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大学共同利用機関法人 自然科学研究機構

基礎生物学研究所

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プレスリリース概要

2018.07.11

比較ゲノム解析からアーバスキュラー菌根菌の絶対共生性に関わる共通の特徴を解明

地球上に存在する植物の多くは、根で菌類と共生しています。この共生は菌根共生とよばれ、植物と菌類とが互いに獲得の得意な栄養物質を交換することで効率的に成長しています。その中でも代表的なものがアーバスキュラー菌根というタイプの菌根で、最も多くの植物種が形成する、普遍的な菌根の様式です。しかし、この菌根を形成するアーバスキュラー菌根菌(AM菌)は植物と共生しないと生育できない絶対共生性の生物で、人為的な培養も難しいため、研究や農業利用を行う上での障害となっているのが現状です。そこで、今回、基礎生物学研究所の小林裕樹研究員、川口正代司教授らを中心とした研究グループはAM菌が単独では生育できない理由を遺伝子情報から明らかにするため、愛知県西尾市から単離されたAM菌株R. clarus HR1株のゲノムを解読し、モデルとされているAM菌(R. irregularis  DAOM197198株)との比較ゲノム解析を実施しました。その結果、脂肪酸やチアミンといった物質の合成系が2種類のAM菌で共通して失われていることが確認できました。また、これらのAM菌は環境中に存在する多糖類をエネルギー源として利用可能なブドウ糖に分解する酵素もほとんど失っていることが明らかになりました。このことから、AM菌は脂肪酸やチアミン、ブドウ糖といった物質を共生相手の植物に完全に依存しており、植物からこれらの物質の供給を受けないと生育できないと考えられます。今回の発見によってAM菌の生育に必須な物質の候補が見出されたことで、これを手掛かりとしてAM菌の培養技術が改善できれば、AM菌という生物の生育の仕組みが理解できるだけでなく、農業的な応用も進んでいくと考えられます。本成果は2018年6月18日付けでBMC Genomicsに掲載されました。

fig2.jpg図. 脂肪酸合成経路の図。長鎖脂肪酸を合成する細胞質型酵素(左側)がこれらのAM菌に存在していないことが確認された。