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2016年02月16日
着床前の胚において、決まりかけた細胞の運命が細胞間の相互作用によって変更される様子をライブイメージングにより観察することに成功

 基礎生物学研究所 初期発生研究部門の豊岡やよい助教と藤森俊彦教授の研究グループは、哺乳類のモデル動物であるマウスを用いて、将来胎盤を形成する栄養芽層細胞と呼ばれる細胞と、体そのものを作る多能性細胞の分化過程において、着床前の胚の細胞は栄養芽層の分化誘導因子Cdx2を高発現しても、その後、体を作る多能性細胞に分化することができることをライブイメージングにより明らかにしました。このことから、ほ乳類の着床前の発生過程では、一部の細胞において、決まりかけた将来の運命が細胞間の相互作用によって変更されていることがわかりました。この研究成果は発生学専門誌Developmental Biology に掲載予定で、オンライン先行公開されました。

 

【背景】

 哺乳類のモデル動物であるマウスの着床前胚は、受精直後は胚のどの細胞も、胚(将来体となる組織)そのものと、胚に栄養を与える胎盤等になる細胞の両方を生み出す能力(全能性)を持っています。受精後3日目頃の胚において最初の細胞分化が起こり、将来胎盤を形成する細胞である栄養芽層(TE)を外側に、将来胚体を形成する多能性細胞集団である内部細胞塊(ICM)を内側に持つ、胚盤胞と呼ばれる形態を形成します(図1)。この等価な細胞の集団から2種類の細胞が作り出される機構については、細胞表面からの細胞接着等に関する情報の違いにより、各々の細胞は自分が内側にいるのか、外側にいるのかを認識し、外側にいる細胞はCdx2遺伝子などの栄養芽層の分化を誘導する因子の発現を開始し、内側の細胞は未分化なまま内部細胞塊として維持される、という説が現在は主流になっています。

 

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図1. 栄養芽層細胞の分化出現を示した図。受精卵は分割を繰り返して細胞数を増やし、16細胞〜32細胞前後の時期に2種類の細胞、栄養芽層と内部細胞塊(ICM)が出現する。栄養芽層は胎盤を、ICMは胚(体)をそれぞれ将来形成する。

 

【研究成果】 

 本研究グループは、哺乳類の発生過程の様子を調べるために、栄養芽層の分化誘導因子であるCdx2の発現をGFPタンパク質の蛍光として観察することのできるトランスジェニックマウスを作製し、そのマウスから採取した着床前の胚の顕微鏡観察を行いました(図2、上図)。その結果、予想されていたように、発生過程のごく初期の、桑実胚と呼ばれる時期においては、外側の細胞のみがCdx2を高発現する様子が観察されました。しかしその後の発生段階において、内側にいるにも関わらずCdx2を高発現している細胞が観察されました(図2、下図)。こういった細胞の胚の中での振る舞いを連続的に観察するためにライブイメージング観察を行った結果、初期の段階には外側に位置してCdx2を高発現している細胞の一部が内側へと入り込んでいく様子が観察されました(図3)。追って着床直前の発生段階まで観察を続けると、外側から内側へと移動した細胞ではCdx2の発現は徐々に抑制され、最終的には元々内側にいた細胞と協調して内部細胞塊を形成し、その後内部細胞塊から派生し、将来胚体を作るエピブラストと呼ばれる多能性の細胞集団の形成にも寄与できることが明らかとなりました(図4)。

 

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図2. (上段)Cdx2-GFPレポーターマウスの胚盤胞。外側の栄養芽層の細胞の層のみがCdx2(GFP)を発現している。紫は細胞の核を可視化したもの。(下段)内側の内部細胞塊(ICM)内にCdx2発現細胞が見られる胚盤胞の一例。矢印はCdx2発現細胞を示す。

 

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図3. Cdx2(GFP)発現細胞が外側から内側へ入り込む様子。核が赤色で可視化されている。アスタリスク(*)は移動している細胞を示す。ライブイメージング観察により、細胞の振る舞いをこのように連続して観察することが可能となった。

 

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図4. 本研究で明らかになったことのまとめ。黄色い細胞集団は将来体を形成するエピブラストを、赤い細胞層は胎仔を包む膜を形成する胚体外内胚葉をそれぞれ示す。オレンジの線で囲われた円は、一度Cdx2を高発現した後に外側から内側に移動した細胞を示す。

 

【本研究の意義と今後の展望】

 マウスの着床前胚では、ある時期になると外側の細胞は皆、Cdx2遺伝子の発現を開始しますが、一部の外側から内側へと移動した細胞はCdx2の発現を抑制し、元から内側にいた細胞と協調して多能性細胞である内部細胞塊やエピブラストを形成することが明らかになりました。このような外側から内側への細胞の動きは、栄養芽層と内部細胞塊の2つの細胞種の比率の調節のために起こるのではないかと考えられます。個体の発生というと、設計図に基づき、あるべき場所にあるべき細胞を厳密に配置して、という機械的なイメージがあるかもしれませんが、着床前の胚はこのように“仮”の状態で細胞を配置し、取り敢えず細胞の分化に重要な遺伝子の発現を開始しておいて、その後の配置換えに応じてそれをキャンセルしたりするという“試行錯誤”を行っているということを、ライブイメージング技術により明らかにすることができました。

 

【発表雑誌】

Developmental Biology誌 掲載予定 オンライン先行掲載済み

論文タイトル:Early preimplantation cells expressing Cdx2 exhibit plasticity of specification to TE and ICM lineages through positional changes

著者:Yayoi Toyooka, Sanae Oka, Toshihiko Fujimori

 

【研究グループ】

本研究は、基礎生物学研究所 初期発生研究部門の豊岡やよい助教、藤森俊彦教授らの研究グループによって実施されました。

 

【研究サポート】

本研究は、文部科学省科学研究費助成事業(科研費)の支援を受けて行われました。

 

【本件に関するお問い合わせ先】

自然科学研究機構 基礎生物学研究所 初期発生研究部門

教授: 藤森 俊彦 (フジモリ トシヒコ)

TEL: 0564-59-5860 (研究室)

E-mail: fujimori@nibb.ac.jp

 

助教: 豊岡 やよい(トヨオカ ヤヨイ)

TEL: 0564-59-5862 (研究室)

E-mail: yayoi@nibb.ac.jp

 

【報道担当】

基礎生物学研究所 広報室

TEL: 0564-55-7628

FAX: 0564-55-7597

E-mail: press@nibb.ac.jp