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2016年11月08日
アサガオの全ゲノム解読 〜アサガオの学術研究100年目のイノベーション〜

自然科学研究機構 基礎生物学研究所

慶應義塾大学

九州大学

情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所

 

基礎生物学研究所の星野敦助教、慶應義塾大学理工学部の榊原康文教授、九州大学大学院理学研究院の仁田坂英二講師らは、日本独自の研究資源であるアサガオの全ゲノム配列をほぼ完全に解読することに成功しました。アサガオが約43,000個の遺伝子をもっていることや、その多彩な品種を生み出すもとになった動く遺伝子(トランスポゾン)のゲノム上の分布状況、「渦」と呼ばれる変異の原因遺伝子なども新たに判明しました。アサガオは日本伝統の園芸植物であり、花色や形態形成などの分子遺伝学的な解析材料としての重要性から、活発に研究されています。今回の成果によりゲノム情報基盤が整備されたことで、アサガオがモデル植物として世界中のより多くの研究者に活用されることが期待されます。本研究成果は2016年11月8日に国際学術誌 “Nature Communications”(ネイチャー・コミュニケーションズ)に掲載されます。本研究は文部科学省科学研究費新学術領域研究「ゲノム支援」(代表:小原雄治 国立遺伝学研究所)の一環として実施されました。

 

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図1 さまざまな色とかたちのアサガオ

 

【研究の背景】

 アサガオは、日本の夏を代表する植物です。夏の朝を彩る涼やかなその花は、古くから日本人に愛されてきました。江戸時代には、アサガオとは思えないような奇妙な花と葉のかたちをした「変化アサガオ」を鑑賞することが流行り、風変わりな見た目に価値を見いだすという、世界にも類を見ない日本独自の文化の一部になりました。もともとアサガオの野生型(原種)は、青く小ぶりな花を咲かせます。観賞用として品種改良が進んだアサガオは色彩豊かで、花も大きいなど、野生型とは違う性質が見られます(図1)。このような性質や、変化アサガオの奇妙なかたちは全て、遺伝子のDNA配列が変化した「突然変異」によるものです。

 ところで、今年はアサガオの学術研究が始まって100周年にあたります。これは遺伝学によるアサガオの研究が、はじめて学術論文(日本育種学会会報第1巻第1号  「一二のMENDEL性質に就いて」(外山亀太郎)、「朝顔の遺傳」(竹崎嘉徳))として発表された1916年から数えたものです。遺伝子の突然変異によって生じる「突然変異体」は、遺伝学に欠かせない材料です。アサガオの遺伝学は、数多くの突然変異体があるという恩恵のもと、日本国内で精力的に行われました。現在、1,000をこえる突然変異体が国の重要な生物資源として九州大学で保存され、研究に活用されています。

 このような、日本生まれの研究資源であるアサガオを学術研究でさらに活かすために、全ゲノムのDNA配列を解読することが研究者のあいだで期待され続けてきました。ゲノムとは、ある生物がもつ全ての遺伝情報のセットのことで、生物の設計図にもたとえられます。2010年の秋、国内の研究者が集まり、アサガオの設計図を入手する共同研究がスタートしました。

 

【研究の成果】

 ゲノム配列を解読するアサガオには、東京古型標準型という実験系統を選びました(図2)。解読作業には、国立遺伝学研究所の最新鋭DNA配列解析装置(第三世代シークエンサー)を使いました。7億5千万塩基の長さがあるアサガオのゲノム配列を解読するには、装置で読み取った膨大な数のDNA配列を、計算機でつなぎ合わせることが必要です。そこで、装置で解析した平均7,000 bp(塩基対)の長さをもつ750万本のDNA配列を、慶應義塾大学理工学部榊原研究室でつなぎ合わせました。その結果、全ゲノムの98 %に相当する735 Mb(7億3千5百万塩基)を、3,400本のDNA配列(スキャフォールド※1)としてつなぎ合わせることができました。どれだけ長くDNA配列をつなげることができたかを示す指標は、近年解読された動植物のゲノム配列の中でトップクラスの数値(N50 = 2.9 Mb(290万塩基))になりました。また、染色体の末端など難読なDNA配列もうまく解読されていましたので、ほぼ完全にアサガオのゲノムを解読したと考えられます。ゲノム配列を調べると、アサガオは約43,000の遺伝子をもっていました。

 つづいて、東京古型標準型とアフリカ系統のあいだで、3,700カ所のDNA配列の違いをみつけて、それらの位置関係を計算し、新たに連鎖地図※2をつくりました。アサガオの1セット15本(2n = 30)の染色体に対応する、15本の線上に3,700のDNA配列を点状に並べた連鎖地図が完成しました。この並んだDNA配列を目印にしてゲノム配列を連鎖地図上に並べたところ、全ゲノムの91 %に相当する671 Mbのゲノム配列を、擬似的な染色体のDNA配列としてまとめることができました。

 これまでの研究から、動く遺伝子であるトランスポゾン※3、とくにTpn1ファミリーのトランスポゾンが、アサガオの多くの突然変異を起こしたことが知られていました。これらのトランスポゾンは、ゲノム配列中に340も見つかりました。およそ130の遺伝子あたり1つというトランスポゾンの多さが、多彩な品種を生み出すもとになったと考察しました。これらを動かす酵素を作り出しているトランスポゾンも新たに2つみつかりました。

 ところで、「渦変異」と「桔梗変異」の両方をもつアサガオは著しく小さくなり、「渦小人」と呼ばれるとても奇妙なかたちになることが知られています(図3)。今回明らかとなった全ゲノム情報を利用して、「渦変異」の原因遺伝子の特定を試みました。その結果、渦変異では、ブラシノステロイドと呼ばれる植物ホルモンの合成にかかわる酵素(ROT3/CYP90C1)の遺伝子に変異があることが判明しました。「桔梗変異」もブラシノステロイドの合成に関わる遺伝子であることが知られており、この2つの変異が重なることで「渦小人」の特異なかたちになることが明らかになりました。

 さらに、ゲノム配列に基づいて、アサガオと他の生物との比較解析も可能になりました。本研究でも、トマトのゲノム配列と比較することで、アサガオとトマトの祖先が75万年前に分かれたのち、それぞれの植物でゲノム全体が倍になる全ゲノム重複が起きたという歴史が分かりました。

 

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図2 全ゲノム解読を行ったアサガオの実験系統、東京古型標準型。 

 

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図3:変化アサガオ「渦小人」

 

【今後の展望】

 本研究では、ゲノム配列からトランスポゾンや渦遺伝子を発見しましたが、これまでの研究手法では何年もかかるところを、わずか数ヶ月で発見できました。この研究期間の短縮に、我々はアサガオの研究にイノベーションが起きたと感じました。また、アサガオには、早朝に咲く、すぐにしおれる、まき付くなどの、おもしろい性質があります。これらを遺伝子のDNA配列から調べることも可能でしょう。アサガオとおなじサツマイモ属にはサツマイモ、おなじヒルガオ科には寄生植物のネナシカズラが分類されています。すぐとなりのナス科には、ナス、トマト、ジャガイモ、トウガラシなどがあります。アサガオのゲノム配列は、アサガオそのものの理解だけなく、これら近縁の有用作物や寄生植物などの研究にも応用されるでしょう。ゲノム配列は、アサガオの新しい学術研究の展開を導くと期待されます。

 

【発表雑誌】

Nature Communications 2016年11月8日掲載(日本時間11月8日19時)

論文タイトル:Genome sequence and analysis of the Japanese morning glory Ipomoea nil

DOI:10.1038/NCOMMS13295

著者:Atsushi Hoshino, Vasanthan Jayakumar, Eiji Nitasaka, Atsushi Toyoda, Hideki Noguchi, Takehiko Itoh, Tadasu Shin-I, Yohei Minakuchi, Yuki Koda, Atsushi Nagano, Masaki Yasugi, Mie Honjo, Hiroshi Kudoh, Motoaki Seki, Asako Kamiya, Toshiyuki Shiraki, Piero Carninci, Erika Asamizu, Hiroyo Nishide, Sachiko Tanaka, Kyeung-Il Park, Yasumasa Morita, Kohei Yokoyama, Ikuo Uchiyama, Yoshikazu Tanaka, Satoshi Tabata, Kazuo Shinozaki, Yoshihide Hayashizaki, Yuji Kohara, Yutaka Suzuki, Sumio Sugano, Asao Fujiyama, Shigeru Iida, and Yasubumi Sakakibara

 

【用語説明】

※1 一度に読み取ることのできるDNA配列の長さは100〜10,000塩基程度である。そこで、装置で読み取った膨大な数のDNA配列を計算機でつなぎ合わせることが必要になる。このつなぎ合わせた一つながりのDNA配列のことをコンティグと呼ぶ。さらに一つながりのDNAの両端配列をもとに、コンティグをつなぎあわせたDNA配列をスキャフォールドと呼ぶ。コンティグはすき間なく塩基配列がわかっているが、スキャフォールドにはコンティグ間の塩基配列がわからない部分がはさまっている。

※2 連鎖地図とは、組み換えや交差から遺伝子間の距離を計算し、遺伝子どうしの染色体上の位置関係を直線上の地図にまとめたもの。

※3 トランスポゾンとは、ゲノム上の位置を移動(転移)することのできるDNA配列で、動く遺伝子とも呼ばれる。

 

【研究サポート】

本研究は、科学研究費助成事業 新学術領域研究「ゲノム支援」と基盤研究などの支援を受けて実施されました。

 

【本研究に関するお問い合わせ】

基礎生物学研究所 多様性生物学研究室

助教:星野 敦(ホシノ アツシ)

TEL: 0564-55-7534  E-mail: hoshino@nibb.ac.jp

 

慶應義塾大学理工学部生命情報学科

教授:榊原 康文(サカキバラ ヤスブミ)

TEL: 045-566-1791  E-mail: yasu@bio.keio.ac.jp

 

九州大学大学院理学研究院生物科学部門

講師:仁田坂 英二(ニタサカ エイジ)

TEL:092-802-4266  E-mail: enitascb@kyushu-u.org

 

新学術領域研究「ゲノム支援」代表・国立遺伝学研究所

特任教授:小原 雄治(コハラ ユウジ)

TEL: 055-981-6854  E-mail:ykohara@nig.ac.jp

 

【報道担当】

基礎生物学研究所 広報室

〒444-8585 愛知県岡崎市明大寺町字西郷中38

TEL: 0564-55-7628

FAX: 0564-55-7597

E-mail: press@nibb.ac.jp

 

慶應義塾 広報室

〒108-8345 東京都港区三田2-15-45

TEL: 03-5427-1541

FAX: 03-5427-7640

E-mail: m-koho@adst.keio.ac.jp

 

九州大学 広報室

〒819-0395 福岡県福岡市西区元岡744

TEL:092-802-2130

FAX:092-802-2139

E-mail: koho@jimu.kyushu-u.ac.jp

 

文部科学省科学研究費新学術領域研究

「ゲノム科学の総合的推進に向けた大規模ゲノム情報生産・高度情報解析支援」

ゲノム支援事務局

E-mail: info@genome-sci.jp