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大学共同利用機関法人 自然科学研究機構

基礎生物学研究所

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2014.12.19

ミジンコにおける人工制限酵素Platinum TALENを用いた遺伝子破壊法の確立

ミジンコは、環境の変化に応答して「オス」と「メス」を産み分けたり、メスだけで増える「単為生殖」と「有性生殖」を切り換えたりするなど興味深い現象が数多く知られています。しかし、これらの現象に関わる遺伝子の機能を解析するための手法の開発は進んでいませんでした。今回、岡崎統合バイオサイエンスセンター・基礎生物学研究所 分子環境生物学研究部門の蛭田千鶴江 日本学術振興会特別研究員(現 岩手医科大学 助教)、荻野由紀子 助教、井口泰泉 教授らの研究グループは、広島大学大学院理学研究科の佐久間哲史 特任助教、山本卓 教授との共同研究により、ミジンコにおいて人工制限酵素Platinum TALENを用いた遺伝子破壊(ノックアウト)法の確立に成功しました。この研究成果は科学雑誌BMC Biotechnologyに掲載されました。

 

【研究の背景】

ミジンコは実験室内での大量飼育が容易な小型の甲殻類です。繁殖周期が短いこと、発生段階をそろえた卵のサンプリングが可能であることなど実験動物としての利点を多くもち、生物学の様々な分野で新しいモデル生物として注目されています。さらに甲殻類で初めて全ゲノムが解読され、ゲノム研究の情報基盤が整ってきています。しかし、興味深い現象が次々と報告されるものの、そのメカニズムを明らかにするための遺伝子の機能解析手法の開発が遅れていました。ミジンコを用いた研究の進展には、目的とする遺伝子を導入あるいは欠損させることで、その遺伝子の機能を生体レベルで解析する手法の開発が欠かせない段階にきていました。

これまで目的とする遺伝子の改変は一部のモデル生物に限られてきましたが、近年の人工制限酵素を利用した新しいゲノム編集技術の開発により、原理的には全ての生物で可能になりました。その1つであるTALEN(Transcription activator-like effector nuclease)は標的配列に結合するとDNA切断ドメインが二量体を形成し、DNA二本鎖に切断を誘導します。切断されたDNAは修復されますが、その過程で塩基の欠失や挿入により遺伝子が破壊されます。研究グループはこの方法による遺伝子破壊を、ミジンコにおいて実現することを目指しました。

 

【研究の成果】

研究グループは、TALENの標的遺伝子としてディスタルレスDistal-lessDll)を選定しました。この遺伝子はホメオボックスを持つ転写因子で、節足動物では付属肢の遠位部形成に関わることが分かっています。Dll遺伝子を標的とするTALENのmRNAを合成し、マイクロインジェクションにより産卵された直後の胚に導入しました。その結果、付属肢の遠位部の形成が阻害された表現型が得られました(図)。続いて、TALEN導入個体のDll遺伝子の塩基配列を確認したところ、数塩基の欠失が認められ、さらにその変異が次世代に受け継がれることも確認できました。このことから、ミジンコにおいてTALENを初期胚に導入することで、標的遺伝子を破壊してその機能を解析することが可能になりました。

 

fig1.jpg

図 Dll遺伝子の破壊により、第2触角の先端部が欠失し、付属肢(第2胸肢)の遠位部の形成が阻害された。上段:Dll遺伝子を標的とするTALENのmRNAsを導入した個体。下段:何も導入していないコントロール個体。

 

【本研究の意義と今後の展開】

 ミジンコには、環境の変化に応答したオスとメスの産み分け(環境依存型性決定)、単為生殖と有性生殖の切り換えや捕食者の存在下で体の形を変化させる(捕食者誘導型防衛)といった興味深い現象が数多く知られています。今回確立したミジンコにおけるPlatinum TALENを用いた遺伝子破壊法によって、これらの多彩な可塑的切り換え現象に関わる分子メカニズムの解析も強力に推進されるものと考えられます。さらに今後、外来遺伝子の付加(ノックイン)法を確立しゲノム編集基盤を整備することで、ミジンコはゲノム情報と遺伝子操作手法を兼ね備えたモデル生物になることが期待されます。

 

【研究グループ】

本研究は、岡崎統合バイオサイエンスセンター・基礎生物学研究所 分子環境生物学研究部門の蛭田千鶴江 日本学術振興会特別研究員(現 岩手医科大学 教養教育センター 助教)、荻野由紀子 助教、宮川信一 助教、豊田賢治 総研大大学院生(日本学術振興会特別研究員(DC))、井口泰泉 教授と広島大学大学院理学研究科の佐久間哲史 特任助教、山本卓 教授からなるグループにより実施されました。

 

【掲載誌情報】

BMC Biotechnology(ビーエムシー バイオテクノロジー)14:95 (18 November 2014)

2014年11月18日付け掲載

論文タイトル: “Targeted gene disruption by use of transcription activator-like effector nuclease (TALEN) in the water flea Daphnia pulex

著者: Chizue Hiruta, Yukiko Ogino, Tetsushi Sakuma, Kenji Toyota, Shinichi Miyagawa, Takashi Yamamoto, Taisen Iguchi

http://www.biomedcentral.com/1472-6750/14/95 OPEN ACCESS (どなたでも閲覧可能)

 

【研究サポート】

 本研究は、文部科学省科学研究費助成事業、基礎生物学研究所新規モデル生物開発研究プロジェクトのサポートを受けて行われました。

 

【本研究に関するお問い合わせ先】

岡崎統合バイオサイエンスセンター・基礎生物学研究所

分子環境生物学研究部門

教授 井口 泰泉(イグチ タイセン)

TEL: 0564-59-5235(研究室)

E-mail: taisen@nibb.ac.jp

 

【報道担当】

基礎生物学研究所 広報室

TEL: 0564-55-7628

FAX: 0564-55-7597

E-mail: press@nibb.ac.jp