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2014年12月05日
環境水中の男性ホルモン、抗男性ホルモン作用を示す物質を検出するバイオモニタリングメダカの作出に成功

 下水処理場や工場の排水や有機塩素系農薬に男性ホルモン/女性ホルモン作用を示す物質が含まれ、魚類をはじめとする水棲生物に影響が出る事例が問題となっています。環境水中にこれらの作用を示す物質がどれくらい含まれるのかをモニタリングすることは極めて重要です。今回、岡崎統合バイオサイエンスセンター・基礎生物学研究所・分子環境生物学研究部門の荻野由紀子助教、井口泰泉教授の研究グループは、フランスのベンチャー企業WatchFrog社との共同研究により、環境水中の男性ホルモンおよび抗男性ホルモン作用を示す物質を検出するバイオモニタリングメダカの作出に成功しました。この研究成果は科学雑誌Environmental Science & Technologyに掲載されました。

 

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図1:

トゲウオのオス特有の営巣行動に必要な接着タンパク質(スピギン)注1の遺伝子発現制御領域をセンサーとして、男性ホルモン量に応答して緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現するバイオモニタリングメダカを開発。環境水中の男性ホルモン(アンドロゲン)および抗男性ホルモン作用を示す科学物質のスクリーニングに使用できる。

 

【研究の背景】

 脊椎動物では、男性ホルモンにより、オスの二次性徴の発現が制御されています。抗男性ホルモン作用を示す化学物質に暴露されると、遺伝的にはオスであっても、不完全なオスあるいはメスとしての表現型を示すようになってしまいます。また遺伝的なメスでも過剰な男性ホルモンに暴露されるとオスの表現型を示すようになります。これまで、環境水中の男性ホルモン作用あるいは抗男性ホルモン作用をもつ物質を調べるための方法としては、トゲウオ成魚のメスを用いて、3週間、化学物質あるいは環境水を曝露して、本来オスが営巣の際に分泌する接着タンパク質(スピギン)の腎臓での発現を調べる、あるいは、メダカのメスを用いて、3〜4週間の時間をかけて、オスの二次性徴の特徴である尻鰭の乳頭状突起の形成を調べるしか方法がありませんでした。欧州では生物試験は、孵化直後から餌を食べだすまでの短期間に実験を終わらせることが求められています。研究グループは、男性ホルモンに応答して迅速にモニタリングが可能となるバイオモニタリングシステムを構築することを検討しました。

 

【研究の成果】

 研究グループは、小型で飼いやすく、遺伝子操作が可能なことから、魚の中でもメダカを用いた男性ホルモンのモニタリングシステムの確立を目指しました。メダカは女性ホルモン作用を示す化学物質の検出についてもバイオモニタリングで使われています。研究グループは、男性ホルモンを検出するセンサーとして、トゲウオのスピギンという遺伝子の働きを調節するDNA領域を採用しました。トゲウオのオスでは、男性ホルモンに応答してオス特有の営巣行動に必要な接着タンパク質(スピギン)の遺伝子の働きが腎臓にてONになります。“トゲウオのスピギン遺伝子を調節するDNA領域”と、“クラゲの緑色蛍光タンパク質GFPの遺伝子”をつなぎ、メダカに遺伝子導入することで、男性ホルモンの存在に応答して腎臓が緑色の蛍光を発するバイオモニタリングメダカを作り出すことに成功しました。

 

 このメダカのふ化直後の稚魚に男性ホルモンを暴露すると、GFPが作られ緑色の蛍光を発しました(暴露から5日以内で蛍光を検知できます)。加えて、抗男性ホルモン作用を示す農薬を暴露することで、蛍光強度が拮抗的に減少しました。このことから、GFPの蛍光強度によって、男性ホルモン/抗男性ホルモン作用を示す物質の存在を検出することが可能となりました。

 

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図2:

今回開発したバイオモニタリングメダカのふ化直後の稚魚に、男性ホルモンの一種の合成アンドロゲンを暴露するとGFPの発現が誘導され、腎臓が緑色に光った。この発現は抗男性ホルモン作用を示す農薬を暴露することで低下した。緑色の光を測定することで、環境水中の男性ホルモン(アンドロゲン)および抗男性ホルモン作用を示す科学物質のスクリーニングを行うことができる。

 

【本研究の意義と今後の展開】

 自然環境中には人間の生活とともに放出された人工的な化学物質が数多く存在します。これらの化学物質の中には、生物の体内に取り込まれて性ホルモン様作用あるいは抗性ホルモン様作用を示し、「環境ホルモン」などと呼ばれるものもあります。従来の試験法では、トゲウオ成魚あるいは、メダカ成魚を用いた長期的なモニタリングが必要でした。成魚を使わず、かつより短期間で男性ホルモン/抗男性ホルモンを示す化学物質の有無を判断できる試験系の開発が求められてきました。今回開発したバイオモニタリングメダカを用いた試験法により、ふ化直後の稚魚を用いて、少量の試験水の暴露で迅速かつ簡便に評価することが可能となると期待されています。

 

【掲載誌情報】

Environmental Science & Technology(エンバイロメンタル サイエンス テクノロジー)

2014, 48 (18), pp 10919–10928

論文タイトル:

“Rapid Fluorescent Detection of (Anti)androgens with spiggin-gfp Medaka”

著者: Anthony Sébillot, Pauliina Damdimopoulou, Yukiko Ogino, Petra Spirhanzlova, Shinichi Miyagawa, David Du Pasquier, Nora Mouatassim, Taisen Iguchi, Gregory F. Lemkine, Barbara A. Demeneix and Andrew J. Tindall

 

【用語解説】

注1)トゲウオのオスの営巣行動と接着タンパク質(スピギン)

トゲウオは、繁殖期にオスが水底に巣を作るという生態を示す。

オスは巣を作る際に、粘液性の接着タンパク、「スピギン」という分子を腎臓で合成、分泌することが知られていたが、近年、スピギンが男性ホルモンによって合成されることが明らかとなった。

 

【研究グループ】

本研究は、WatchFrog社と岡崎統合バイオサイエンスセンター・基礎生物学研究所・分子環境生物学研究部門の共同研究として実施されました。

 

【研究サポート】

本研究は、文部科学省科学研究費助成事業、総合研究大学院大学学融合プロジェクトおよび環境省基盤研究のサポートを受けて行われました。

 

【本研究に関するお問い合わせ先】

岡崎統合バイオサイエンスセンター・基礎生物学研究所

分子環境生物学研究部門

教授 井口 泰泉(イグチ タイセン)

TEL: 0564-59-5235(研究室)

E-mail: taisen@nibb.ac.jp

 

【報道担当】

基礎生物学研究所 広報室

TEL: 0564-55-7628

FAX: 0564-55-7597

E-mail: press@nibb.ac.jp