育に悪影響が及びます。そこで、マメ科植物は、根粒の数を適正に保つ仕組みを進化の過程で獲得しました。研究グループは、その仕組みの詳細を明らかにしたいと研究を進めています。根粒の数の制御は、根粒菌が感染する地下部だけでなく、地上部の「葉」が深く関わる全身性の制御であることが知られています。根粒菌が感染したことを地上部の葉に伝える長距離シグナル分子(注2)として、CLE-RS1/2という糖ペプチドが昨年見つかりましたが、逆に地上部から地下部へと情報を伝達する仮想のシグナル物質は、1985年にダイズにおいてその存在が予想されながらも、分子的な実体は謎に包まれていました。今回、研究グループは、マメ科のモデル植物であるミヤコグサを材料に用いて、葉でつくられるサイトカイニン(植物ホルモンの一種)が、長距離シグナル分子として、地上部から根のある地下部に運ばれ、根粒の数を抑制的に制御していることを明らかにしました。

 

【研究結果】

 研究グループは、根粒の数が抑制された形質転換体 (CLE-RS1/2過剰発現体、CLE-RS1/2ox)、CLE-RS1/2ペプチドを受容できず根粒が過剰形成される変異体 (har1変異体)、および、正常な株(野生株)の地上部における38種類の植物ホルモン量を定量し比較しました。この結果、地上部におけるサイトカイニン前駆体の量がこれらの植物間で有意に異なり、サイトカイニンが根粒の数を制御する長距離シグナルの実体の候補として浮かび上がりました。根粒形成が抑制されるCLE-RS1/2過剰発現体の地上部では、サイトカイニン前駆体が過剰に蓄積されていました。対して、根粒が過剰に形成されるhar1変異体の地上部では、サイトカイニン前駆体の蓄積量は少量でした(図2)。また、野生株における地上部のサイトカイニン前駆体は、根粒菌感染によっても蓄積量が増加しました。

 

 研究グループは、葉でつくられたサイトカイニンが、根粒形成においてどのような機能を果たしているのかを調べるために、サイトカイニンを地上部から与え、根粒の形成数を計測しました。その結果、地上部から与えたサイトカイニンは、根粒形成を抑制しました(図3)。また、同位体ラベル化したサイトカイニンを用いて、サイトカイニンの植物体内での移動の様子を調べると、サイトカイニンは地上部から地下部に輸送される、つまり長距離シグナル分子として働きうることがわかりました。研究グループは、地上部由来のサイトカイニンが、根において根粒数を全身的かつ抑制的に制御することを示しました。

 

 これまでに、サイトカイニンは細胞分裂を誘導する植物ホルモンとして知られていました。また根粒形成におけるサイトカイニンは、根において皮層細胞の分裂を誘導し、根粒形成を促進する因子として作用することが報告されています。これに対し、研究グループは今回、地上部由来のサイトカイニンが根粒形成を長距離抑制する働きがあることを初めて示しました。このことは、サイトカイニンが根粒形成において二つの相反する役割を担っていることを示しています。今回の成果は、根粒形成の新しい制御機構の理解に貢献するだけでなく、植物の葉と根の長距離コミュニケーションを理解する上での大きな進展です。

 

(注1)サイトカイニン (Cytokinin):植物ホルモンの一種。細胞増殖と分化をコントロールすることが知られているが、植物内での機能には未だ不明な点が多い。

 

(注2)シグナル分子:生体内での情報伝達を担う分子

 

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図1:根粒の数を制御する長距離シグナリングの概略図

 

 

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図2: 野生株、har1変異体、CLE-RS1/2過剰発現体(CLE-RS1/2ox)の根における表現型(上)と地上部におけるサイトカイニン前駆体の定量結果(下)

野生株と比較しhar1変異体では根粒数が過剰となり、CLE-RS1/2過剰発現体では根粒形成が抑制される。har1変異体の地上部では、サイトカイニン前駆体の地上部における蓄積量が少量であった。また、CLE-RS1/2過剰発現体の地上部では、サイトカイニン前駆体が地上部で過剰に蓄積されていた。

 

 

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図3:野生株、har1変異体、tml変異体のそれぞれの地上部からサイトカイニンを供与した際に形成される根粒数の比較

地上部からサイトカイニンを供与すると、野生株およびhar1変異体では根粒形成が抑制された。一方で、地上部からのシグナルを受け取る実体と予想されるTMLが失われた株(tml変異体)では、根粒形成は抑制されなかった。

 

【論文情報】

Nature Communications 2014年9月19日号(日本時間9月19日18時公開)

タイトル:Shoot-derived cytokinins systemically regulate root nodulation

著者:Takema Sasaki, Takuya Suzaki, Takashi Soyano, Mikiko Kojima, Hitoshi Sakakibara and Masayoshi Kawaguchi

 

【研究グループ】

本研究は、基礎生物学研究所 共生システム研究部門(総合研究大学院大学 生命科学研究科 基礎生物学専攻)の佐々木武馬大学院生、川口正代司教授および、理化学研究所環境資源科学研究センター榊原均グループディレクターらの共同研究として実施されました。

 

【研究サポート】

本研究は、文部科学省科学研究費補助金のサポートを受けて実施されました。


【本研究に関するお問い合わせ先】

基礎生物学研究所 共生システム研究部門

教授: 川口 正代司 (カワグチ マサヨシ)

大学院生: 佐々木 武馬(ササキ タケマ)

〒444-8585 愛知県岡崎市明大寺町字西郷中38

TEL: 0564-55-7563 E-mail: masayosi@nibb.ac.jp 

ホームページ http://www.nibb.ac.jp/miyakohp/

 

理化学研究所 環境資源科学研究センター

生産機能研究グループ

榊原 均

TEL:045-503-9576 FAX:045-503-9609

E-mail:sakaki@riken.jp

 

【報道担当】

基礎生物学研究所 広報室

TEL: 0564-55-7628 FAX: 0564-55-7597

E-mail: press@nibb.ac.jp

 

総合研究大学院大学 広報室

TEL:046-858-1590

E-mail: kouhou1@ml.soken.ac.jp

 

理化学研究所 広報室 報道担当

TEL:048-467-9272 FAX:048-462-4715

E-mail: ex-press@riken.jp