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2008.02.06

網膜神経節細胞のサブタイプの1つを発生期から見分けることに成功 ~光の動きを伝える視神経回路形成の発達機構の一端が明らかに~

眼の網膜で受け取られた視覚刺激は、網膜神経節細胞を介して脳に伝えられます。ほ乳類の網膜神経節細胞は形態的な違いから12種類以上に分類され、それぞれが異なる視覚情報を脳に運ぶことが知られています。しかしながら発生期において網膜神経節細胞の種類の違いを見分ける方法がこれまでなかったために、それぞれの発達機構を明らかにすることはできませんでした。基礎生物学研究所の野田昌晴教授らは、発生期において、1種類の網膜神経節細胞で活性化する遺伝子をマウスで発見し、この遺伝子を目印にすることで、この特定の種類の網膜神経節細胞の発達を、初期の段階から見分けることに成功しました。この網膜神経節細胞は、特に上下方向に動く光の情報を伝えていると考えられています。今回の成果は、光の動きを感知する網膜神経回路がどのようにして形成されるのか、脳は受け取った視覚情報を基にいかにして行動を引き起こすのかを明らかにしていく上で重要な手掛かりになると考えられます。研究の詳細は、2008年2月6日、米国の科学雑誌プロスワン(PLoS ONE)誌で発表されました。

[はじめに]

視覚は、色や形、動きなど、外界の非常に多くの情報を受け取る為の感覚で、高度な情報処理が行われていることが知られています。光センサーである眼の視細胞によって受け取られた情報は、長いコードのような網膜神経節細胞を経て、脳に伝えられます。コード役の網膜神経節細胞は、ほ乳類では形態的な違いから、さらに12種類以上に分類され、それぞれが異なる視覚情報を脳に運ぶことが知られています。この12種以上の分類の一つ一つをサブタイプと呼びます。「どのようにして網膜神経節細胞のサブタイプ(種類)別に特有の機能を獲得するようになるのか?」その仕組みを知ることは、視覚の情報処理を理解する上で大変重要ですが、発達の初期段階では形態的な違いがほとんど無く、このサブタイプを見分ける方法がこれまでになかった為に、明らかにすることが出来ませんでした。

[研究の成果]

基礎生物学研究所 統合神経生物学研究部門の野田昌晴教授らの研究グループは、約15年間にわたって、視神経が脳の視中枢へ領域特異的投射(神経連絡)を行うメカニズムを明らかにする研究を行って来ました。その過程で、網膜の領域別に偏りを持って発現する遺伝子を50余り探し出し、その働き(役割)を一つずつ明らかにする研究を展開してきました。今回、網膜神経節細胞の特定の1種類のサブタイプで活性化する遺伝子SPIG1をマウスで発見しました。そして、この遺伝子を目印にして蛍光タンパク質で細胞を標識することにより(蛍光タンパク質をSPIG1遺伝子領域に挿入した組換えマウスを作成)、網膜の発達の初期段階よりこれらの特定の細胞を生きたまま見分けることに成功しました。この遺伝子SIPG1が発現している神経節細胞は、「ON中心型方向選択性神経節細胞」と呼ばれる種類の細胞であり、光の動きの情報を脳に伝え、視運動反応を引き起こす役割を持つと考えられています。
 蛍光標識された細胞の発達の過程を詳細に観察することにより、「ON中心型方向選択性神経節細胞」が形成するモザイク状の細胞分布や、発達機構の一端を明らかにしました。また、SIPG1が活性化した神経節細胞と活性化していない神経節細胞が隣り合って対の関係をつくり、中脳に存在する副視覚系内側核に情報を伝えることが、光の動き、特に光の上下方向の運動を伝えることに重要であることがわかってきました。

 

080204-fig1.jpeg

図1: 17.5日目胚、生後1日、生後6日、生後12日目までの、SIPG1発現網膜神経節細胞の様子(黒で示された細胞)

 

080204-fig2.jpeg図2: 対をつくり、中脳に存在する副視覚系の内側核に情報を伝えるSIPG1発現細胞(黄)とSIPG1非発現細胞(赤)

 


[今後の展望]

これらの発見は、光の動きを感知する網膜神経回路がどのようにして形成されるのか、網膜の視細胞が受けた光の情報が網膜内でどのように処理されて1つの神経節細胞に統合されていくのか、脳は受け取った視覚情報を基にいかにして行動を引き起こすのかを明らかにしていく上で重要な手掛かりになると考えられます。更には視覚系に生じる疾患の治療への基礎的知見になることが期待されます。

[発表雑誌]

PLoS ONE (プロスワン)
(2008年2月6日発表)

論文タイトル:
"Expression of SPIG1 reveals development of a retinal ganglion cell subtype projecting to the medial terminal nucleus in the mouse"

著者:Keisuke Yonehara, Takafumi Shintani, Ryoko Suzuki, Hiraki Sakuta, Yasushi Takeuchi, Kayo Nakamura-Yonehara & Masaharu Noda
 (米原圭祐、新谷隆史、鈴木亮子、作田拓、竹内靖、中村-米原佳世、野田昌晴)

[研究グループ]

本研究は、基礎生物学研究所 統合神経生物学研究部門 野田昌晴教授らの研究グループにより実施されました。

[本件に関するお問い合わせ先]
基礎生物学研究所 統合神経生物学研究部門
教授: 野田 昌晴(ノダ マサハル)
Tel: 0564-59-5846(研究室)
E-mail: madon@nibb.ac.jp
URL: http://niwww3.nibb.ac.jp/

[報道担当]

基礎生物学研究所 連携・広報企画運営戦略室
倉田 智子
Tel: 0564-55-7628
E-mail: press@nibb.ac.jp