基礎生物学研究所
2014.01.28
ペチュニアは春から秋にかけて、ベランダや花壇を彩る草花として世界中で人気の植物です。アムステルダム自由大学(オランダ)のMarianna Faraco、Francesca M. Quattrocchio博士らと基礎生物学研究所の星野敦助教などからなる研究グループは、PH1とPH5という液胞膜に存在する2つのポンプタンパク質がペチュニアの花を赤くしており、これらのポンプが機能しなくなると花が青くなることを発見しました。
図:PH1とPH5による液胞内pHと花色の調節
ペチュニアの花の色は、細胞の液胞内に含まれるアントシアニンと呼ばれる色素によって決まります。アントシアニンにはpHに依存して色が変わる性質があります。今回研究グループは、ポンプタンパク質のPH1とPH5に、アントシアニンが含まれている液胞のpHを下げる(酸性化する)機能があることを証明しました。そして、これらが正常に機能して液胞内のpHが低くなると、アントシアニンは赤く発色して花は赤色になることや、突然変異によりPH1やPH5の機能が失われると、液胞内のpHが高くなってしまうために花は青色になることを明らかにしました(図)。従来、植物の液胞の酸性化は、V-ATPaseやV-PPaseというポンプタンパク質によるプロトン(水素イオン、H+)の輸送で行われていることが知られてきました。今回解析されたPH1とPH5は、これらのプロトンポンプとは異なるP-ATPaseというポンプタンパク質です。PH1とPH5は液胞膜上で複合体を形成してプロトンを運ぶことで、アントシアニンの赤色化に必要な低いpHを作り出しています。このような液胞内のpHを調整する新しい仕組みは、ほかの花や果実などでも働いている可能性があります。
この研究成果は生命科学専門誌Cell Reports(2014年1月16日号)にて発表されました。
【より専門的な解説】
ペチュニアは赤や紫の花を咲かせますが、PH1からPH7まで7つあるPH遺伝子の突然変異体は、いずれも青みの強い花を咲かせることが知られていました。花の絞り汁のpHが高いことから、PH遺伝子がコードするタンパク質には、液胞のpHを下げる機能があると考えられてきました。これまでにPH3、PH4、PH6遺伝子は転写調節因子をコードすることが明らかにされていました。また、PH5遺伝子がP-ATPaseのプロトンポンプをコードすることが分かっていましたが、PH5タンパク質は単独では機能しないことなどから、未同定のPH遺伝子がコードするタンパク質がPH5タンパク質の機能と液胞内のpHを下げる仕組みに必要であると予想されていました。
今回、研究グループはPH1遺伝子の同定に成功し、PH1遺伝子もP-ATPaseをコードしていることを明らかにしました。PH1とPH5タンパク質は、それぞれP3BとP3Aという異なるP-ATPaseのサブファミリーに分類されます。3BファミリーのP-ATPaseはイネやシロイヌナズナなどのモデル植物には存在せず、バクテリアでマグネシウムイオンの輸送体と考えられているのみで、植物での知見はありませんでした。遺伝子発現誘導系を使った解析からは、転写調節因子であるPH3、PH4、PH6タンパク質が、PH1とPH5遺伝子の転写を活性化することが分かりました。また、PH1とPH5遺伝子が発現していないph3やph4変異体のペチュニアにおいて、PH1やPH5遺伝子を単独でなく同時に発現させた時のみ、液胞のpHの低下と花が赤くなることが明らかとなりました。本来はPH1やPH5遺伝子が発現していない葉においても、これらを同時に発現させると液胞のpHの低下が観察されました。そこで、このような葉を材料にして液胞のプロトン輸送をパッチクランプ法で調べたところ、PH5がプロトン輸送体であることや、PH1がPH5のプロトン輸送能力を高めることを突き止めました。蛍光タンパク質などを使った解析からは、PH1とPH5が液胞膜上で複合体を形成していることも明らかになりました。さらに、液胞内のpHを上げる機能をもつNHXタンパク質をペチュニアで過剰に発現させると、PH1とPH5の働きが打ち消されることなどから、PH1とPH5が確かに液胞で働いていることが確認されました。
以上の研究から、P3AとP3Bのサブファミリーに分類される2つの異なるP-ATPase(PH1とPH5)が液胞膜の上で複合体を形成して、プロトンを輸送することで液胞内pHを酸性化しているという結論が得られました。今後、これらのP-ATPaseを操作することで、植物細胞内のイオン輸送について調べたり、花の色を改変したりすることも可能になるでしょう。
【発表雑誌】
Cell Reports 2014年1月16日号
論文タイトル:
著者:
Marianna Faraco, Cornelis Spelt, Mattijs Bliek, Walter Verweij, Atsushi Hoshino, Luca Espen, Bhakti Prinsi, Rinse Jaarsma, Eray Tarhan, Albertus H. de Boer, Gian-Pietro Di Sansebastiano, Ronald Koes, Francesca M. Quattrocchio
【研究サポート】
本研究の一部は総合研究大学院大学の海外先進教育研究実践支援制度の支援を受けて実施されました。
【本研究に関するお問い合わせ】
日本における問い合わせ先
基礎生物学研究所 多様性生物学研究室
助教:星野 敦(ホシノ アツシ)
TEL: 0564-55-7534
E-mail: hoshino@nibb.ac.jp
【報道担当】
基礎生物学研究所 広報室
TEL: 0564-55-7628
FAX: 0564-55-7597
E-mail: press@nibb.ac.jp