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2017年01月16日
アスパラガスの雌雄を分ける性決定遺伝子を世界で初めて発見 植物の性の進化、ダーウィンの予測を裏付け ~有用な作物の育種に期待~
国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 基礎生物学研究所
国立大学法人 徳島大学
国立大学法人 東北大学
国立大学法人 九州大学
国立大学法人 東京大学大学院農学生命科学研究科
 

【概要】

 奈良先端科学技術大学院大学(学長:小笠原直毅)バイオサイエンス研究科の高山誠司客員教授(現東京大学)、村瀬浩司助教らの研究グループは基礎生物学研究所、徳島大学、東北大学、九州大学との共同研究により、全ゲノム(遺伝情報)や遺伝子の発現を網羅的に解析する手法を用いて、アスパラガスの雌雄を決める性決定遺伝子※1を世界で初めて発見しました。

 植物の多くは1つの花におしべとめしべをもつ両性花ですが、イチョウ、キウイフルーツ、アスパラガスなどは雄花のみをつける雄株と雌花のみをつける雌株に分かれます。これらの植物の性別はほ乳類と同様に性染色体によって制御されており、アスパラガスでは性染色体がXYのとき雄株、XXのとき雌株となります。アスパラガスの花は発生初期では雄花と雌花で違いはありませんが、発達するに従い雄花ではめしべの、雌花ではおしべの発達が停止します。そのため、Y染色体上にはおしべの発達を促進する遺伝子とめしべの発達を抑制する2つの性決定遺伝子が存在すると予想されていました。

本研究ではMSE1と名付けた転写因子※2の機能があるタンパク質のDNAを持つ遺伝子がおしべの発達を促進するアスパラガスの性決定遺伝子であることを明らかにしました。この成果はアスパラガスの性別を決定する鍵因子を明らかにしただけでなく、人為的に植物を雌雄があるタイプに改変したり、雌雄をあわせ持つ両性花に戻したりする技術へ発展する可能性があり、植物の育種に応用されることが期待されます。

 この成果は日本分子生物学会および米国のJohn Wiley & Sons社が出版するGenes to Cells誌1月号(1月13日発行)に掲載されました。

 

【解説】

 花をつける植物の中で雌雄に分かれる種は約1万5千種あり、これらの雌雄はほ乳類と同じように「X」「Y」という2種の性染色体の型の組み合わせによって、その性別が決定されます。性染色体には雌雄への発達を制御する性決定遺伝子がコードされていると考えられていますが、植物の性決定機構はほとんど明らかになっていません。アスパラガスはXY型の性染色体をもち、XYで雄株、XXで雌株になります(図A)。雄株と雌株では花以外に形態の差がほとんどないことから、Y染色体上にはおしべの発達を促進する遺伝子とめしべの発達を抑制する性決定遺伝子がコードされていると考えられてきましたが、その実体は不明でした(図B)。

 

【実験の手法・結果】

 今回の研究ではY染色体にコードされている性決定遺伝子を見つけるために、発達初期の雄花と雌花で発現する遺伝子を高速シーケンサー(DNA解析装置)※3を用いて網羅的に解析し、雄株だけで発現している遺伝子を探しました。雄株で強く発現していた遺伝子のうち、MSE1と命名した転写因子をコードする遺伝子は雄株のみがもっていることから、Y染色体上にあることがわかりました。また、MSE1遺伝子は花の発達初期におしべでのみ発現しており、おしべで機能していることが明らかになりました。MSE1遺伝子は花をつける植物で広く保存されており、モデル植物であるシロイヌナズナのMSE1オルソログ遺伝子をゲノム編集によってノックアウトするとおしべの発達が異常となり、雌花のようになりました。これらの結果はY染色体にコードされているMSE1遺伝子が花の発達中におしべで発現して、正常なおしべを発達させることにより、雄花を形成させていることを示しています。

 また、アスパラガスの全ゲノム解析から、X染色体にもMSE1遺伝子があることがわかりました。しかしながら、このMSE1遺伝子には多数の変異が入っており、遺伝子としての機能を失っていました。これはアスパラガスの祖先が雌雄をあわせ持つ両性花であり、その祖先でおしべの発達に必要なMSE1遺伝子が変異によって機能を失うことによりX染色体になったことを示しています。正常な機能をもつMSE1遺伝子がある染色体はY染色体になり、アスパラガスに雄と雌が誕生したと考えられます。

 

【本研究の意義】

 今回の研究により、アスパラガスのY染色体にあると予想されていた性決定遺伝子を明らかにすることができました。また、アスパラガスにおける雌雄誕生の一端を解明することもできました。植物の雌雄は少なくとも100回以上独立して進化したと考えられています。進化論で有名なチャールズ・ダーウインはその著書の中で、植物の雌雄は両性花の植物が段階的におしべとめしべを失って、現在のように進化したと予想しています。本研究はこのダーウインの進化説が実際に起こっていることを初めて実証した点で、とても意義深いものです。

 本研究をさらに発展させることにより、人為的に両性花を雌雄にしたり、雌雄から両性花に戻す技術の開発に繋がる可能性があり、植物の育種などに役立つことが期待されます。

 

【掲載論文】

タイトル:MYB transcription factor gene involved in sex determination in Asparagus officinalis

(和訳:アスパラガスの性決定に関わるMYB転写因子)

 

著者:Kohji Murase1, Shuji Shigenobu2, Sota Fujii1, Kazuki Ueda1, Takanori Murata1,

Ai Sakamoto1, Yuko Wada1, Katsushi Yamaguchi2, Yuriko Osakabe3, Keishi Osakabe3,

Akira Kanno4, Yukio Ozaki5 and Seiji Takayama1,6

 

所属:1奈良先端科学技術大学院大学,2基礎生物学研究所,3徳島大学、4東北大学,5九州大学,6東京大学

 

掲載誌:Genes to Cells(1月号)

 

【用語解説】

※1:性決定遺伝子

性別による違いを制御するためのマスタースイッチとなる遺伝子。多くの場合、性染色体にコードされているため、性染色体の型によって性別が決定される。

 

※2:転写因子

特定の遺伝子の発現を高めたり、抑えたりする役目をもつタンパク質であり、その標的になる遺伝子の機能を制御するスイッチとして働く。

 

※3:高速シーケンサー

次世代シーケンサーとも呼ばれ、一度に数億から数十億塩基の塩基配列を解読できるため、組織で発現する遺伝子の発現量を丸ごと解析したり、高等生物の全ゲノムを安価で解読したりできるようになった。

 

【本プレスリリースに関するお問い合わせ先】

奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス研究科 細胞間情報学研究室

村瀬 浩司

TEL: 0743-72-5455  FAX : 0743-72-5459  E-mail: kmurase@is.naist.jp

 

fig1.jpg

 

図A アスパラガスの花

アスパラガスでは性染色体がXXのとき雌花、XYのとき雄花となる。雌花ではおしべの、雄花ではめしべの痕跡がそれぞれ残っており、発達途中で退化している。

 

図B アスパラガスの性決定モデル

 アスパラガスのY染色体上にはおしべの発達を促進する遺伝子とめしべの発達を抑制する2つの性決定遺伝子があると予想されてきた。この2つの遺伝子の働きにより雌花から雄花へと転換する。今回の研究ではおしべの発達を促進する性決定遺伝子がMSE1であることが明らかになった。

 

<基礎生物学研究所より>

本課題は基礎生物学研究所の共同利用研究の一つである、統合ゲノミクス共同利用研究の課題として実施されました。本研究所の生物機能解析センター生物機能情報分析室(重信秀治特任准教授ら)のチームは、次世代シーケンシング技術を駆使し、アスパラガスのゲノム解析に貢献しました。