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基礎生物学研究所

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2018.02.20

植物細胞不易流行 ~変わらないものと新しいものの協調が細胞内交通網の進化を駆動する~

果物を搾ったジュースに含まれるみずみずしい水分やさわやかな酸味、甘みのもととなる糖や美しい色をもたらす色素は、その多くが液胞と呼ばれる細胞の中の区画(細胞小器官)に貯められています。また、豆腐のもととなる大豆のタンパク質や米に含まれるタンパク質の一部も、液胞に貯められています。私たちの生活は、植物の液胞のはたらきに大きく依存しているのです。私たちのグループはこれまでに、植物の液胞へ物質を運ぶ運搬経路の数が、動物や菌類の類似の経路よりも多いことを見いだしていました。このことは、植物の進化の過程で、液胞へ物質を輸送する輸送経路が多様化し、その結果植物に特徴的な液胞のはたらきが獲得されてきたことを示唆しています。しかし、このような植物の液胞のはたらきがどのようにして出来上がったのか、また、それぞれの液胞への輸送経路でどのようなタンパク質がはたらいているのかについては、現在もあまりよく分かっていません。今回、基礎生物学研究所 細胞動態研究部門の竹元廣大特別共同利用研究員、海老根一生助教、上田貴志教授は、東京大学の中野明彦教授、奈良先端科学技術大学院大学の郷達明助教、国際基督教大学の伊藤瑛海助教、Heidelberg大学のKarin Schumacher教授らと共同で、動物や菌類にも共通して存在するCORVETと呼ばれるタンパク質複合体と植物にしか存在しないVAMP727というタンパク質がセットになって、植物細胞内で液胞への輸送にはたらいていることを明らかにしました。このことは、動物と植物の共通祖先がもっていた因子と、植物が新しく獲得した因子が組み合わさることにより、植物における液胞への物質輸送経路の多様化がもたらされたことを示しています。本研究成果は、2018年2月19日の週に米国科学アカデミー紀要のオンライン版に掲載されます。

 

【研究の背景】

真核生物の細胞には、脂質でできた膜で包まれた様々な区画(細胞小器官)が存在しており、それらがきちんと機能することで細胞の生命活動が維持されています。これらの細胞小器官が正常にはたらくためには、そこで機能するタンパク質がそれぞれの場所に適切に輸送される必要があります。細胞小器官のタンパク質の多くは小胞体と呼ばれる細胞小器官でつくられ、各所へと輸送されていきます。この輸送を担う仕組みが、2013年にノーベル生理学医学賞の授賞対象となった「小胞輸送」であり、その概念をさらに拡張した「膜交通」です。

 

植物細胞の細胞小器官の中でも液胞は、動物のリソソームや酵母の液胞などのように不要物を分解するはたらきを持っています。これに加えて植物の液胞は、タンパク質や糖などの栄養素や色素を貯蔵したり、細胞の浸透圧調整をおこなったり、細胞を大きくする際に空間充填の役割をはたすなど、植物の液胞にしかない様々なはたらきをもっています。例えば大豆に豊富に含まれるタンパク質や、アサガオの花やブドウの実の色素などは液胞に蓄えられています。また、細胞が大きくなれなければ作物も大きく育てません。液胞のはたらきは植物自身のみならず、私たちの生活にも密接に関わっているのです。このように多様化した液胞のはたらきは植物で独自に進化したものですが、その制御の仕組みや進化の道筋については未解明の部分が多く残されています。

 

上田研究室では、多様な細胞小器官のはたらきとそれを生み出す仕組みに注目し、それが進化の過程でどのように獲得されてきたのかを明らかにするべく研究を行っています。膜交通の中でも膜融合の過程においては、RAB GTPaseと呼ばれる低分子量GTPaseが分子スイッチとして融合過程のON/OFFを制御します。まずRAB GTPaseが活性化することによって繋留因子が膜上に集合し、これによって物質を運ぶ側の膜と目的地側の膜が繋ぎとめられます。膜同士の融合は、SNAREと呼ばれる一群のタンパク質が担っています(図1)。この基本的な仕組みは真核生物に共通して保存されています。酵母においては、液胞への輸送に関わる繋留因子として、CORVETとHOPSという2つの繋留因子が発見されています。これらの繋留因子はいずれも6種類のタンパク質からなり、それらは動物や植物にも広く存在しているのですが、植物におけるCORVETとHOPSの機能はあまりよく分かっていませんでした。また、植物の液胞への輸送経路は酵母の液胞輸送経路と比べ多様化・複雑化していることが分かっていましたが、そこでCORVETとHOPSがどのようにはたらいているのかも分かっていませんでした。

 

fig1.jpg図1:膜交通における膜融合のモデル図。

 

【研究の成果】

シロイヌナズナのゲノム中にはCORVETとHOPSを構成するタンパク質の遺伝子が1つずつ存在しており、タンパク質の相互作用解析の結果、これらのタンパク質がシロイヌナズナにおいても複合体を形成していることが分かりました。植物の液胞輸送経路では、膜融合の分子スイッチであるRAB GTPaseのメンバーであるRAB5とRAB7がはたらいていることが分かっています。

 

そこでこれらのRAB GTPaseとCORVET、HOPSの関係性を調べたところ、RAB GTPaseが活性化されたとき、すなわちスイッチが“ON”の状態の時にRAB5とCORVETがエンドソーム上ではたらき、RAB7が“ON”の状態の時にHOPSが液胞膜上でRAB7と一緒にはたらくことが分かりました。続いてCORVETやHOPSを構成するタンパク質の機能を失わせると、胚(種子の中身で将来植物になるところ)がきちんと形成できずに死んでしまうことが明らかになり、CORVETとHOPSがいずれも植物の生存に必須であることが分かりました。

 

次に、CORVETやHOPSの機能が失われると、液胞へのタンパク質の輸送にどのような影響がでるか調べました。その結果、CORVETとHOPSが別々の液胞輸送経路ではたらくこと、CORVETがはたらく輸送経路は、植物が進化の過程で独自に獲得した植物にしかない輸送経路であることも明らかになりました。さらに、膜同士の融合に必要なSNAREタンパク質との関係性を解析した結果、CORVETとHOPSが異なるSNAREタンパク質と協調してはたらくことが分かりました.CORVETは植物独自のSNAREであるVAMP727と協調してエンドソームと液胞膜の融合を実行するのに対し、HOPSは酵母や動物にも保存されたVAMP713と協調して液胞膜同士の融合を実行することが示されたのです(図2)。この結果は、共通した祖先からもっていた因子と、植物が新しく獲得した因子の組み合わせが新たな液胞輸送経路の開拓につながったとともに、祖先から受け継いだ輸送経路と植物が独自に獲得した輸送経路が協調することにより、植物の多様な液胞機能を実現していることを示しています。不易流行は、膜交通の多様化と進化の本質を言い当てる言葉でもあったのです。

 

fig2.jpg

図2:液胞への膜の融合に関わる膜交通因子のモデル図。

CORVETはRAB5と植物独自の配列を持つ特有のVAMP727とセットでエンドソームと液胞の膜融合を、HOPSはRAB7と広く保存された配列のVAMP713とセットで液胞同士の膜融合を担う。

 

【今後の展望】

今回の成果から、植物の液胞の機能や液胞への輸送がどのように成り立ってきたのかの一端を明らかにすることができました。液胞への輸送の仕組みをより詳細に明らかにしていけば、液胞機能を強化したり液胞に貯める物質を操作したりすることにより、私たちの生活に役立つ高機能植物を創出することが可能になると期待されます。

 

【発表雑誌】

雑誌名 Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America

2018年2月19日の週に公開

論文タイトル: Distinct sets of tethering complexes, SNARE complexes, and Rab GTPases mediate membrane fusion at the vacuole in Arabidopsis

著者:Kodai Takemoto, Kazuo Ebine, Jana Christin Askani, Falco Krüger, Zaida Andrés Gonzalez, Emi Ito, Tatsuaki Goh, Karin Schumacher, Akihiko Nakano, and Takashi Ueda

DOI: 10.1073/pnas.1717839115

 

【研究サポート】

本研究は日本学術振興会(14J09222)、若手研究(B)(15K18551)、新学術領域「植物細胞壁の情報処理システム」(24114003)、基盤研究(B)(15H04382)、基盤研究(S)(25221103)、挑戦的研究(萌芽)(17K19412)、科学技術振興機構PRESTO(JPMJPR11B2)による支援を受けて行われました。

 

【本研究に関するお問い合わせ先】

基礎生物学研究所 細胞動態研究部門

教授 上田 貴志 (うえだ たかし)

TEL: 0564-55-7530

E-mail: tueda@nibb.ac.jp

 

【報道担当】

基礎生物学研究所 広報室

TEL: 0564-55-7628

FAX: 0564-55-7597

E-mail: press@nibb.ac.jp