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2014年05月02日
精子幹細胞の知られざる性質が明らかに ~幹細胞は異なる状態を繰り返し行き来する~

 ほ乳動物の精子幹細胞の実体は、これまで40年以上の長きにわたり、謎に包まれていました。今回、基礎生物学研究所の原健士朗助教と吉田松生教授の研究グループは、英国ケンブリッジ大学、京都大学、神戸大学、理化学研究所、東北大学との共同研究により、マウスをモデルとして、精巣の中の生きた精子幹細胞の知られざる性質を突き止めました。この成果は、5月2日に米科学雑誌Cell Stem Cell(セルステムセル)に掲載されました。

 

【研究の背景】

 精子は、父から子へ遺伝情報を伝える重要な細胞です。大人の精巣では、毎日多数の精子が長期間作り続けられます。この精子形成を支えるおおもとの細胞を「精子幹細胞」と呼びます。精子幹細胞が枯渇してしまうと、精子が作られずに不妊の原因になります。従って、精子幹細胞の実体を知ることは、基礎生物学のみならず医学的見地からも重要な課題です。

 精子になる前の未分化な細胞(精原細胞)は、1つ1つの細胞がバラバラに分かれた「As細胞」と、2個以上の細胞が繋がった「合胞体」という異なるタイプの細胞種に分類されます。これまで、「精子幹細胞は、ずっとAs細胞であり続ける」と考えるAsモデルが広く支持されてきました(図1A)。1971年に提唱されたこの定説は、固定標本の観察に基づいて、精子幹細胞の性質を推定したものでした。これを検証するには、生きた状態のAs細胞や合胞体を解析する必要がありましたが、当時の技術では困難でした。

 これに対し、近年、本研究グループは、緑色蛍光タンパク質(GFP)を利用した精巣ライブイメージング法を開発し、マウス精巣の中の生きた精原細胞の観察を可能にしました。しかし、それでもなお、実際におおもとの幹細胞として機能する、最も未分化な精原細胞の観察には成功していませんでした。本研究では、独自の技術をさらに改良して、精巣の中の生きたAs細胞と合胞体のふるまいを観察し、精子幹細胞の性質を改めて問い直しました。

 

【研究の成果】

 今回の研究の結果、定説となっていたAsモデルと異なる精子幹細胞の性質が明らかになりました(図1)。まず、蛍光標識した精原細胞を数日間観察し続けたところ、「As細胞」が細胞分裂する時には、ほぼ全ての場合「合胞体」になること(図2)、一方、「合胞体」は細胞分裂に匹敵するくらいの高い頻度でバラバラに断片化して、新たな「As細胞」が生まれること(図3)を発見しました。次いで、延べ8000時間を超えるライブイメージング映像から精原細胞の挙動をまとめたところ、「As細胞」と「合胞体」は、細胞分裂と断片化によってお互いの状態を行き来していることが示されました。さらに、数理モデル解析によって、1年以上続くマウス精子形成は、ライブイメージングで観察された「As細胞と合胞体の細胞分裂と断片化」の繰り返しによって支えられていることが強く示唆されました。以上の結果から、「精子幹細胞は、タイプの異なる細胞(As細胞と合胞体)がお互いの状態を繰り返し行き来しながら、どちらも区別なく幹細胞として機能する」という新説を提唱しました(図1B)

 

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図1 本研究が提唱する精子幹細胞モデル

(A)1971年にHuckinsとOakbergによって提唱された古典的Asモデル。1つ1つバラバラになっているAs細胞のみが幹細胞で、合胞体になると幹細胞の能力を失う。As細胞からAs細胞が生み出されることで、幹細胞はずっとAs細胞であり続ける。(B)本研究の提唱する新モデル。かたちの異なるAs細胞と合胞体がともに区別なく幹細胞として働く。幹細胞はお互いの状態を繰り返し行き来する。

 

 

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図2「As細胞」が細胞分裂して2つの細胞が繋がったままの「合胞体」になる様子


 

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図3「合胞体(白矢頭)」がバラバラに断片化して、「As細胞(赤矢頭)」がうまれる様子

【本研究の意義と今後の展開】

 本研究は、マウスをモデルとして、これまで誰も知り得なかった精子幹細胞の性質を明らかにしたものです。本成果を基盤として、今後、ヒトをはじめ他のほ乳動物の精子幹細胞の実体が解明され、将来的に男性不妊の原因究明や治療薬の開発などに貢献することが期待されます。

 

【掲載誌情報】

Cell Stem Cell(セルステムセル)

論文タイトル: Mouse Spermatogenic Stem Cells Continually Interconvert between Equipotent Singly Isolated and Syncytial States

著者: Kenshiro Hara, Toshinori Nakagawa, Hideki Enomoto, Mikiko Suzuki, Masayuki Yamamoto, Benjamin D. Simons*, Shosei Yoshida*

*責任著者

 

【研究サポート】

本研究は、文部科学省科学研究費助成事業およびウェルカムトラスト等の支援を受けて行われました。本研究グループは、基礎生物学研究所ボトムアップ型国際共同研究事業がサポートしています。

 

【本研究に関するお問い合わせ先】

基礎生物学研究所 生殖細胞研究部門

教授:吉田 松生 (ヨシダ ショウセイ)

TEL: 0564-59-5865

E-mail: shosei@nibb.ac.jp

 

【報道担当】

基礎生物学研究所 広報室

TEL: 0564-55-7628

FAX: 0564-55-7597

E-mail: press@nibb.ac.jp