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2014年08月05日
生殖細胞にオスとメスの違いを生み出す新たな仕組み

 基礎生物学研究所 生殖遺伝学研究室の田中実准教授と総合研究大学院大学 大学院生の西村俊哉らの研究グループは、精子や卵の元となるメダカの生殖細胞には、身体全体の性が決まる前の早い時期から、細胞の増殖能がオスとメスで異なることを示し、それに関与する遺伝子を見つけました。また、このようなオスとメスの違い(性差)は性決定遺伝子による仕組みとは別の仕組みで生じていました。メダカ属の魚は性を決める遺伝子のしくみが多様に進化していることが知られており、これらの現象は、性決定の仕組みの進化の一断面を表していると考えられます。この成果は7月30日に生物学専門雑誌Developmentにて発表されました。

 

【研究の背景】

 次世代を生み出すために不可欠な卵や精子は、始原生殖細胞と呼ばれる細胞から生じます。研究グループは、始原生殖細胞から卵や精子が作られる仕組みを、メダカを用いて調べてきました。

 ヒトやメダカの身体は、卵と精子が受精してからしばらくはオスかメスかのどちらにもなれるように作られていきます。もし受精卵がY染色体という性染色体をもっていると、そのY染色体にある性を決める遺伝子(性決定遺伝子)が生殖腺(卵巣や精巣の元の器官)で働き始め、身体全体がオスになります。性決定遺伝子が働かないとメスの身体になっていきます。成熟すると生殖腺の中で卵か精子かが作られる訳ですが、これらをつくりだす元の細胞(始原生殖細胞)は生殖腺とは別の場所で、生殖腺ができるより早く身体の中に出現します。そして移動をして形成中の生殖腺へと入り込みます。生殖細胞は、生殖腺の性分化の影響を受けてはじめて、卵になるか精子になるかの選択を開始すると思われてきました。

 

【研究の成果】

 研究グループはメダカを用いて、始原生殖細胞で発現する遺伝子の1つに、オスとメスとでは発現に違いがあることを見いだし、この遺伝子をSdgcと名付けました。(図1)。Sdgc遺伝子の発現はオスになる個体の始原生殖細胞で高く、メスになる個体では低いことが明らかになりました。

 また、始原生殖細胞を単離培養してみると、オスから単離した始原生殖細胞と、メスから単離した始原生殖細胞とでは分裂頻度に差があることが判りました(図2)。そしてこの違いは、まわりの細胞の影響ではなく、始原生殖細胞によって自律的に生み出されることも判りました(図1、2)。Sdgcの機能を人為的に抑制あるいは亢進させてみると分裂頻度に変化が生じることから、Sdgc機能と性差を示す細胞特性とは関係があることが明らかとなりました。なお、Sdgc遺伝子の機能を抑制しても、その後の精子や卵の形成には大きな影響を与えませんでした。

 

 

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図1. Sdgcは体細胞の影響ではなくオスになる始原生殖細胞(XY)で自律的に発現が上昇する

生殖腺形成前(stage 30)のメダカ胚の模式図。この時期、始原生殖細胞(緑)は生殖腺(赤)に到達しておらず、腸の側方に位置している。B. in situ hybridization によるSdgcの発現。Sdgcは始原生殖細胞(点線、紫のシグナル)で発現しており、メスになる胚(XX)に比べオスになる胚(XY)で強く発現している。C. 定量PCRによるSdgcの発現レベル。Sdgcは体細胞の性には関係なく、生殖細胞がオス(XY)であると発現が2倍以上上昇する。

 

 

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図2.オスとメスの始原生殖細胞の挙動の違い

始原生殖細胞をセルソーターにより単離し、体細胞と共培養を行うと、体細胞の性とは無関係にオスになる生殖細胞(XY)の分裂頻度が高い。

 

 

 次にこの始原生殖細胞におけるSdgc遺伝子の発現量の性差はどうして生じるのかを調べました。オスになる個体の生殖細胞にはY染色体があります。性決定遺伝子は生殖腺で発現すると言われてきましたが、もしかすると生殖腺に入る前の始原生殖細胞でも発現し、それがSdgc遺伝子の発現性差をもたらしているかも知れないと調べてみると、実際、性決定遺伝子はオスになる始原生殖細胞でも発現していることが判りました(図3A)。ところが予想に反し、始原生殖細胞での性決定遺伝子を人為的に抑制してもSdgc遺伝子の発現性差には影響がありませんでした(図3B)。このことはSdgc遺伝子の発現性差は性決定遺伝子によるものではなく、Y染色体に関係する別の仕組みでもたらされていることを示唆しています(図4)。

 

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図3. Sdgcの発現は性決定遺伝子の制御を受けていない。

A. 性決定遺伝子(紫のシグナル)はオスになる始原生殖細胞(緑)で発現している。下段は上段点線領域の拡大図。B. 性決定遺伝子(DMY/dmrt1bY)の発現を抑制しても、Sdgcの発現レベルは変化しない。

 

 

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図4. 本研究のまとめ

生殖細胞の性分化は、生殖腺形成後、性決定遺伝子、体細胞の影響を受けて起こると考えられて来た。本研究では生殖腺形成前の始原生殖細胞に性差があることを見いだし、その性差は性決定遺伝子ではなく、Y染色体依存的に、そして細胞自律的に生じることを明らかにした。

 

 

 以上のように今回の結果は、メダカにおいて、始原生殖細胞には生殖腺に入る前の段階で、すでに性差があることを明らかにしました。そしてメダカのように性決定遺伝子によって性が決まる動物であっても、細胞は性決定遺伝子とは別のY染色体に依存した仕組みによって自律的に性差を示すことを示しました(図4)。このことは細胞レベルでみるとオスとメスの違いを生み出す仕組みは多様であることを示唆しています。

 

 メダカは種によって性決定遺伝子が異なり、進化上次々に性決定遺伝子が変わっていったことが知られています。現在の性決定遺伝子による仕組みとは別の仕組みによって細胞が性差を示しうることは、性決定の仕組みの進化の一断面を表しているのかもしれません。

 

【掲載誌情報】

Development

2014年7月30日付けでオンライン先行掲載


”Analysis of a novel gene, Sdgc, reveals sex chromosome–dependent differences of medaka germ cells prior to gonad formation.

 

著者:Toshiya Nishimura, Amaury Herpin, Tetsuaki Kimura, Ikuyo Hara, Toshihiro Kawasaki, Shuhei Nakamura, Yasuhiro Yamamoto, Taro L. Saito, Jun Yoshimura, Shinichi Morishita, Tatsuya Tsukahara, Satoru Kobayashi, Kiyoshi Naruse, Shuji Shigenobu, Noriyoshi Sakai, Manfred Schartl, Minoru Tanaka

 

【研究グループ】

本研究は、基礎生物学研究所の田中実准教授と総合研究大学院大学大学院生西村俊哉らが中心となって、IBBPセンターの木村哲晃博士、バイオリソース研究室の成瀬清博士と原郁代氏、発生遺伝学研究部門の小林悟博士、生物機能センターの重信秀治博士、ドイツヴュルツブルグ大学の ハーピン博士とシャートル博士、東京大学大学院理学研究科生物科学専攻の塚原達也博士、東京大学大学院新領域創成科学研究科情報生命科学専攻の斉藤太郎博士、吉村潤博士、森下真一博士、国立遺伝学研究所小型魚類開発研究室の河崎敏広博士、酒井則良博士との共同研究として行われました。

 

【研究サポート】

本研究は文部科学省科学研究費補助金のサポートを受けて行われました。

 

【本件に関するお問い合わせ先】

基礎生物学研究所 生殖遺伝学研究室

准教授: 田中 実 (タナカ ミノル)

〒444-8787 愛知県岡崎市明大寺町字東山5−1

Tel: 0564-59-5851

E-mail: mtanaka@nibb.ac.jp

ホームページ http://www.nibb.ac.jp/reprogenetics/

 

【報道担当】

基礎生物学研究所 広報室

Tel: 0564-55-7628

Fax: 0564-55-7597

E-mail: press@nibb.ac.jp