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2013年12月09日
メダカは動きで仲間を引き寄せる

 メダカは「メダカの学校」と呼ばれるように、群れをつくって泳ぐことが知られています。基礎生物学研究所(神経生理学研究室)の中易知大研究員と渡辺英治准教授は、バーチャルリアリティ技術を活用した行動解析実験により、メダカは、動きによって仲間を引き寄せていることを明らかにしました。この成果により、動物行動学において重要な研究テーマの一つである群れ形成に、動きという新たな研究の視点の重要性が示されました。本研究成果は比較認知科学の専門誌Animal Cognitionに掲載されました。

 

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群泳するメダカ

 

[本研究の背景]

 人間を含めて多くの動物は、群れや集団を作って生活しています。群れや集団は、天敵への防御・生殖活動の効率化・社会的役割分担など、計り知れないメリットを構成員に与えます。水中で生活する魚類も例外ではありません。水族館で多種多様な魚が混泳する大水槽を観察すると、イワシやブリやマグロの群泳に気づかれることでしょう。身近な小川に目を向ければ、メダカが群れをつくって生活しています。

 ごく一部の例外を除けば、群れや集団は同一種で形成されます。ブリの群れにマグロが混ざることはありませんし、イワシの群れにブリが混泳することもありません。ではどのようにして、一緒に泳いでいる相手が自分と同種であると判断しているのでしょうか。従来の研究では、色やサイズや形などの形態学的情報に基づき、群れる相手が選択されることが報告されてきました。しかし今回の研究では、解析の困難さによって研究対象とされてこなかった動物の動きに着目しました。渡辺准教授の研究グループは、前回までの研究において、水槽周囲にコンピュータディスプレイを配置して、計算機によって自在に操作可能な魚の視覚的疑似環境を構築することに成功しています。このシステムを利用すると、視覚刺激の動きを容易に制御することができます。その結果、メダカが餌となる動物プランクトンを捕獲する際、動きの特徴から生き餌であることを判別していることが明らかになりました。では、魚が群れの仲間を識別する場合も、動きの情報は重要な役割を果たしているのでしょうか。

 

 今回の研究では、メダカのバイオロジカルモーション刺激が作成されました。バイオロジカルモーション刺激とは、生物を少数の点の動きのみで表現したものです。ヒトの認知機構を研究していた心理物理学者のJohanssonが1973年に発表して以来、少数の点の動きだけで知覚対象としているものが人であることはもちろんのこと、その人が何をしているのか、性別や大凡の年齢までをも判別できるという事実が明らかにされました。点の動きを止めると、それが人であるかどうかも判別できなくなるわけですから、運動情報から非常に高度な認知ができるのが分かります。はたして体長わずか4センチほどのメダカの脳にもこのような高度な能力は備わっているのでしょうか。

 

[本研究の成果]

 今回、神経生理学研究室の中易知大研究員と渡辺英治准教授は、バイオロジカルモーション刺激を魚類では世界で初めて作成し、行動解析実験に応用しました。このバイオロジカルモーション刺激は、自由運動をするメダカを元にして電子計算機によって作成されました(図1を参照)。

 メダカ頭部の先端に1点、メダカの尾ビレの先端に1点を割り当て、残りの4点は体軸上に均等に割り当てられました。そして、バイオロジカルモーション刺激をディスプレイに映し出し、メダカに見せて行動を観察する実験を行いました(図2)。その結果、わずか6点で構成されるバイオロジカルモーション刺激の動きは、メダカを強く引きつけることが明らかになりました。

 さらに、この結果がただの動く点に反応したのではなく、群れるべき相手として選択されたのかどうかを確かめるため、バイオロジカルモーション刺激を操作し、メダカの動きとしては不自然になる比較刺激を作成しました。用意した比較刺激は、【1】6点が直線で固定されていて魚の体軸情報が欠如した刺激が1種、【2】ビデオフレームレートを落とした刺激(元刺激が60フレーム/秒のところを15フレーム/秒、10フレーム/秒、5フレーム/秒、1フレーム/秒の4種)、【3】スピードを変化させた刺激(2倍速、1.5倍速の高速化した刺激を2種、0.5倍速、0.25倍速の低速化した刺激を2種の計4種)、【4】逆再生をした刺激が1種、【5】ヒトのバイオロジカルモーション刺激が1種、の計5系統11種類です。これだけ幅広くパラメータを変更したにも関わらず、いずれの刺激も元の刺激よりもメダカを引きつける効果を減弱させました(図3を参照)。【1】からは体軸運動情報の重要性が、【2】からは情報量の重要性が示唆されます。【3】ではスピードを上げても下げても効果は減少することから、仲間として認知するための適切なスピードが存在していることが示唆されます。また【4】の逆再生刺激も重要な知見を与えてくれます。逆再生刺激と順再生刺激では、体軸運動も情報量も速度も周波数特性もすべて同一だからです。異なるのは時系列情報だけです。もし単なる動く点にメダカが反応しているだけなら、逆再生刺激と順再生刺激との差は説明できません。さらには【5】からは、他種(この場合はヒト)が作り出す動きにはメダカを強く引きつける効力がないことが分かります。以上のことから、メダカが群れの仲間を認知するのに動きの情報を利用していること、そして同種の自然な動きを知覚する能力が極めて高いことが示唆されました。

 

[成果の意義]

 従来、魚類は群れ相手の選択の際に色やサイズや形などの形態学的情報を利用することが知られていましたが、本研究により運動情報の重要性が示唆されました。メダカがバイオロジカルモーション刺激を群れの仲間あるいは生殖相手とみなし寄って行ったのか、それとも縄張りを荒らす相手とみなし攻撃を行ったのかなど、その具体的な要因についてはさらなる研究の余地はありますが、本成果は魚類にも高度に抽象化された刺激を視覚的に認知する能力が備わっており、このような高度な認知能力が従来考えられてきたよりも進化的に広く保存されていることを示唆しています。今回の発見は、動物の視覚認知メカニズムの研究の発展に大いに貢献すると考えられます。

 

[今後の展望]

 今回の研究で得られた知見は、動物の動きを表現することのできる数理モデル化への第一歩となるでしょう。あるいは動物が群れを作る原理となる数理アルゴリズムの解明も期待出来ます。人の認知メカニズムとの共通性が明らかになってきたことで、このような数理モデルやアルゴリズムの適用範囲は計り知れません。人の社会や経済を深く理解する上で、重要な知見となるでしょう。また魚を引きつけることのできる数理モデルを釣りの疑似餌に応用すれば、新たな漁法やスポーツフィッシングの世界が拡がることでしょう。電子計算機を用いた動物行動実験は、生命科学の新しい地平を切り拓いていきます。

 

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[図1]バイオロジカルモーション刺激の作成手順

行動解析システムによりメダカの運動パターンを座標データに変換した後(左図)、それをコンピュータプログラミングによりPCディスプレイ上に再現することで刺激を作成(右図)。

 

 

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[図2]メダカにバイオロジカルモーション刺激を見せる実験

 

 

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[図3]5つの実験の結果

多くのパラメータを網羅的に操作し、メダカの動きとしては不自然となる刺激を呈示すると、メダカを引き寄せる効果が減弱。メダカは同種の自然な動きに敏感に反応。

 

[掲載誌情報]

Animal Cognition(アニマルコグニション)

論文タイトル: “Biological motion stimuli are attractive to medaka fish”

著者: Tomohiro Nakayasu and Eiji Watanabe

 

[研究グループ]

本研究は基礎生物学研究所の渡辺英治准教授と中易知大研究員により行われました。

 

[本件に関するお問い合わせ先]

基礎生物学研究所 神経生理学研究室

准教授 渡辺 英治(ワタナベ エイジ)

Tel: 0564-59-5595(研究室)

E-mail: eiji@nibb.ac.jp

 

[報道担当]

基礎生物学研究所 広報室

Tel: 0564-55-7628

Tax:0564-55-7597

E-mail: press@nibb.ac.jp